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コラム

モジュラー化

2015.09.03

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

「アーキテクチャ(architecture)」という用語を辞書で引くと、3つのカテゴリーで説明が
ある*1。1つ目は建築の用語で、建築、建築学、建築様式、構造を指す。2つ目はもう少し広
い分野の用語として、構造、構成、組織という意味を持つ。3つ目はコンピューターやソフト
ウエアの構成に限定して、コンピューターを機能面から見たときの構成方式、記憶装置のアド
レス方式,入出力装置の構成方式などとなる。ものづくり経営学では2つ目の意味で「アーキ
テクチャ」という言葉を用いている。

ものづくり経営学では、製品を、製品の基本的機能を決めるような技術を体現したコンポーネ
ント(部品=構成要素)のまとまりとして捉え、この構成要素間の繋ぎ方を、製品アーキテク
チャとして定義する。藤本隆宏を中心とした日本のものづくり経営研究者によれば、製品アー
キテクチャは、モジュラー/インテグラルというシステムを構成する構成要素群の相互関係の
濃淡で分析されるという*2。また、効率化や合理化の観点から、製品アーキテクチャは、その
製品の開発当初はインテグラル型で、製品への理解・問題解決・技術進化が進むにつれてモジュ
ラー化が進む傾向があるという。モジュラー化とは、構成要素群の相互関係が密から粗になる
現象である。

例えば、半導体などを製造する精密機器工場のクリーンルームは、1970年代の開発当初は建
築の空間全体をクリーン化していたため、設備機械・材料や表面処理・施工技術などの擦り合
わせ的調整を繰り返してクリーンルームの高度化が進められた。しかし2000年頃に製造装置
メーカーが開発した局所クリーン化技術の採用が広まると、クリーンルームを構成する要素相
互の関係がモジュラー化していく*3。

このようなインテグラルからモジュラー化へという製品アーキテクチャの変化は、2000年代
頃から普及したSI(スケルトン・インフィル)分離の考え方に基づいて開発された躯体技術を
採用した集合住宅にも見ることができる。SI対応の躯体技術を採用した集合住宅は、そうでな
い時代の集合住宅と比較して水回り部分に対する床躯体の段差や梁躯体に対するユニットバス
やシステムキッチンの梁欠きなどの検討が少ないというように、意匠・構造・設備相互の関係
がモジュラー化している。

インテグラルとモジュラー、どちらの製品アーキテクチャに比較優位があるというわけではな
いし、建築ではビルディングタイプや発注者の要求に応じて多様な製品アーキテクチャがある。
しかし、製品アーキテクチャのタイプに適応した仕事の進め方をしなければ、プロジェクトの
効率化は望めない。ポスト2020年を見据え、ビルディングタイプや発注者の要求に応じて製品
アーキテクチャを分析した上で構成要素群の相互関係の解決を集中させ、それをBIMで効率的
に検討し、その後の実施設計は専門家が同時進行的に進めるといった建築生産のプロセスを検
討しても良い時期に差し掛かっているのではないだろうか。
 

*1  大辞林 第三版(三省堂)
*2  加えて、オープン/クローズドというモジュールの性質に対する社会的コンセンサスの
   程度も重要なファクターである
*3  モジュラー化には揺り戻しの性質もあり、大スパン化や制振など製品に対する新しく
   高度な要求が生じれば、その製品アーキテクチャはインテグラルへと逆戻りする

参考文献
藤本隆宏,野城智也,安藤正雄,吉田敏(編)「建築ものづくり論-Architecture as “Architecture”-」,有斐閣(2015)

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授