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コラム

神よ、仏よ、「BIM学」よ

2020.07.28

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

<きっかけ>
いつのことからか理想的な「BIM学」があったなら…、とよく思うようになった。それはあた
かもいくつかの体験の積み重ねが、発酵してきたかのように止まらない。
 
数ヵ月ほど前、『建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドラ
イン』(建設BIM推進会議)を読みながら、妙に整合性のあるレポートに違和感を感じた。
これができれば苦労はしないが、出来たからと言て何が変わるのだろうか。やれる所は既に
ているし、やれない所はこれからもやれないだろうと。
 
さて、千葉大学名誉教授の安藤正雄氏が以前から、「BIMに対する日本の関心は『施工BIM』
と言う言葉に集約されているような『実現』段階の一局面に留まっているかに見える。*1」
と述べられている。実際に日本のBIMは「施工BIM」を中心に普及してきたし、今も変わらず
建設会社的色彩が濃いものになっている。経緯としてそれは致し方ないとしてもそろそろ国
も企業も大学もその状況から脱して、社会・経済・金融・情報・法律・不動産・経営・教育・
行政などへと視野を広げても良い時期だと思うが如何だろうか。
そう思う様になったきっかけを以下に述べておきたい。
 
その1。社会・教育への俯瞰的視点の欠如。
自分の投稿からの引用で恐縮だが、昨年の秋、このArchiFuture Web Magazineの
コラム (2019年11月12日掲載)近いうちに日本ではBIMへの取り組みの違いにより、
建設関連の大手と中小企業の間にデジタル・デバイドが生じるだろう、と書いた後で次のよう
に述べた。
 
「こんなことを考えていた折、今月初旬にドイツから連邦内務省の建設部門の副大臣、建築研
究所、大学の研究者の方々がBIMに関する情報交換のためスターツに来社され、お互いの現状
を共有した。先方のプレゼンテーションで印象的だったのは、日本におけるBIMの利用拡大の
ための取組みでは未だあまり実行されていない、いわば社会的取組みであった。そもそもの戦
略(業界主導の雰囲気が色濃い日本に戦略があるかはさておいて)が異なっているのだが、ド
イツでは、冒頭で述べたデジタル・デバイド(格差)が社会的に生じないよう、資格制度と職能
教育、次世代育成のための大学教育と学問的追求までを射程に入れている。これについては
Hannover大学の教授が説明をしてくれたのだが、特に注目したのは、大手企業と中小企業と
に分けて取組み方をブレークダウンし、かつ担当官庁も国だけでなく州・市レベルの関わりま
で制度化が計画されている点である。」(2019年11月12日掲載のコラムより抜粋)
 
ここで私が関心を持ったのは、現状の生産方式の追認的合理化としての「施工BIM」からは見
えてこない、日本における在るべきものづくりの為の社会・教育への俯瞰的視点の不在である。
このような事態への対応策として必要なものは体系的・学際的な「BIM学」ではないだろうか。
 
その2。建築設計・技術者のBIM能力向上の為の育成プログラムの不足及びBIM環境の外側に
いる人々との協創基盤の不在。
その結果、組織内の個人のオタク化(自己満足化)や、ベテランなりのやるべきことの不明確
さが生じやすい。つまり、働く人が個人としてどちらに向かって成長すれば良いかを伝える言
葉を組織が持っていないことが多い。企業はその仕事の範囲でしか未来を語れない。このよう
な状況への対策は、やはり上記の「BIM学」を軸とした、「プロフェッショナルの育成システ
ム」のように思うのは、未だ見ぬ「学」に頼り過ぎだろうか。
 
その3。私は経営者として8年近くBIMと付き合っているが、最近改めて、異なる方面から、
もう一歩「BIM的世界」を掘り下げてみることにした。しかし、BIMを取り巻く環境が、余り
に茫洋としていることに改めて気付き考え込んでしまった。それはBIMデータの活用方法を異
分野との間で探ろうとした時だったのだ。が、あるのは実務的・マニュアル的な情報か、極め
て専門的な情報のみで、初歩的なことから始まりどこまでの深い知識と技術を持っていれば、
求めるものが得られるのか見えてこなかったのだ。今もそれは続いている。つまり色々な方々
から聞きながら探索を続けざるを得ない状態である事だけは分かったのだが…。「新しいこと
をやるということは、そういうことだよ」と言われそうだが、本当にこれで良いのか。
 
<果たして「BIM学」は可能か>
私はもともと研究者ではないので、何が整えば「学」が成立するのかは、よく分からない。と
は言え上記の様な「満たされないもの」を、まだ存在しない「BIM学」に問題を押し付ければ
済むとも思っていない。ただ、「BIM的世界」を建設の枠から自由にし、社会・経済・金融・
情報等々へ関連づけて行いこうとした時に、この業際的・学際的課題はやはり「学」の分野で
整理し未来を指し示すことが本来の道であるのではないだろうか。よく言われる企業間の「非
競争領域での協力」だけでは、このような課題の解決にはならないだろう。
ではどの様な「学」を目指すのが良いのだろうか。
残念ながらこの問いに答えるのは今は難しい。そのため、以下に妄想に近いものを記して本稿
を終わりとしたい。
 
例えば、設計事務所がBIMデータを使って、あるメーカーに見積りを依頼し、メーカーが作成
した見積りがペーパーレスのまま送り返され、条件が満たされていれば、次に電子的な契約書
が交わされ、必要な時点で製品が製作され現場に送られる。この後の工程を書くと長くなるの
で省略するが、支払決済・契約書類の保管・改竄防止などを含め全ての工程を電子的に処理す
るには、多くの専門分野を横断的につなげていく必要がある。
あたかも設計情報として作られたBIMデータが、ものづくりの現場・金融・物流・ブロック
チェーンを含む情報処理・法律等々が関係するフィールドを光の如く走り抜けていくイメージ
が思い浮かぶ。
このようにおそらく「BIM学」は、BIMデータを既に存在する様々な学問と関係づけながら、
ひとつの体系へと育っていくのではないだろうか。その関係づけの仕方そのものが、これから
の時代と空間に求められる「学」になりうるのではないだろうか。
 
以上、このテーマは大変面白そうなのでこれからも考え続けていきたい。

*1 安藤正雄著「BIMとオープン・モジュラー・アーキテクチャ」OGI Technical Reports
   vol.26(2018年12月1日発行)

関戸 博高 氏

スターツコーポレーション エグゼクティブアドバイザー / Unique Works  代表取締役社長