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コラム

「BIM的世界」の拡張とプロジェクト推進の為の
方法論を求めて―その2

2019.11.12

パラメトリック・ボイス         スターツコーポレーション 関戸博高

このコラムでは、経営的視点から「BIM的世界」について継続的に書いてきた。IT技術の視点
からだけではなく「人組織」の側から「BIM的世界」を見ることが大切だと思ているからだ
コラムを書き出して約1年だがこの間で「BIM的世界」も随分と変わてきた。おそらくその
変化はBIM情報が大量に生み出されるようになてきたことが大きな要因のひとつと思われる
その大量の情報の再利用が最近では例えば建設会社によるBIMテンプレートの販売といた形
で、一つのビジネスになろうとしているようだ。
一方でこうした現象は、次のような社会的課題を生み出すだろう。建設業界全体のBIM利用率
は、未だ高まっていないというデータが国土交通省から発表されている。しかし、社会的に重
要だったり影響力の大きな建築物においては積極的にBIMが活用されているはずだ。つまりは
設計事務所にしろ建設会社にしろ、そういった建築物に関わっている「大手」といわれる企業
がBIMデータを独占するという状況が生まれ始めているのではないだろうか。こうした現場で
大量生産される情報は、当然社会的に影響を及ぼす。要するに今後、大手企業と中小企業、大
都市と地方中小都市という古典的な格差が、「BIM的世界」というデジタルな世界にも生じる
だろう。

こんなことを考えていた折、今月初旬にドイツから連邦内務省の建設部門の副大臣、建築研究
所、大学の研究者の方々が BIMに関する情報交換のためスターツに来社され、お互いの現状を
共有した。先方のプレゼンテーションで印象的だったのは、日本におけるBIMの利用拡大のた
めの取組みでは未だあまり実行されていない、いわば社会的取組みであった。そもそもの戦略
(業界主導の雰囲気が色濃い日本に戦略があるかはさておいて)が異なっているのだが、ドイ
ツでは、冒頭で述べたデジタル・デバイド(格差)が社会的に生じないよう、資格制度と職能
教育、次世代育成のための大学教育と学問的追求までを射程に入れている。これについては
Hannover大学の教授が説明をしてくれたのだが、特に注目したのは、大手企業と中小企業と
に分けて取組み方をブレークダウンし、かつ担当官庁も国だけでなく州・市レベルの関わりま
で制度化が計画されている点である。2030年に向けての取組みでこれから実現のステプを
手堅く踏んでいくことが感じられた。

 ドイツ側のプレゼンテーション

 ドイツ側のプレゼンテーション


 BIM生産設計部を案内する様子

 BIM生産設計部を案内する様子


さて、前号では「BIM的世界」において必要な新しい事業や新サービスの開発プロセスを、通
常の現実世界で行われる問題解決の事例をもとに、課題の発見から始めるリーダーの行動(プ
ロセス)と重ね合わせて書いた。
これらは未だビジネスとしては未成熟なため、往々にして<新技術の導入=新サービスの開
発>と思いがちである。もちろんそうなる場合もあるが、その仕事の本質が技術紹介ではなく、
課題のソリューション(成果)として機能しているかが重要だ。そうでなければ明治以来の欧
米技術の翻訳輸入競争の繰り返しになってしまう。「ICTの発達したこの時代にその差を強調
してみても…」と言うなかれ。コピペしやすい時代ゆえ、どのソリューションにおいてもオリ
ジナリティにこそ価値があるのだ。そしてそのオリジナリティにこそリーダーの行動(プロセ
ス)の質が反映されるはずだ。

前号では、スターツがインドで具現化しようとしている不動産仲介のネットワーク構築を事例
として、プロジェクトを成功へと導くリーダーの行動パターンを以下のように書いた。
 1.自ら動く(現場を知らなくては始まらない)
 2.現場で変化を肌で感じとる(課題の発見)
 3.方法の気付きと論理化、それの具体化を試みるスピード
 4.上手く行っていれば良いが、そうでなければ失敗する前に手を打つ。その為に現地確認
    する(途中は任せても、肝心な時には自らの確認は必須)
 5.ビジョンとリーダーシップ(夢の共有と意欲)
 6.ビジョンに基づき具体的に手を打つ

9月下旬にこのネットワーク開設1周年記念のセレモニーをインドのグルガオンで行なった。各
地から30社50名程の人が集まり、不動産賃貸情報サイトGRBNも少しずつだが機能しはじめた。
また、このネットワーク戦略の先にあるインド富裕層とのビジネスも芽が出始めた。この結果
は別稿で書き継いでゆきたい。

      インドでの会合の様子

      インドでの会合の様子


      インドでの集合写真

      インドでの集合写真


ここでは2つめの事例として、トルコへの免震技術移転というもうひとつのビジネス開発に触
れておきたい。
免震の普及は、1995年の阪神・淡路大震災以来の私のライフワークである。
スターツで手掛ける免震建築は、今では契約ベースの累計で500棟近くなっており、これは日
本の免震建築数の約10%に相当する。20年近く前から、いつの日にか日本の免震技術を海外
の地震国へ輸出したいと考えていたので、当時取得した「高床免震」の特許は、同時に台湾で
も取得したりした。
トルコは日本と同じように地震国として有名である。国中に断層があり1999年のイズミット
地震では約17,000人の方々が亡くなている。現在は大型の病院は免震化が義務付けられる
ようになった。免震の普及に関する状況は、丁度日本の阪神・淡路大震災後に似ている。
私は3年前から技術移転の可能性を追いかけて毎年トルコに行き、「①自ら動き(現場を知ら
なくては始まらない)②現場で変化を肌で感じとる(課題の発見)」を実行してきた。さらに
「免震建築は一定規模以上になると、通常の耐震建築より価格が下がる」という日本での経験
と計算結果を持て(③方法の気付きと論理化それの具体化を試みるスピド)今年も先月
トルコへ行って来た。そしてやっとイスタンブールで、免震のオフィスビルを建てたいという
企業経営者に会うことができた。今、その具体化のためのチーム作りを始めている。「日本人
+トルコ人技術者のチーム」だ。

残念だが紙幅も尽きたので、この続きも別稿にて書くことにしたい。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長