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コラム

BIMソフト上での2D加筆併用による
現実的なBIM活用

2020.09.29

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

前回のコラムでは、BIMは、最初はスモールスタートで始めることが肝心で、3回目くらいで
ようやく効率的に活用できるようになる、といったことを書かせて頂いた。
 
そして、設備設計でBIMは、空間オブジェクトでの諸元情報管理と、機器オブジェクトを使っ
た機器表作成、動力登録・機器荷重登録くらいに絞って活用するのが一番メリットが大きい
こと。
また、オーバーワークに陥らないためにも、すべてを3D化することを目的とせずに、BIMで
3D化するのは主要部分に留め、図面化が目的のものについてはBIMソフト上で2D加筆し対応
した方が現実的であろうとも書かせて頂いた。
 
設備設計でBIMを活用していく上で、私見ではあるが、もう少し踏み込んだ言い方をさせて
頂くと、極論してしまえば、設備設計のことだけを考えれば、BIMは必ずしも3Dである必要
はなく、BIMソフト上で2Dで活用して属性情報だけ利用するのが最も効率的である。
意匠や構造との調整を考えなければ、設備設計にとってBIMは2Dによるデータベース活用で
十分である、と言える。
 
そう言ってしまうとCADをカスタマイズして活用しても良いのではないかと言われそうだが、
CADとBIMの1番の違いは、CADが複数のファイルに分割されてしまうのに対して、BIMは表
計算ソフトで扱うような計算書の情報も含めてデータを一元化して(しかもクラウドでも)扱
える点にある。この情報の一元化がBIMの最大のメリトであるとも言え、BIMを使えば最新
情報を確認する手間を大幅に削減することが可能になる。
 
機器や器具に2Dのシンボルを仕込んでおき、BIMソフト上で2Dで扱うことで、機器プロット
図と機器表作成や、器具プロットと制気口リストなどが作成可能で、BIMソフト上で単線(詳
細線分や、ダクトルート・配管ルート)で繋いで2D加筆すれば、BIMモデルと整合した、ダ
クト平面図や配管平面図などの設備図の作成も可能になる。
また、病院や研究所、学校などの建物用途では、施主との要件確認のために作成する部屋カル
テ(什器や器具のプロットやリスト)をBIMソフト上での2D利用で効率的に作成することも可
能になる。
 
BIMソフト上での2D活用に目をつけると、電気設計でのBIM活用の道も開けてくる。
照明器具やコンセントスイッチなどの器具類に2Dのシンボルを仕込んでおいてBIMソフト
上に配置して集計表で数量を管理するような使い方に限定すれば、平面図とリストの整合確認
や、積算数量の把握、電源容量の集計など、電気設計者にとってもメリットがある使い方がで
きるであろう。特に、意匠設計者や設備設計者がBIMを使って、電源情報をBIMで一元化して
くれれば、電気設計者は情報を受け取るだけでもBIMを活用するメリットは十分に出てくるは
ずである。あとは、機械設備と同様に、BIMソフト上で単線(詳細線分や配線)で2D加筆すれ
ば、幹線・動力平面図や電灯設備図などの電気図面の作成を行うこともできる。
 
このように、BIMソフト上で2Dを利用することで、今までのCADと表計算ソフトのスキル程度
で、BIM活用が可能になるはずである。
 
ここまで記載したことは、設備や電気の設計者のことだけを考えた、極論としてのBIM利用方
法ではある(2Dシンボルだけでなく、外形を3D化しておくと設備の存在を伝えやすくなるこ
ともあるため、あくまで極論)。
 
意匠や構造との調整を行うには2D利用だけでは厳しいため、3D化する必要がある。但し、決
してフル3Dモデル化するのではなくクリティカルな部分に限定するべきである。クリティカ
ルな部分に限定すべきなのは、末端まで3D化して調整しようとすると作業が膨大になってしま
うこともあるが、干渉箇所が膨大に膨れ上がってしまい本当に問題になっている箇所を炙り出
しにくくなるためでもある。
このクリティカルな箇所の空間調整は、決して建築や構造のすべての要素を3Dモデル化する必
要はない。と言うのも、設計段階では同時進行で様々な要件が変動しながら進んでいることも
あり、梁レベルや耐火被覆、床の防水による勾配、配管等の保温、配管の勾配などを、すべて
3Dでモデリングした上でメンテナンススペース施工スペースが確保されているのかを3Dで
チェックするのは無理があるからである。設計段階では3Dでのチェックは粗方納まるかどうか
の雰囲気を確認する程度で扱うのが現実的で、細かな寸法調整は、BIMソフト上での断面図や
矩形図を元に2D加筆しながら行うのが確実であろう。
また、敢えて言うまでもないが、そもそも本当に納めようと思うのであれば、最初に落とし所
となる断面での陣地取りをしておいた上でモデリングを開始しないと延々と収束しない3Dモ
デリング地獄に陥ってしまう、といったことも良くある話である。


あと設備がBIMを利用するときに陥りやすいのが意匠BIMモデルや構造BIMモデルができる
のを待ち続け、設備モデルを作成する期間が極端に短くなり、結局、調整する時間がほとんど
確保できずに終わってしまうことである。設計段階での空間調整が、2Dでの調整が現実的なこ
とを考えると、必ずしも意匠・構造モデルが出来上がっている必要はなく、たたき台の断面図
や矩計図を元に、先行して設備のクリティカルな部分を3Dでモデリングしておき、意匠・構
造モデルが来るのを待ち構えておくくらいが丁度良いと思っている。
 
このように、BIMソフト上で2Dを活用することで実務にはまる事は意外と多い。
いずれBIMソフト上で2D加筆したダクトや配管などの詳細線分を3Dオブジェクトに変更す
るツールもできてくるだろうし、末端を自動的にモデリングするツールも開発されるであろう
から、フル3D化はその後にするとして、現時点では設備設計(特に電気設計)は、3Dモデリ
ングは機器・器具やメインルートなど主要部分に留め、BIMソフト上での2D加筆も併用しなが
ら、現実的なBIM活用を行うことをお勧めする。


設備や電気設計者の職能が、設備図を描くことだけならばCADのままでも構わないと思うが、
実際にはCADによる図面化以外にも多岐に渡る業務をこなしている訳だし残念ながらCAD
データでは、デジタル化による建物の付加価値向上に繋がりにくいのも事実である。設備技術
者としてデジタル化の波に乗り遅れないためにも、図面の呪縛から脱して、BIMソフト上での
2D加筆併用による現実的なBIM活用でデジタル化のはじめの一歩を踏み出してみては如何で
あろうか。

吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長