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コラム

DXはデラックスではない

2020.06.30

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態解除宣言が出されてちょうど一か月が経った時点で
この原稿を書いています。当社ではテレワークの推奨は終了してはいませんが、段階的にオ
フィスに出勤しており、徐々に以前の勤務形態に戻りつつあります。混雑した電車に揺られる
通勤時間は、以前ほどの乗車率ではないとはいえ、今となってはなんとも負担に感じられます。
「職住近接」とか「定刻退社」なんて、社会人になってから考えたこともないワードが頭でち
らつく今日この頃です。
大きな社会的混乱は人の価値観に影響を与えると言われます。私の本棚には設計資料としての
建築専門雑誌が積まれていますが、2011年の東日本大震災を境に折り返して並べています。
あの日を境に携わる物件の内容自体も復興中心に変わりましたが、社会が求める「建築」の有
り様に不可逆的な変化が生じたと思っています。
私は「価値観」という言葉はいつも避けてきました。その違いを認めることは議論を無意味化
し、時としてそれを巡り争いにも発展する怖い単語だと思います。

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言以後、多くの方がオフィスではなく自宅で仕
事をする期間が長く続きましたが、通勤がなくなったこと以上に、家族と過ごす時間の重要さ
を実感した人も多いのではないでしょうか。私の中では「働き方」というより「仕事」に対す
る考え方に変化が生じるには、この2か月余りの時間は十分でした。ポスト・コロナの時代、
ライフスタイルの変化が始まっているとすれば、それは社会のニーズの変化として回りまわっ
て私たちの仕事を変えていきます。それについて語るには時期尚早の感もありますので、今回
は身近な話に戻しましょう。

このステイ・ホームの期間、みなさんはどう過ごされたでしょうか?我が家の大きな変化の
一つに通販の段ボールが増えたことがあります。そもそも店が開いてないので、買い物にも行
けず通販に頼るしかなく、嫁は「楽天」「メルカリ」、私は「Amazon」「ヤフオク」が多い
のですが、連日届く荷物を見て娘はけげんな顔をしていました。私がAmazonを多用する理由
の一つに、今では多くのeコマースサイトにもあるレコメンド機能があります。類似したユー
ザーの購入情報や私の過去の購入情報から推薦商品を自動で表示する機能ですが、単に検索時
のサジェスト機能よりも欲しいモノへリーチする場合が多いです。実店舗に行っても店員が私
の好みを理解していることはまずありませんので、Amazonが小売業界で起こしたデジタルト
ランスフォーメーション(DX)は私の中で大きな変革と言えます。
最近いろんな場所で目にするDXという単語ですが、経済産業省の「DX 推進ガイドライン」
ではDXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用
して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業
務そのものや組織プロセス企業文化風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
とあります。ふむん、曖昧な感じです。Amazonを始めとするeコマース群と現在の実店舗を
抱える小売業とは生存競争をかけた戦いだと思いますが、そんな業務改善的なレベルの話で
しょうか?

先日実家のパソコンの調子が悪いと連絡があり、結果的に買い替えを勧めて、家電量販店に
一緒にいきましたノートPCのコーナーを見てみると国産メーカーと海外メーカーと二列に
分けてあります。まだ「国産メーカーの方が安心」と思う人もいるかもしれませんが、実際に
は純粋な国内PCメーカーなんて絶滅寸前に近く意味はないですよねテレワークやテレスクー
ルのような特需の状況なので、もう少しエンドユーザー寄りの使用方法を前提とした売り方が
できるのでは、と私は思いました。「ニーズの多様化」とはよくマーケティングで聞くフレー
ズですが、現実は寡占化が進み、メーカーも製品ラインナップを絞り込んでいます。結果、売
り場に並ぶのは同じようなセグメントの商品が多く、しかもコスメまで類似したものが多いの
で、「どれを選んでも一緒だね」という結論になります。マーケティングのグラフでいう「パ
レート」と「ロングテール」でいえばパレートのヘッド部分ですね。私がマニアックな人間の
せいかもしれませんが、最早量販店では満足できる買い物ができないことを実感します。一方
でAmazonはロングテール戦略でも有名です。品揃えだけ見れば専門の実店舗の方が豊富な場
合もありますが、比較購入するには十分な品揃えでしょう。
AmazonがDXの雄として挙げられるのは単にeコマスサイト自体の出来の良さではないと
思います。私が購入先の選択肢にAmazonを入れる理由の一つは配達の速さです。ほとんどの
商品は夜に発注すると翌日には手元に届きます。最近始まった「置き配」を利用すると、家に
不在でも玄関の指定した場所に荷物を置いて写真を入れた配送報告が届きます。配達員の方と
も接触しないので感染症対策としても有効ですね。顧客中心の考え方とサービスを垂直統合し
たことがAmazonでは戦略的に成功しています。

当社でも最近社内資料に頻繁にDXという単語が出てくるようになりましたがどうもソリ
ション・ドリブンな感じがしています。先のAmazonの例ではないですが、まず戦略ありきで
あり、顧客課題ドリブンであるべきでしょう。デジタライゼーションとDXの違いは既に論じ
られていますが、既存の業務内容をデジタルに置き換える話とDXとではデジカメとインスタ
グラムほど違う話になります。ここは近視眼的に考えず、建設業が持つべき価値観、「社会へ
の貢献」「人の役に立つ」といたレベルまで一度立ち返ることで私たちが果たすべきDXの
姿が見えてくるのではないでしょうか。
前回のコラムで書いていた私の作業環境ですが、テレワークを経た現在、デスクトップワーク
ステーションとSIM入モバイルPCを捨ててミングノトPCをメインで試行中です。可搬
性も確保しつつTwinmotionもサクサクです。コスメは、まあ派手ですね。メーカー側が想定
していない使い方かもしれませんが、私にはこれがベストバランスに思えます(モバイルワー
クステーションは重いんです…)。

 ロングテールといえば恐竜の尻尾。写真はICIラボの木製フクイラプトル骨格標本。「Dinosaur
 of Digital fabrication」というタイトルで第23回木材活用コンクール部門賞を戴きました。

 ロングテールといえば恐竜の尻尾。写真はICIラボの木製フクイラプトル骨格標本。「Dinosaur
 of Digital fabrication」というタイトルで第23回木材活用コンクール部門賞を戴きました。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 ソリューション推進設計部 BIMマネージメントセンター センター長