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コラム

BIM-MEP(AUS)の10年の取組みから
学ぶべきこと②〜ファブ連携〜

2019.11.05

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

前回に引き続き、オーストラリアのメルボルンで開催された「Construction Innovation
2019 Forum」に参加してきて、興味深かった話題についてお伝えしたいと思います。

2回目は、ジェネリックからファブリケーションへの連携に関する話題です。

今回、AMCAや、BIM-MEPAUSの中心メンバーである、A.G.Coombsという設備施工会社を訪
問する機会を得、プレファブリケーション工場や、施工現場を見学することができました。
A.G.Coombsは、1945年に設立し、最初は給排水設備工事の施工会社から始まり、その後、
電気設備や消火設備、そして空調設備や建築関連工事と領域を広げてきた、オーストラリア最
大手の設備施工会社です。最近では、BIM-MEPAUSでの標準化において中心的な役割を担って
きたこともあり、BIMのコンサルタント業務や、アセットマネージメント/ファシリティーマ
ネージメント業務へと領域を拡張し、建物のライフサイクル全般でのサービス提供を行なって
いるとのことでした。社員は750人程度の会社ですが、メルボルンでは自前で加工工場やアッ
センブル工場も持っていて、設備のダクトや配管のライザーユニットなどを工場で製造してい
て、今回その状況を実際に見学することもできました。

前回お伝えしたようにオーストラリア ではBIM-MEPAUSが設計用のジェネリックオブジェク
トと、施工用のファブリケーションパーツを体系的に整備してダイレクトにデータ変換可能な
環境が実現できていることもあり、設計のBIMデータを施工で活用し、さらにダクトや配管加
工までをデジタルデータで繋いでいるプロジェクトが幾つも出てきていました。
そして、プレファブ工場でダクトや配管のライザーユニットや、横引きのユニットを組み立て
て、現場にトレーラーで搬入して据え付けるところまでを実現していました。
この流れは、トップランナーのA.G.Coombsに限った話ではなく、2番手グループの施工会社
も追従してきているようで「Construction Innovation 2019 Forum」の講演でもプレファ
ブリケーションの事例紹介が多数見受けられました。


これが実現できているのは、BIM-MEPAUSの標準化によるところが大きいようです。ここで肝
になるのが、業界標準でファブリケーションパーツをどのように揃えていくかなのですが、
オーストラリアでは、今まで幾つもラインナップがあったダクトや配管材料、部品などを厳選
して統一化することで、データ変換を容易にし、製造工程の効率化についても一役買っている
とのことでした。これも、他国に比べて市場がコンパクトであるため、業界としてまとまりや
すい風土にあったから実現できたようです。
日本の実情は、海外とは比較にならない程に部材数が無数にあり、機器の仕様も細かくライン
ナップされ、ダクトや配管材の加工寸法も業者によってちょっとずつ違っていたりして、統一
には程遠い状況にあります。設備の生産効率を上げるためにも、BIMによる標準化が必要なこ
のタイミングで、設備部材の断捨離もあわせて進めていく必要がありそうです。

オーストラリアの実情を見ていると、設計から施工に引き継ぐべきデジタルデータは、ダクト
加工や配管加工、メーカー機器など製造データに繋ぐところまでを見据えないと、本当のBIM
の効果を発揮できないと痛感しました。現場の総合図や施工図に繋げることをゴールにするの
ではなく、その先の製造用のファブリケーションパーツへの連携を実現するべきであることを、
再認識した限りです。

ただ、オーストラリアのやり方をそのまま日本に持ち込んでうまくいくかと言うと、それは違
う気がしています。オーストラリアの施工現場を見た率直な感想として、日本の現場と大きく
異なり、地震が少ないからか梁せいが小さく十分な梁下空間が確保されていて、オーストラリ
アでは空間調整に大して労力を掛ける必要はなく設計者でもある程度納まり調整できそうな気
がしました。
日本では圧倒的にコーディネーションが複雑で、構造部材が大きく梁貫通も多用する必要があ
り、施工性も踏まえたルート調整を高精度に実現する必要に迫られています。そのため、設計
のBIMモデルそのままではなく、施工段階で最終調整した上でファブリケーションパーツに連
携するという、もうひと手間をかける必要があると思っています。ファブリケーションパーツ
の整備と同時に、この仕組みづくりも急ぐ必要があります。

ここ5年くらいオーストラリアでは建設ラッシュが続いているようで、街のあちこちでクレー
ンが建っている光景が目に入ってきました。今後5年以上はこの状況が継続するのではないか
とのことで、職人の確保が難しい状況もあり、プレファブリケーションがますます増えてきて
いるようです。職人が現地で施工しなくて良いので、安全性が高く、工期短縮にも繋がること
と、そもそも良い建物を作りたいというモチベーションがプレファブリケーションを推し進め
ているようです。

これは日本の状況にも当てはまることだと思います。設備部材を断捨離した上で加工寸法も含
めて業界で統一して、ジェネリックからファブリケーションへの連携を、日本でも実現すべき
ではないでしょうか。

吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長