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コラム

BIMは、うまくいかないことだらけだ

2020.05.28

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

「ものづくりは、うまくいかないことだらけだ。」

これは数年前に社員と一緒に作た『COCORO CREATION−BRAND BOOK』の冒頭の言葉だ。
当時「ものづくり」の建設会社として、どのような企業風土にすれば良いか、社員と1年かけ
て練り上げた冊子である。企業のマネジメントについては百家争鳴だが、究極的に大切なのは
社員一人ひとりの「こころ」だという考え方を基本に作られている。

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「ものづくりは、うまくいかないことだらけだ。」

ものづくりに、100点は存在しない。

だからこそ、大切なことがある。

どんな問題が起きても、
粘り強く答えを探し続ける責任感。

不可能を可能にするために
様々な領域の人を巻き込む人間力。

できない理由や事情ばかり探していないか?

図面や仕様書や技術だけで完成するほど、
ものづくりは簡単ではない。

困難なものづくりを支えるのは、
あなたの心である。

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ここでの「ものづくり」とは即物的なものだけを意味していない。「ものづくり」を「BIM」
と置き換えてみても不自然さはないだろう。

「BIMは、うまくいかないことだらけだ。」

この言葉に賛成する人は、大勢いるはずだ。建設業界ではデジタル・デバイドがかなり進み、
光が当たる側は目立つがこんな後ろ向きなつぶやきは、実際には大勢いても声なき声にしか
ならない。しかし、うまくいっていると思っている人でも、自分のBIMのレベルを改めて問わ
れた時どう答えるだろうか。その根拠の無さに「ウッ」となるのではないだろうか。

現実の「ものづくり」には数千年の歴史がある。「これだけのものを造れば合格」という社会
的な暗黙の了解点があるそれは最新の技術によて造られているからではない。誰も(社会)
が、優れた「ものづくり」の歴史的な到達点を知っているからだ。
歴史の浅い「BIM的世界」にはそれが無い。これからも当分無い。それは世界最先端の達成レ
ベルに追いつけば終わるということでもないからだ。

私は、この未達感は以下の二つの不在が原因だと思っている。
ひとつは ①「お客様」の不在、
もうひとつは ②「BIM情報インフラ構築への意志」の不在だ。

①「お客様」の不在
COCORO CREATION−BRAND BOOKからもう一文引用したい。
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「ものを売っているのではない。ものづくりを売っている。」

ものづくりとは、
プロセスの積み重ねである。

完成したもの自体ではなく、
完成まで、完成後を含めたすべての
プロセスがものづくりの価値を決める。

当たり前の努力で、満足していないか。

とことん話し尽くして、
理解しあっているか。

すべての関係者と根気強く議論し、
チームの力を限界まで引き出せたか。

すべてのプロセスで、
お客様の期待を超える。

それこそが、
COCORO CREATIONの
ものづくりである。

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この一文の「ものづくり」をBIMに置き換えるのは少し苦しい。何故だろうか。多分「BIMづ
くりを売っている」といえるほどに、BIM(情報)そのものが社会的価値を認めてもらえてい
るとは思えないからだ。従って、暗黙的了解の上で「お客様の期待を超える」という基準点は
見えてこない。
言い換えれば、今流行のデジタル・ツインと言いながら、一方は実物資産として社会的価値が
存在するが、他方は使用価値も未確定で、市場価値を決めるマーケットも作れていない。「お
客様」が生まれるための理由が無い。
ではどうすれば良いか。必要なのは「お客様」の創造だ。ドラッガーみたいだが、もう一つの
「不在」の話を先にしてからもう一度ここに戻りたい。

②「BIM情報インフラ構築への意志」の不在
確かにBIMの活用は広がりを見せている。その中で若いBIM技術者の焦燥感が深まっているの
ではないか。価値があると思って作っている情報が、例えば施工の間だけに使われて消えてい
く。ひどい時は積算に使われてそれでおしまい。国交省の『建築BIM推進会議』におけるBIM
情報の有効性も、ソフトウェア・メーカーから提供される商品の有効性も、語られ続けて来た。
しかし、足りないものがある。「BIM情報インフラ構築への意志」、そのための「お金」、そ
してそれを「誰が」やるのかだ。このインフラが無いために、情報は行き場がなく中途半端な
まま放置されている。いくら会議を重ねて、分かりやすい提言書を作っても、「自分がその
Data Conversion のインフラを作ります!」という人が現れない限り膨大な情報の廃棄が続
く。モノではないから目につかないが、大変な情報のゴミの山だ。
「BIMは、うまくいかないことだらけだ」と発言する人こそ、BIMの現状と潜在的可能性が分
かっている人なのだ。

さて本稿の結論であるが、先に話した「お客様の創造」のためには、このインフラを通じて
BIMと一般社会の情報との連携付けが必要である。金融・会計・資産評価・運輸などと情報連
携することで、BIMは社会的・経済的価値を認められるようになる。作図のためのひとつの道
具という閉じられた世界から、「お客様」にとってなくてはならない情報として、外側の世界
から認められるようになる。
ここに至って初めて「BIMはうまくいかないことだらけだ」から「お客様の期待を超える」
ことがテーマになるはずだ。

完成したもの自体ではなく、
完成まで、完成後を含めたすべての
プロセスが『BIM情報』づくりの価値を決める。

BIMのためにそう願わざるを得ない。

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追記
インフラづくりは、国や業界を頼っていられない。その為のコミュニティづくりが必要だと
思っている。これについてはまた書くつもりだが、丁度一年前、2019年5月23日付で書いた
<BIM的世界における「仮想プロジェクトラボ」のためのコンセプトワーク>を読んでいた
だけるとありがたい。

関戸 博高 氏

スターツコーポレーション エグゼクティブアドバイザー / Unique Works  代表取締役社長