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コラム

BIMは労働生産性を高めると信じていますか?

2020.10.02

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

先週北海道の十勝平野を自転車で150km程走り回ってきた。大きな農地とそれを繋ぐ一直線
に走る農道があり、爽快な風と道路の凸凹を身体で感じながら走るには、またとない地域だ。
牧草、甜菜、大豆、向日葵など、農地は育てられている作物によって様々な色をしている。農
道は多くの生産者が大型トラクターなどを運転し、これらの多様な作物を育て収穫し市場へ運
ぶプラットフォームの役割をしている。これのある無しは生産性に大きく影響するに違いない。
そしてこの地域は色々な意味においてとても豊かだ。



気分よく走りながら、この農道のようなプラットフォームの役割を果たす仕組みが、BIMデー
タの連携において存在しないことがとても残念に思えた。

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前回書いた「BIM学」への助走として、BIMの生産性について考えてみた。
現在、建築関係のマスメディアでは、BIM無くしては日本の建設業界の未来は語れないという
雰囲気になっている。だが一方で「BIMは本当に労働生産性を高めているのか?」と私は思っ
ている。言い換えると「BIMは働く人を幸せにすること(収入を増やし労働時間を短くする)
に役立っているのか?」と。
その理由として、以下の2点があげられる。
①建築関係者間でBIMについての理解度と利用度にばらつきが大きく存在する(リテラシーの
不足)。そのためにデータ連携することができず(思いつかない)、結果として生産性を上げ
ることが出来ない。
②設計事務所・ゼネコン等の企業経営者に、BIMを設計の道具としてだけではなく、データ連
携させることで新しい価値・サービスを生み出すという大志(?)を持っている人を(失礼な
がら)ほとんど見かけない。その結果、BIMデータを企業の労働生産性を上げて付加価値を生
み出す仕組みとして利用できていない。

BIMはデータを連携し、新しい価値・サービスを提供するプラットフォームを構成する主要技
術として、「個人」の労働生産性を高める。しかし、それだけでは「組織」の労働生産性は高
くなったことにはならない。例えば組織としてはBIMを使うことで、それ以前と比べ成果を出
すのに30人工の労働力を削減出来たとする。その30人工の労働力を担う人員を組織から外す
か、内部に留保するならその労働力をより新しい価値を生み出す仕事にミッションと共に振り
向けなければ、生産性が高まったことにはならない。他の忙しい部門に異動させるだけでは、
残業代が減るぐらいの効果しか出ない(終身雇用的発想)。おかしな話だがこれが実際に普通
に行われていることだ。このようなことはBIMの課題ではなく経営の課題である。だがそうは
言ってられないのでもう一歩踏み込んで考えてみたい。

「労働生産性」について少し触れておきたい。労働生産性は以下の式で求められる。
労働生産性=労働による成果(GDPまたは付加価値額)/労働投入量(就業者数または就業者
数x労働時間)
よく知られた話かも知れないが、2018年・就業者一人あたりの労働生産性において、日本は
OECD加盟国36カ国中21位(81,258ドル)である。更に問題は20年以上に渡り21位前後の順
位でずーと推移していることだ。一方、米国は2〜3位(132,127ドル)の位置を1970年以
降50年近くキープしている。長きに渡り日本は米国の6割程度の生産性しかない(『労働生産
性の国際比較2019』 公益法人日本生産性本部より)。



生産性を高める対策としてよく言われるのは、
①業務の標準化
②個人の能力アップ
③各人の業務の見える化
④新しい技術の導入
などであるが、これらはどの企業もそれなりに取り組んでいることだ。しかし、上記の通り
日本の労働生産性は長期に渡って良くなっていない。何故だろうか。考えられることは、これ
らの対策では企業の課や部の単位の小さなスケールでは、それなりの成果が出るが、大組織や
国レベルで生産性をアップするための戦略が機能していないことを意味する。
一方で、①から④にあげられていることは、建設会社がBIM導入の理由として挙げていること
でもある。従って、BIM周辺で発生していることは、BIMを導入したとしても小さいスケール
での生産性の向上は期待できるが、組織全体としては生産性の向上は見込めない可能性が大で
あると想像出来る。
何故かというと、①から④は、課長や部長が実行を決められる事項で実行責任も明確だ。しか
し、その成果はその部門内での「タコツボ的成果」であって、全社的な成果になりにくい。
「タコツボ的成果」を集めて、その企業の新しいサービスに仕立て上げていくには、そのため
の戦略が必要だ。これは経営トップの仕事である。BIMの活用も同じことが言えるのではない
だろうか。
とは言え経営層に責任を押し付けているだけでは何も始まらない。経営者・技術者が共に成果
を出せる道があるはずだ。

「BIM学」の一分野(BIM経営学?)としてさらに展開していくつもりであるが、ここでは
「タコツボ的成果」を越えるためのポイントをいくつか述べておきたい。
A.プラットフォームを構築したいなら、スターツで既に出来ているBIM-FM PLATFORMを活
   用すると良い。企画・設計・積算・施工・ビル管理のデータ連携を一気通貫に行える仕組
   みである。これを導入してカスタマイズする。自社宣伝になり恐縮だが、最初から自前で
   始めるより遥かに早く安価なはずだ。
B.建設会社は、積極的にBIMの部門を分社化し、他社との連携を速やかに決められる体制に
   する。良くわかっていない役員が大勢いて、重箱の隅を突いてコンプライアンスだと言っ
   ていてはチャンスを逃すし社員が育たない。
C.経営者は、BIMデータ連携により付加価値をどう上げるかに注力して企業運営をする。そ
   うすることで自らの建設業をサービス業として再構成するようにする。
D.建築技術者は、所属する企業においてオタク的に「タコツボ的成果」に満足するのではな
   く、プライベートなネットワークを作り、そこで協力しあって新たなサービスを生み出し
   ていくようにする。そういうことが出来る時代になっている事に早く気づくべきだ。私も
   そういう人たちに対しては是非応援したい。
 

関戸 博高 氏

スターツコーポレーション エグゼクティブアドバイザー / Unique Works  代表取締役社長