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コラム

デジタル分野でも変わらないこと

2019.10.10

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

前回のコラムではIT業界の方が見る建築業界ついて書いてもらいましたが同じ業界内、もっ
と言うと同じ会社内でも立場や分野によって考え方が変わってくることが多いと思います。
例えば総務、経理、営業、技術の溝は業種に限らずよくある話なのではないでしょうか。
これは誰が良い悪いではなく物事に対する優先順位の違いなどが原因であり第三者から見れ
ばどちらの言い分も間違っていないなあ、となったりするものです。

設計フェーズと施工フェーズで(ましてや維持管理フェーズでは)必要な情報が異なると思い
ますが、BIMでも扱うべき情報や入力パラメーターなどが異なるため、ワンデータで運用する
のが難しいと言われることがよくあります。
これはそもそも各フェーズで必要な情報が何なのかを整理もせずにできるはずもなく、BIMの
理解を深めないままとりあえず導入してきた弊害がでているのではないでしょうか。
扱うべき情報の整理もされていない状態では、情報を管理するBIMをうまく運用できないのは
当然です。
本来、設計であれ施工であれ必要な情報が何なのかがわかっていなければまともな建物は建た
なかったはずなのですが、デジタルの功罪として、コンピューターに理解させるためには明確
な値を入れる必要があり、情報が整理されるということは入力する値が決まっているというこ
とになります。
値を決めるというのは責任が伴うのである一定の立場以上の人にしか権限がないことが多く、
権限を持っている人がBIM入力をしていないような場合は(多くの場合そうでしょう)、確認が
できるまでは作業が止まることになります。
やりながら値を決めていく場面も必要だとは思いますが事前に情報が整理されていればどの
段階でどの値が必要かがわかるはずです。
情報の管理というのは一つの職能であり片手間でできるようなものではないので、そこにリ
ソースを割くだけで解決することも多い気がします。

コンピュテーショナルデザインといわれるような業務をしていると、情報の整理が直接作業時
間に影響することを実感することが多くなります。
そもそもこういった依頼が来るときはデザインをした本人しか理解ができない(場合によ
は本人ですら理解していない)ような複雑な形状や手作業で膨大な時間がかかるような内容が
多いので、それを解決するためには条件の整理が必須になり、それがそのままプログラムの設
計となるため、整理ができていないときにはエラーが起きたり、うまくいっても処理に時間が
かかったりします。

こんなことを書いておきながら私も情報を整理することが苦手で、これは誰かに伝えようとし
たときに簡潔に伝えられないことが物語っています。
先日、今年のArchi Futureのセミナーでも登壇されるコンピュテーショナルデザインスタジオ
ATLVの杉原さんとお話しする機会があったのですが、杉原さんも基本的にはプロジェクトを
複数人で作業することは少ないと言っていました。
エンジニアリングでは各々得意分野や手法の違いがあり、共存や共有が難しいとも言っていま
した。
これは半分言い訳ですが、汎用的にできるのは細かいロジックの部分で、毎回異なる条件に合
わせてどのようにそれらのロジックを組み合わせるか、またはロジックを考え出すかは経験に
よる部分が多く、(完全に言い訳ですが)私が特段説明が下手なわけではなく、考え方を伝える
ことがそれだけ難しいということです。

このように私個人でも業務における立場によって、情報を整理すればできると言ってみたり、
伝えるのは難しいと言ってみたりするものです。
建築におけるデジタルテクノロジーの活用について考えていたら、状況によって考え方も変わ
るので、正しいことはひとつと思い込まず自分とは異なる意見にも耳を傾けるべき、と当たり
前のことにたどり着いてしまいました。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長