Magazine(マガジン)

コラム

BIMはスモールスタートで

2020.07.16

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

設備でも、ようやくBIMに取り組む機運が高まってきているようである。うまく業務に取り込
めていれば良いのだが、もしかするとBIMに疲弊して離脱しかけてはいないだろうか?
 
最初からBIMに過剰な期待を抱き過ぎて、納まり調整も、負荷計算も、機器の自動選定も、荷
重・電源登録も、図面も、積算も、シミュレーション活用も、と最初からあれもこれもと欲張
り過ぎてしまって、うまくいかないとやっぱりBIMは負担が大きいと疲弊してあきらめてしま
う。そんな悪循環に陥ってはいないだろうか。
 
BIMに取り組むにあたって、BIMで自動機器選定ができるのか、BIMで図面は描けるのか、
BIMで積算ができるのか、BIMでスリーブ登録できるのか、BIMで配管重量の集計ができるの
か、BIMでダクト数量を集計できるのか、などなど、BIMに対する期待を込めた思いや、逆に
懐疑的な目に対して、BIMで実現できのるかと問われれば、それはどれも「YES」と言うこと
ができる。だが、間違えてはいけないのは、BIM初級者が最初からすべてをやり遂げられるか
といえば、それはさすがに難しいと言わざるをえない。最初から100点満点を目指すと、疲弊
することは間違いないだろう。
 
BIMは、最初はスモールスタートで始めることが肝心である。
 
BIMは、3回目くらいでようやく効率的に活用できるようになるということを理解して、徐々
にBIM活用の幅を広げていくことを心掛ければ、BIMに疲弊して離脱することも少なくなると
思っている。
 
また、BIMを従来の設計図書作成とは別の追加業務として捉えて、3次元で見える化するため
だけに活用するのでは負担ばかり増えることになり、これも疲弊に繋がる原因となる。
そうではなく、従来の業務で無駄に幾度も時間を費やしている、計算書や機器表作成、図面間
の整合チェック、構造設計者への荷重登録、電気設計者への動力登録、負荷計算や省エネ計算
などの単純なルーチンワークをBIMで効率化するべきで、その過程で意匠・構造・設備間の調
整もついでに行うというのが、あるべき活用方法であろう。
極端な言い方をすれば、設備設計でBIMを活用するのは、空間オブジェクトでの諸元情報管理
と、機器オブジェクトだけを使った機器表、動力登録・機器荷重登録くらいに絞って活用する
のが一番メリットが大きい。最初はこれくらいの活用から始めるべきであろう。
 
そのメリットを実感した後に、本格的なBIM活用に舵を切るべきだが、現時点では一足飛びに
すべてを3D化することを目的とせずに、図面化が目的のものについてはBIMソフト上で2次元
加筆し対応した方が現実的である。オーバーワークにならないためにも、機器配置とメイン
ルート等BIMモデル化すべきものと、図面化のために加筆すべきものとを分けて考えることも
肝心である。そもそもBIMは必ずしも3Dである必要はなく2Dであっても良い訳で、属性情報
が付与されていれば、それもBIMの一部であるということに留意するべきである。いずれ、
製図基準等で縛られている図面表現が簡素化され、BIMソフトが進化してフル3Dモデルを容
易に作成可能になり、設計の業務範囲が拡大した時に初めて、フル3D化を視野に入れるべき
であろう。
いずれにしても、設備設計者にとってメリットのあるBIM活用は、図面化等のアウトプットを
目的にするよりも設計プロセスの中で活用することが重要なポイントになる。そのためには
建築一般図(平面図・断面図・立面図・仕上表等)が定まった設計後半からでは手遅れになるこ
とが多いため、設備も設計初期段階から関わっていくことが大事になる。但し、無駄に初期段
階から詳細なモデリングをしてもフロントヘビーになり変更作業に振り回されてしまうだけな
ので、モデリングはフェーズごとに必要最低限に抑えるべきであることは言うまでもない。
モデリングを最小限に抑えながら、一度入力した属性情報を様々なシーンで何度も活用する。
これが設備設計にBIMを導入し成功する上で重要なポイントになる。


設備でBIMを導入する際に、積算に活用することを期待する声も多く聞かれる。だが、BIMに
よる積算は一番難易度が高い上級者向けの活用方法であると感じている。と言うのは、末端ま
でフル3Dでモデリングする必要があることと積算に耐えうる正確なモデリングと正確な情報
入力を行う必要があり、これをやり遂げるには、積算業務にも精通しつつBIMのデータ構造も
理解しておく必要があり、とてもじゃないけど初級者には実現が不可能である。最初は、設備
工事費に占める金額が大きい設備機器を、BIMを活用して積算するのが現実的なアプローチで
あろう。
また現時点では設計段階でフル3D化するのは業務過多に陥る危険性が高いので、例えば大規
模建築物での基準階だけをフル3Dモデル化することで、数量の精緻化をはかるといった積算
ではなく概算への取り組みが現実的な活用方法であろう。
 
BIMを設計フローに取り入れる際に重要なことは、BIMの作業を追加業務にするのではなく、
今までの業務をBIMで置き替えていくことにある。但しすべてをBIMに置き替えるのではな
汎用ソフトや表計算ソフト等の便利なものは残しつつそれらをBIMと情報連携させBIM
を情報の中心に据えることが大事になる。その時に、無理にすべてをBIMだけでやろうとする
必要はない。いつもの業務で使い慣れている、表計算ソフトを多用して、BIMとデータ連携し
ながら業務を遂行するのが現実的な進め方である。


国内でBIMを普及させ、建築物のライフサイクルでデジタル情報を一貫して活用するには、相
対的に出遅れている、設備設計でのBIM活用を加速させる必要に迫られている。しかし、従来
の紙やPDFでの設備図作成も求められる中いきなりフル3Dモデルを作成することは業務過
多になり対応が困難であろう。
現実的には設備設計でのBIM普及は2段階に分けて考えるべきである。例えば建築確認申請等
での2次元図面を用いた審査が必要な段階ではBIMモデルは主要部分に留め、図面化はBIMに
2次元加筆して対応する。そして、建築確認申請等でBIMモデル審査が可能になり図面表現が緩
和された時にフル3DでBIMモデル化する。このような2段階のアプローチで考えると最初
の一歩目が踏み出せ、設備もBIMの世界に加わることができるのではないかと思っている。
設備設計もデジタル化に出遅れないように、早急にBIMに取り組む必要に迫られていることを
肝に銘じつつ、最初は無理のない活用方法でBIMの世界に飛び込んでみては如何だろうか。
 

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長