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コラム

広島を「ヒロシマBIMゼミ」の街から
「ヒロシマBIMプロジェクト」の街に!

2020.05.19

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

例年とは大きく異なるGWが終わり、4月から延期となっていた新学期が静かにスタートし始
めました。まだまだコロナウィルスの終息までは長い道のりになりそうですがこれまでの働
き方を見直しながらポストコロナの時代をどう生きていくかについてそれぞれが考える時期
なのかなと思っています。

こんなコロナウィルスが来るとも知らず、広島で『ヒロシマBIMゼミ』をやってる我々は今年
から新たな試みをスタートさせました。今回はその活動についてご紹介させていただきます。

広島では2017年より「広島をBIMの街に!」というキャチフレズとともに2ヶ月に1度
のペースで『ヒロシマBIMゼミ』を開催してきました。広島でBIMを使って仕事する人たちの
横の繋がりを作ることで、共有できる情報は共有しながら、地域としてBIMに移行していく姿
を目指してきました。この『ヒロシマBIMゼミ』については、これまでのコラムでも話題に挙
げてきましたので、そちらをご覧いただけたらと思います。

「広島をBIMの街に!」
「ヒロシマBIMゼミ2019年総括」

『ヒロシマBIMゼミ』を始めた当初から、この活動の目標の1つである「BIMを活かした横断
的なコラボレンの誘発」の機会を探ってきましたが3年経てもなかなか糸口が見えず、
まずは自分たちでやろうということで、『ヒロシマBIMゼミ』への参加者に声をかけ『ヒロシ
マBIMプロジェクト』を立ち上げました。

一方日本全体のBIMに視野を広げると昨年は1つの転換期として捉えることができるでしょ
う。その1番の理由は、国交省が中心となった「建築BIM推進会議」が設置されたことです。
「建築BIM推進会議」は官民が一体となってBIMの活用を推進し、建築物の生産プロセス及び
維持管理における生産性向上を図るため、BIM/CIM推進委員会の下に建築分野における検討
WGとして設置されました。「BIM元年」と呼ばれる2009年以降、様々な企業でBIMへの移行
が進められてきましたが、国が主導する形でこういった活動が本格化されるのは初めてのこと
です。

現在、建築BIM推進会議の中ではガイドラインの作成などが進んでいますが、そのガイドライ
ンに沿った仕事の進め方に変えていくなど、今後は単にBIMを導入するだけでなく、BIMを最
大限活かす「新しい働き方」を実践していく必要があると感じています。建築BIM推進会議に
近い大手組織設計事務所や大手ゼネコン会社では、そういう意識のもとで今後様々な変化が起
こるのではないかと推測しますが、地方の中小企業にとってはなかなか自分のこととして捉え
るには荷が重いテーマだと感じます。そういった意味でも、『ヒロシマBIMゼミ』で形成され
たコミュニティーを土台に、私たちが実践してみて、BIMをはじめとする最先端の情報技術を
活用しながら、中小企業が協働する「新しい働き方」を探っていきたいと考えています。大手
ゼネコンなどが牽引するBIMによる建築業界のアップデートとは異なる、中小企業の未来の可
能性を示す活動を目指しています。

『ヒロシマBIMプロジクト』は3つのフェーズからなる3年間のプロジェクトですェーズ1
ではまず仮想プロジクトを立ち上げ今年6月までの期間中に[企画]から[実施設計後半]まで
を進め、「設計者が作ったBIMモデルから施工者による見積作成」を目標に進めています。次
にフェズ2では、今年7月から来年6月までの1年間の間に「一貫BIMモデルを用いた建物の
完成」を目標に[企画]から[引渡し]までを目指します。最後のフェズ3では「維持管理を見
据えたBIMモデルの作成と清掃業務の実証」を焦点に、[企画]から[維持管理]までを横断的に
繋げていく計画です。

 2020年の始まりとともにスタートし、6ヶ月間、12ヶ月間、18ヶ月間の3つのフェーズで進め
 ていく計画。絶賛クライアント募集中です。

 2020年の始まりとともにスタートし、6ヶ月間、12ヶ月間、18ヶ月間の3つのフェーズで進め
 ていく計画。絶賛クライアント募集中です。


フェーズ1を始めるにあたり、『ヒロシマBIMゼミ』の主催者である、田原泰浩(田原泰浩建築
設計事務所)と長谷川統一(杉田三郎建築設計事務所)に私杉田宗(広島工業大学)に加え、平賀
幸壮さん(下岸建設株式会社)と、藤田慎之輔さん(北九州市立大学国際環境工学部 / 株式会社
DN-Archi)、そして杉田宗研究室の学生2名を加えたチームを結成しました。フェーズ2以降で
はこのチームを拡大させていく予定です。

 フェーズ1のメンバー。左から杉田宗(広島工業大学環境学部建築デザイン学科 准教授)、長谷川
 直人(広島工業大学環境学部建築デザイン学科杉田宗研究室B4)、長谷川統一(株式会社杉田三郎
 建築設計事務所)、藤田慎之輔(北九州市立大学国際環境工学部 講師 / 株式会社 DN-Archi 取締
 役)、平賀幸壮(下岸建設株式会社)、田原泰浩(田原泰浩建築設計事務所 代表)。

 フェーズ1のメンバー。左から杉田宗(広島工業大学環境学部建築デザイン学科 准教授)、長谷川
 直人(広島工業大学環境学部建築デザイン学科杉田宗研究室B4)、長谷川統一(株式会社杉田三郎
 建築設計事務所)、藤田慎之輔(北九州市立大学国際環境工学部 講師 / 株式会社 DN-Archi 取締
 役)、平賀幸壮(下岸建設株式会社)、田原泰浩(田原泰浩建築設計事務所 代表)。


各フェーズでは3つのテーマを掲げBIMを活用した協働を検証しながら進めていきます。また、
そのテーマにぶら下がる形で、ノウハウの整理やツールの開発を行います。このリサーチや開
発に関わる部分は、広工大の杉田宗研究室の学生たちがR&Dチームとして関わっていきます。
ェーズ1は仮想プロジクトとして杉田三郎建築設計事務所が入る建物の改築計画を立ち上
げ、以下の3つのテーマに重点をおきながら進めています。

 プロジェクトの遂行を担う実務者チームと、協働を支える研究や開発を担うR&Dチームが協力
 してプロジェクトを進めていく。

 プロジェクトの遂行を担う実務者チームと、協働を支える研究や開発を担うR&Dチームが協力
 してプロジェクトを進めていく。


 フェーズ1からフェーズ3でそれぞれ3つのテーマを設定しプロジェクトを進めている。

 フェーズ1からフェーズ3でそれぞれ3つのテーマを設定しプロジェクトを進めている。


例えば、「設計に関わる情報入力の効率化」は、BIMを本来の使い方で活用するため重要な部
分だと考えています。今後はBIMでより幅広い情報を取り扱うことが進み、様々な方法でBIM
モデルに情報を入れたり必要な情報を引き出したりすることが必要になるでしその1歩
として、普通のモデリング作業とは異なる方法で、効率よく設計に関わる情報を管理する方法
を検証します。また「異なるプラットフォームでの情報共有」は、中小企業がBIMを活かして
協働する際には最も重要になるテーマだと考えています。中小企業が集まる場合、特定のBIM
ソフトで縛りを設ける訳には行かず、どうしても異なるプラットフォームを繋げて仕事を進め
ることを考えなければいけません。完璧な情報共有は無理にしても、問題が生じる部分などを
クリアーにすることで、トラブルを回避することができますし、その部分を補うツールの開発
をすることもできると考えています。こういった部分は、なかなか誰かの領域に入っているこ
とが少なく、我々がやらないと改善していかない部分であると感じています。

プロジェクトの進捗は定期的に『ヒロシマBIMプロジェクトブログ』で発信しております。
我々が直面している課題なども赤裸々に伝えていきたいと思っておりますので、時々
ArchiFuture Webコラムの合間にご覧ください。

現在は[基本設計]から[実施設計1]に移行する段階にありますが、4月に進めていた[基本計画]
では、R&Dチームによっていくつかのツールの開発を行いました。例えば、平面でゾーニング
を検討する際には、BIMだと用途別の面積などが自動的に算出されて便利ですが、2DCADを
使って単線でスケッチする方が断然やりやすいのが現実です。結果的に2DCADでの検討と、
BIMモデルが別ものになてしまいます。その穴を埋めるためにRhinocerosとGrasshopper
を使て『平面ゾニング検討ツル』を作りました。簡単なプログラムですが1本線で平面
図を描くことで延床面積や容積率、用途別面積を算出してくれます。また、ここで描かれた平
面図をdwgで書き出せば、その線の情報をもとにRevitモデルに変換する『BIM自動モデリン
グツール』も開発しました。

これらのツールはさっそく『ヒロシマBIMプロジェクトライブラリー』で公開しています。シ
ンプルなツールではありますが、こういったツールがあればBIMにトライしてみようと思う方
もいらっしゃると思います。またGrasshopperやDynamoを使って自分のツールを作ってみ
ようという動機になるかもしれません。多くの方に活用頂き、これを土台にいろいろな展開が
生まれることが大切だと思いますので、是非ブログと合わせてご覧ください。

というわけで、コロナ禍の中『ヒロシマBIMプロジェクト』も全員リモートで進行中です。こ
れまでも『ヒロシマBIMゼミ』を通して、小さくて熱いコミュニティーこそ新しい道を切り開
くパワーを持っていると考えてきました。『ヒロシマBIMプロジェクト』はその先にある建築
を実現したいと思っています。

 プロジェクトスタート早々にコロナの感染拡大が始まり、現在はSlackでのやりとりと、2週間
 に1度のZoom会議でプロジェクトを進めている。

 プロジェクトスタート早々にコロナの感染拡大が始まり、現在はSlackでのやりとりと、2週間
 に1度のZoom会議でプロジェクトを進めている。

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授