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コラム

【BIMの話】BIMを審査するには

2020.01.30

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

栃木県にはすこし不思議なところがあり、私の名刺を栃木県の方にお出しすると「こくざわ」
さん、と読まれることがあります。早乙女さんという方も「そうとめ」さん、と読まれたり、
「阿久津さん」「宇賀神さん」が他県に比べてとても多かったり……という栃木トリビアが出
てくるのは、妻が以前しばらく宇都宮に住んでいてよく訪問していたからです。餃子と焼きそ
ばの話は尽きないが、レモン牛乳の話は思ったほどでもなかったりします。そんな栃木県に最
近また別なご縁がありました。
 
2019年11月26日、マロニエBIM建築コンペティションの最終公開審査会および表彰式が
開催されました。基調講演・鼎談と合わせてとちぎ建築プロジェクト2019として開催される
このイベントは今回で第6回となり、栃木から全国へ発信する求心力の強いイベントとなって
きています。私はそのイベントで審査員を拝命し、コンペの企画段階から議論に参加させてい
ただきました。審査結果および作品のプレゼンテーション動画はこちらのページから閲覧でき
ます。いずれも厳しい時間制約を感じさせない出来栄えです。ぜひ御覧ください。

今年のコンペは、世界中から8万人の観戦者を集める自転車ロードレースのジャパンカップを
題材とし、「宇都宮市森林公園サイクルロードセンター」を設計するというものでした。設計
条件としての面積は800㎡、制限時間は72時間。
 
これまで学生のみの参加であったコンペに今年からは社会人参加も受け付けることとなりまし
た。働き方改革の流れを受けた参加方法についても重く受け止め、72時間が休日と平日両方に
かかるように開催日を選定、仕事として取り組まれる方もそうでない方も作業時間が確保でき
ることを今回の設定としました。またこれまでARCHICADでの提出となっていた要件も見直
され、使用ソフトは自由、IFCで提出すること、という条件としました。

このあたり、コンペの設定としては非常に悩みました。各ソフトのネイティブファイルで提出
してほしい気持ちは山々ですが、バージョン違いの問題なども含めて管理が非常に難しい。
IFCはある程度までその問題をクリアできるけれど、図面などを含められないし、表現力の面
でもモデルだけでは物寂しい。また、変換エラーでデータが欠落する現象はまま見られ、その
試行錯誤に限られた72時間(しかもおそらく提出前のドタバタの時間)が取られてしまうこ
とは本質とは言えない、という意見もありました。結局、画像を5枚まで添付可能、という形
にし表現力で勝負する方にもIFC形式で不利にならないようにまたデタが欠けてもなんら
かの方法でそのことに気付けるように、としました。
 
プレゼンテーションボードでなく画像提出、という形をとるコンペは増えています。静的な提
出物を横並びで審査していくうえではフォーマットが揃っていると確かに見やすいのですが、
データを見ていくという審査方法では流れ自体が異なります。紙の定型レイアウトにしても良
いが、一枚絵で勝負してもいいという自由度はあって良いのではないかと考えました。

しかしそもそも何に悩んだかと言えば、そもそも私がその場にいること自体です。最初にお話
をいただいたとき、ヨコミゾマコト氏を審査委員長にお迎えし、諸先生方が委員に並ぶと聞い
て相当にいろいろ悩みました。お引き受けすることにした後もあれこれ考えた挙句、私はとく
にBIMの技術的な面を考察する方法を考えて評価に加えてゆくのはどうだろう、と思うに至り
ました。
審査に際しては評価軸が複数必要です。いろいろ取っ替え引っ替えしてみた結果、以下の3つ
としました。
 
1.[コンセプト]設計コンセプトとBIMの技術的利点にシナジーがあるか。
2.[スキル]設計的な所作の根拠をモデルによって検証しているか。
3.[ツール]データの作られ方にアンバランスな点がないか。
 
「心・技・体」のフレームワークを借りてきた形です。これらによって、BIMを普段から使っ
ているかデータの構成が理解されているかなど、いわば「使いこなし」という観点での評価
を試みました。
 
1の「コンセプト」は提案のコンセプトと「BIMでつくる」という与件がマッチしているかを
評価します。たとえば、平面的な面積調整から立案したであろう提案と、大胆な形態探索を試
みている提案は比較的容易に相対評価が可能です。案の総合的な評価に入る前に、まずは着想
という観点からBIMに対しての親しみ度合いを探ります。
 
2の「スキル」では、BIM環境・コンピュテーショナルなデザイン手法の活かし方を捉えよう
と試みています。たとえば「より明るくなるように」という設計方針があったとき、照度のシ
ミュレーションとまではいかずとも、方位と日時を設定した太陽光の簡易レンダリングなどを
してそのコンセプトが裏打ちされているか。単にモデルがあるというだけでなく、モデルに
よってコンセプトを裏打ちする試みがあればその点を評価したい、と考えました。

3の「ツル」はかなりチャレンジングですが提出されたIFCデータをデータベースに変換し、
そこから取得されたデータから読み取るという手法をとっています。IFCモデルのデータベー
スへの変換は、市販ソフトウエアを使う以外にBIMserverというオープンソースソフトウエア
によても可能です。今回はこちらを利用しました。サーバー立ち上げとデータ変換はiScape
村上栄基さんによるものです。データの可視化にはTableauを用いました。
 
当初の期待は、提出データ群はいくつかのクラスタに分かれ、外れ値を返すデータに何らかの
問題点があることが浮き彫りになる、というものでした。しかし、提出された案を様々な方法
で見てみましたが、IFCデータだけから確定的に言えることはあまり多くありませんでした。

 図1 提出者別IfcEntityの数と内訳(オレンジ色が主要な建築要素)

 図1 提出者別IfcEntityの数と内訳(オレンジ色が主要な建築要素)


たとえば図1は、提出されたデータに含まれる要素の数が多い順に並べたものです。同じお題、
同じ制限時間でも要素の数には実に40倍ほども開いていることがまずわかります。ではしか
し、要素数が多ければ多いほど提案密度が濃いと言い切れるかというとそうではありません。
建築を構成する主要な部材、つまり柱やスラブ、扉や窓などをオレンジ色でハイライトしてみ
ると、それ以外が多くを占めているモデルもたくさんあります。それらの場合、曲面などが分
割されて要素が増えているのか、周辺敷地など提案以外の要素が多いのかなどは、これだけで
はわかりません。また逆に、800㎡の提案で柱などの構造要素が数千を占めるというのも直感
的に多い気がします。これは実際にそういう提案なのか、あるいは柱で何でも作ってしまうタ
イプの人なのか(ARCHICADだとそういう使い方をする人もいるようです)これまた提案自
体に立ち返って見てみる必要があります。
 

 図2 選択したカテゴリの要素数

 図2 選択したカテゴリの要素数


一方、ある程度データから判断できる内容もあります。今回のコンペでは内部空間を求めてい
るので、部屋やゾーンにあたる「IfcSpace」が何らか定義されているはずです。また部屋が
あれば扉があることが自然です(すべてカーテンウォールという場合もあるので断定はできま
せんが)。こうしたことから、IfcSpaceもIfcDoorも0、あるいは極めて少ないという場合、
モデリングが時間切れだった可能性が考えられます。
 
これらの観点は、モデルを見る上でのガイドラインとして機能します。階段や手すりなどの要
素数が目立って多いのはなぜか、家具が大量に配置されているのはどの部分か、全体の要素数
が少ないが作り込み度合いはどうかなど、あたかも面接の前に履歴書を見るように、そのモデ
ルに問いかけたい箇所をサジェストしてくれました。
 
以上のような観点を個別に点数に置き換え、総合評価も加えたものが私の一次審査結果です。
他の先生方のご意見もとりまとめた上で、全体としての審査結果と相成りました。
 
こうしたデータの使い方も例外ではないな、と思います。人が違えば見る世界は違い、データ
はそのような視点の切り替えをサポートしてくれます。データさえあれば大丈夫、というレベ
ルに到達するには相当な試行錯誤を要しますが、データと現物を照らし合わせれば得られる示
唆は拡大する。それこそが、私が他の先生方と並んで審査という大役を果たす上では必要なこ
とかなと考えました。
 
それらを踏まえた上で2次審査では、あえてIFCやBIMという仕組みの限界にチャレンジした
案を選出させていただきました。形態的にIFCでの扱いが難しい案、属性などのようにコンペ
提案としての説明が難しい案にしかも限られた時間で取り組んだことについて、コンセプト
はきちんと届いていますというメッセージを発することができたかなと考えています。

委員のお一人、佐野吉彦さんが書かれているように、典型的な車社会である栃木県でサイクル
ロードレースに着眼した今回のテーマは、今後のモビリティの多様化について考える契機とし
ても意義深いものがあります。
 
しかし私がここまで書いて思い出したのは、運転中にスターバックスに入ろうとしたらオート
バックスだったというU字工事の漫才ネタでありそういえばレモン牛乳もU字工事が広めた
のだったなあなどということであったりします。県民性のステレオタイプは一度定着するとな
かなか抜けません。

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部   アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ 課長