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コラム

もっとBIMマネージャーを! 
~ライフサイクルマネジメント時代のBIM

2019.10.17

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

プロジェクトへのBIMの導入が決まり、どんなツールを使うかを検討し、スケジュールや規模
に応じたメンバーが選定されチームの形が見えてきて、さてBIMマネージャーは誰?となって、「えーと……」、という話を色々な所で耳にする。
日本のBIM元年と言われる2009年から10年。設計や施工を円滑に進めるためのツールとして、
BIMは珍しいものではなくなっている。しかし、業務フローを改善するマネジメント手法とし
てのBIMについては、現状では普及期の手前だという印象を受ける。勿論それぞれのBIM導入
事例では様々な業務フロー改善やノウハウの蓄積がされているはずなのだが、誰もが利用でき
るBIMの標準的なマネジメント手法が確立・共有されていると言い切れるだろうか?プロジェ
クトを始動する段階になってもBIMマネージャーがなかなか見つからないという話はこのよう
な状況と無関係でないだろう。昨今のBIMの普及を考えると、体感的にはもっとBIMマネー
ジャーがたくさんいても不思議ではないはずなのだが……。

今のところ国内にBIMマネジャ資格制度は存在していない。したが誰でもBIMマネー
ジャーを名乗ることができるはずだ。しかし現実にはBIMマネージャーと呼ばれる人はわずか
である。職能が確立されていないということも理由の一つだろうが、それ以上にBIMマネー
ジャーに求められる知識とスキルが高すぎるというイメージがあるのではないだろうか。
国内にBIMマネージャーの役割を体系的に解説している文献や資料は多くない。それでもいく
つかの情報や、海外で最近増えてきたBIMマネージャーに関する書籍を紐解くと、その業務内
容と役割が垣間見える。
筆者の理解なので正しいかどうかは別として、BIMマネージャーの役割には、BIMの導入目的
と範囲の設定、メンバー選定と役割の設定によるBIMチームの編成、ツールの選定とトレーニ
ング計画の立案、ツール間でのデータのインターオペラビリティの確保、プロジェクトにおけ
るデータフローの策定、意思決定や合意形成手順の整理、発注者への情報提供手順の計画、そ
してそれらをプロジェクトにおいて実施管理し問題があれば解決していく、といったものが挙
げられる。改めて考えてみるまでもなくなかなか大変な立場である。安易にBIMマネャー
などと名乗ると後で痛い目にあう、と尻込みをしてしまうのも理解できなくはない。

とはいえ、プロジェクトにBIMを導入し確実に遂行するためにはBIMマネージャーの存在は必
要不可欠である。BIMのプロジェクトがいくつも同時に進行しているのに、同一人物がいくつ
ものプロジェクトでBIMマネージャーを兼任しているといった状況では、うまくいくものもう
まくいかなくなるのではないだろうか。
国土交通省の建築BIM推進会議の始動も含め2019年という年は国内のBIMの重要なターニン
グポイントだと思う。中でも重要なのは、建てるためだけのBIMから建物ライフサイクルマネ
ジメントのためのBIMという方向性への変化と、発注者がBIMの導入によるメリットを享受で
きる環境を実現する必要がある、という方針が明確になった点だろう。このような流れの中で
は、BIMは成り行きで導入・実施していくものではなく、適正にマネジメントするものだと捉
えるべきである。そのためにBIMマネージャーの重要性を理解し、国内のBIMマネージャーを
もっと増やしていくことが喫緊の課題だと考える。

BIMマネージャーの役割と求められるスキルについては、現在様々な領域で検討されている
BIMガイドラインの整備と並行し、明文化を進める必要がある。これまでの事例を通して蓄積
されたノウハウと知見を基にすれば、建設のためのBIMマネージャーの職能を確立することは
難しいことではない。しかし、建物ライフサイクルマネジメントのためのBIMマネージャーに
はこれまでとは異なる視点が求められる。
筆者は決してBIMマネージャーを名乗れるような十分なスキルと経験を持ち合わせているわけ
ではないのだが、設計監理とファシリティマネジメントの両方の視点からBIMを見続けてきた
立場として、建物ライフサイクルマネジメントのためのBIMマネージャーが持つべき心得につ
いて少し考えてみたい。

建物ライフサイクルマネジメントでBIMを活用する上で、BIMマネージャーは受注側での建物
情報の交換はもとより、発注者の立場で受注者との情報共有の橋渡しをも担う。発注者がどの
ような建物情報を必要としているか、竣工後にBIMモデルをどのように活用するかを具体的に
検討するためには、ファシリティマネジメントの基本的な知識を身に着けておく必要があるだ
ろう。
建物を建てる側の視点は、建設対象の建物のみになりがちである。しかし、発注者の多くは複
数の建物を所有または使用し、アセットやCRE・PRE、または事業ツールとして捉えている。
それぞれの建物のBIMの導入の有無に関わらず、複数の建物の情報を扱う必要性を意識した上
でプロジェクトのBIMの導入と推進を図ることが求められる。竣工時に建物を引き渡したら終
わりではなく、その後数十年にわたって建物が使用され、そのための建物情報としてBIMモデ
ルが使われることも意識すべきだろう。竣工をゴールとせず、発注者やユーザーが建物を建て
使用する目的を理解し、そのために建物データのあり方を提示することが求められる。
BIMは建物データマネジメントの手段であると認知されている。実際にデータマネジメントを
実践するためには、データの適正な分類と整理が欠かせない。そのためにデータベースの基本
的な知識やデータベースの設計と構築のスキルを持つことが望ましい。今後はプロジェクトの
始動に先立ちBIM発注者情報要件(EIR:Employer’s Information Requirements)の作成が欠
かせなくなるだろう。その時BIMマネージャーはBIM実行計画(BEP:BIM Execution Plan)だ
けでなく、EIRの作成にも深くかかわることが予想できる。

こうして改めて考えると、BIMマネージャーは正にスーパーマンのような能力が求められてい
るようだ。確かにそうかもしれないが、難しく考え過ぎず発注者が求める情報を的確に理解し、
提供する手順を適正に整理して実施を主導することがBIMマネージャーの価値だと考えてみて
はいかがだろうか。プロジェクトでのBIM導入が成功するように、如何に関係者が共感できる
わかりやすいビジョンとゴールを設定できるかも、BIMマネージャーの腕の見せ所だと言える
だろう。
BIMマネージャーを増やしていくには、必要な知識やスキルを容易に身につけることができる
ような仕組みや文献の整備が不可欠だが、BIMマネージャーとしての経験を積み重ねることが
できる機会の提供も重要だろう。
もっとBIMマネージャーを!。これから数年でBIMマネージャー育成の仕組みを確立し、BIM
導入プロジェクトで多くのBIMマネジャが当たり前に活躍できるような環境を作ることが、
国内のBIM拡大における最も重要な課題の一つだと考えている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部サービス推進部エンジニアリング部門設計情報管理センター 担当部長