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コラム

変貌する薄暮の東京シルエット

2019.10.24

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

バブル崩壊中の1992年、彰国社が発行していた今は懐かしい建築文化4月号の特集を六鹿
正治氏と北山恒氏との3人で担当し“東京近未来風景”と題して纏めた。東京をいくつかの地域
に分け、担当したエリアをデザインサーベイの視点で巡り、その後に東京の近未来風景を3人
で語っている。小生は、ジャイロセンサーで位置確認を行う初期のナビを搭載したHONDAレ
ジェンドクーペで、渋谷・青山エリアを巡った。余談だがGPS以前のジャイロ式のこのナビ
は、走行位置が大きくずれることも度々あり、東京湾のど真ん中を走っていることもあった。
ゴキブリの神経と情報キャッチ能力の研究から生まれたと開発者から聞かされたが当時の最
新技術。カメラマンが風景よりも珍しいナビに夢中になり何カトかを撮っていたのを覚えて
いる。ナビに端を発し、今では、ICT、AIなどとの連動によりコネクテッドカーとして、車の
概念が変化している。話を戻す。28年前のこの時は、これほど多くの超高層が建築されると
前述のサーベ後も想像もしていなかった。当時は風害問題などもあり超高層無用論を唱
えた建築家もいた。しかし再開発と超高層化とがセットとなり首都圏の整備がその後、急
激に進んだが、1997年に京都議定書、2015年のパリ協定が採択され、地球環境問題とサス
ティナブル化の重要性が世界の多くの人々の意識変革を生み建築デザインでも大きな変化を
見せている。この環境での新国立競技場はザハ・ハディド案ではなく木質系との他の構造材
とのハイブリド建築が採用され耳目を集めた。今後も地球環境改善の一助として超高層を含
め木質系の建築が増えると想定されている。
今、現在、首都圏は、オリンピック・パラリンピック関連のスタジアムなどの建築や東急、
JR東日本、三井、森、三菱などのグループが中心となり各地域の再開発で鎬を削っている。
結果、渋谷を始め、虎ノ門・麻布台、日本橋、東京駅、横浜など、各エリアで超高層ビルの計
画や設計の話題に事欠かない。果たして今の東京には、いくつの超高層がありこれ以上に必
要なのだろうか。超高層について少し考察してみる。

ウィキペディアによれば、現在、首都圏で1番高い建築は、スカイツリーと東京タワーを除く
と六本木の高さ248.1メートルのミッドタウン・タワーだという。日本の高層建築の高さ上位
25棟のうち16棟は東京都にある。加え、高さ200メートル以上の建築は国内に2018年現在で
38棟ありそのうち都内には24棟所在し東京に偏在しているという。150m以上のビルの数
は香港、ニューヨーク、ドバイ、深圳、上海、シカゴに次いで東京。その棟数は、179棟だと
いう。無用論が意味を成さない棟数である。日本での本格的な超高層建築は、霞が関ビルディ
ングに端を発している。今では温暖化対策などの環境問題を踏まえ、木造超高層建築の構想
計画も発表されている。因みに東京タワーの構造は、手計算。足場は木造だったという。今で
は考えられないが、先人の努力には大変な苦労があったのだろう。今では、超高層の風や熱量、
省エネ、自然環境対応で、CAD・BIMや構造シミュレーションや解析などが可能となり、設計
の質の向上、環境対策、デザインの多様性、スケジュールの短縮などに対応でき、コンピュ
テーションが大きな貢献を果たしていることに異論はないだろう。
2023年、東京・港区の虎ノ門・麻布台エリアに「日本一の超高層ビル」が誕生する。森ビル
の社長は「虎ノ門・麻布台プロジェクトは、これまでの経験で培ったすべてを注ぎ込んだ“ヒ
ルズの未来形”を形にする」と語っている。総事業費は六本木ヒルズの倍以上のおよそ
5,800億円にのぼりメインエリアには、地上64階建ての超高層ビルを建設する予定だという。
高さはなんと330メートルで2023年3月の竣工時には、大阪市の「あべのハルカス」を抜い
て「日本一高いビル」になるらしい。それに引き続く計画として、三菱地所が東京駅前に
390メートルの超高層ビル計画を進め、2027年の完成を目指しているという。

片や現在85.4mで世界一高い木造高層ビルがノルウェーのブルムンダルという小さな町
で「ミョーストーネット」の名称のもと、今年の3月に完成し世界中の人々が視察に訪れる注
目の木造複合建築となっている。総工費は約5000万ユーロ=約61億円。因みに世界一高い樹
木は、アメリカにあるレッドウッドで、115.61mだという。
日本では、町田市の玉川学園が、敷地内に大林組による9階建ての中高層純木造学生寮を建設
するプロジェクトに着手した。全構造体は日本の伝統的な木造軸組工法だという。教育施設
では、日本初の国内最大級の木造学生寮となる。夢の構想案としては、同じく大林組のプロ
ジェクトチームが、10万kmのタワー「2050年エレベーターで宇宙へ」の完成を想定し夢の
構想案を提案している。併せ、住友林業は2041年の創業350周年を記念して高さ350メー
トルを目標とした建築面積、6,500平方メートル、総工費は約6,000億円になると試算してい
る木質系超高層建築を構想している。店舗オフィスホテル、住宅として利用する想定で技
術開発を進めるという。

最後に晴れた夕暮れ時にゆりかもめで臨海副都心に向かう車窓から海面を隔てて、都心に沈
む夕日での超高層群の逆光シルエトが浮かぶ。20数年前にこの光景に遭遇し思わず唸った
記憶がある。今は、多くの超高層が更に加わっているのだろう。
遭遇すると言えば、最近、発見された2例目の恒星間彗星が、太陽系外から時速15万キロと
いう超高速で飛来中という。この12月に最も太陽に接近。葉巻型で、もし地球に激突する
と…。一方超深海のマリアナ海溝の最深底の1万1千メトルに旅をした人類は長い歴史上
で、たった5人だという。多くのレアメタルが眠るという深海。見たいが、同様に、この東京
の100年後の景色がどうなっているのか、宇宙からの飛翔物体で、一瞬にして東京が廃墟と
なっているのか…。コンピュテーションの能力を上手く使い人類の壮大なる夢と素晴らしい
地球環境の基で、残したい建築は長く残し、次の世代に引き継ぐ歴史として調和を図りながら
持続可能な人類の歴史を期待したい。

さて、いよいよ“Archi Future 2019”が25日に開催を迎えます。今年はニューヨークで、アー
トから建築デザインまで幅広く活躍中のDiller Scofidio+Renfro PartnerのCharles Renfro氏
を大成建設のご厚意により、お招きすることが出来ました。アップトゥデートで、直接の言葉
で示唆に富む話がお聞きできると期待している。

是非、御参加の皆様に良きヒントとアドバンテージが得られるようにと念願しています。


松家 克 氏

ARX建築研究所 代表