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コラム

ブロックチェーンの可能性

2019.12.10

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

今年のArchi Futureにおいてブロックチェーンに関する特別対談がありました。
ブロックチェーンはビットコインとともに(どちらかというとネガティブな)ニュースなどで
言葉としては認識されていますが、現状で建築と何か関係あるのだろうかと思っている方も多
いのではないかと思います。

私も専門的なことは理解していませんが、簡単にブロックチェーンの特徴を言うと、これまで
のように誰かが管理するのではなくてみんなで管理すれば改ざんしにくくて信用ある情報にな
るという事です。
そのために情報そのものに履歴を追加していくのですが、その履歴をブロックというかたまり
にして保有しているみんなのチェーンに追加するので、ブロックチェーンという名前になって
います(細かい部分はともかくざっくりいうとこんな感じだと思います)。

この仕組みは履歴の信憑性(非改ざん性)が必要になるところでは有効なため、例えば分野を
問わず取引に応じた支払いの場面では活用されていくと思われます。

現在、東京大学にi-Constructionシステム学寄付講座というものが開設されています。
ここで清水建設から専任の受託研究員として参加をして研究を行っている松下文哉さんが研究
テーマとしてブロックチェーンを活用していたので、お話をさせていただきました。

松下さんはもともと海外、国内の土木現場にいたのですが、ある日研究員になることになり、
右も左もわからない中、研究室にポツンと席が用意されていて何を研究するかというところか
ら始めたそうです。
ちなみに私と松下さんの出会いは研究テーマを探し迷走している中でたまたま紹介され、私の
知っている何人かの方の取り組みをヒアリングさせていただいたところからです(その際にお
世話になった方々には改めてお礼を申し上げます)。

テーマを探る中で、施工現場での経験から施工時の情報共有に注目し測量データなどがクラウ
ドを介してビジュアライズ、承認するプロセスを構築できれば、そこで様々な作業が可能にな
ると考え、いわゆるCDE(Common Data Environment)に注目しました。
ただ、考えを進める中で、工事から維持管理の過程で関わるプレイヤーが大きく変わるなかで
見ず知らずの人を信用するというのは難しく、それを一つの基盤で行うためには莫大な費用を
かけて大掛かりなシステムを構築する必要があり、研究として現実的ではないと感じていまし
た。そんな中で出会ったのがブロックチェーンでした。

実際大手ゼネコンの現場では協力業者やサプライチェーンは実績に基づく信頼はされているの
ですが、ブロックチェーンに注目したポイントは、信頼性の担保から短期間での支払いにつな
げる事や、新規参入業者への対応性、サプライチェーンが確立されていない中小企業への適応
です。

このようなシステムが構築できれば、例えば様々な建設テクノロジーの導入により検査頻度を
上げ、都度支払うことも可能になると思われます(建設における支払い問題は参入企業のハー
ドルともなっている)。

ブロックチェーンは非改ざん性を担保する仕組みとして使用し、出来形管理から支払いまでの
ロジックはSmart Contractというプログラムをブロックチェーンに乗せることでプログラム
そのものも非改ざん性を担保するシステムを構築しています。また入力の間違いを検査するた
めにブロックチェーンに乗ったデータを検査するシステムも構築し検査結果も残すようにして
います。

では、情報はブロックチェーンだけに置くかというと、現状ブロックチェーン固有の問題とし
て、解析に時間がかかってしまうためデータベースに書き込み維持管理の際はこちらを参照す
ることにしています(ブロックチェーンはデータベースの担保になる)。

建設に関わるデータというものは膨大な量になるのですが、これがデジタルデータになってき
ている中で、データマネジメントは非常に重要で、特に一社が持ち続けることがない場合その
履歴や信憑性というものは大きな課題になってくると思います。
これは業界全体としてとらえるべき問題で、例えば関係各社の情報をまとめデータマネジメン
トの在り方を構築していくような会社を共同でつくるようなことをしなければいけないタイミ
ングに来ていると思います。

松下さんは未経験から1年足らずでここまでの研究をしています。
実務と研究の差はありますが、おそらくこのような内容を会話できる場というのはまだまだ少
なく、特に業界全体の基盤となるようなシステムやプラットフォームの構築に取り組んでいる
方は皆さん孤独の中戦っているのではないのでしょうか。
Archi Futureのような場が生まれてきた種をみんなで育てていけるような場になっていって欲
しいと思います。

今回書いた内容は私が聞けた話のほんの一部です。
資料はi-Constructionシステム学のHPに載っていますので、一度見ていただいて興味のある方
は情報を共有してみてください。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長