Magazine(マガジン)

コラム

改めて、なぜBIMか?

2020.11.24

ArchiFuture's Eye                慶應義塾大学 池田靖史

毎年、Archi Futureが終わるともう冬の足音が聞こえてくる。例年との単純な比較はできない
が、おかげさまで「コロナに負けないデジタル改革」というメッセージが伝わったように感じ
ている。予想外の出来事は肯定的に捉えてこそ栄養になる。新型コロナの感染症は、冬と伴に
拡大の様子を見せており、まだ長い付き合いになりそうであるが、この機に進化を加速して力
を蓄えたいと考えている皆さんが多いことは心強い限りである。私自身も海外との行き来がで
きなくなって、見えにくくなった国際的な動向と感覚を聞いてみたいと思って企画した基調対
談を通じて、この機会に西海岸のグレッグと東海岸のケントが地域的な文化の差が別な国と
いっていいほど違うにもかかわらず、都市のモビリティと生活の質に関する共通の意識も持っ
ていることを知り、振り返って日本の都市と社会が目指すべきところについて考えさせられる
点が多々あった。特に大都市への過度な集中をどのように再考すべきかという議論は、既に
日本でも始まっていることではあるがスマートシティへの挑戦とともに、もっと積極的なとり
組みが期待されるだろう。

  日刊木材新聞社新社屋 (設計:IKDS 写真:輿水進)

  日刊木材新聞社新社屋 (設計:IKDS 写真:輿水進)


 日刊木材新聞社新社屋 内観 (設計:IKDS 写真:西川公朗)

 日刊木材新聞社新社屋 内観 (設計:IKDS 写真:西川公朗)


この数ヶ月、とにかく何でもリモートでほとんど家にいたのだが、その間ちょうどこの秋に竣
工した都内の物件「日刊木材新聞社新社屋」の現場管理があって、個人設計事務所に近い体制
の私の仕事としては、普段より集中して現場に通うことができた。既に雑誌「新建築」など
一部のメディアでも紹介していただいたが、江東区の深川木場の街並みに木質建築を魅せて、
都市木造化の促進を自ら実践するメッセージにしたいという施主の強い思いを受けて、これま
でに考えてきた木質建築のサスティナビリティと情報技術の関係を現実的な条件の中で実現す
る貴重な機会を頂けたと思っている。準防火地域の中で木質感を耐火材で覆わずに表現できる
準延焼防止建物の基準を活用した木造3階建ての小さな事務所建築で、特に構造・意匠・環境
調整を総合的に引き受けるファサードの三角桝格子から、3階の床となるCLTの厚板を吊って
いる木の葉形の屋根梁にかけての構成の実現を、ささやかではあるがデジタル化ができる貢献
の例にしたいと考えたので、本コラムでも少し紹介させていただきたい。ここでは建築作品と
してというより、小規模なプロジェクト、小規模な組織、現実的な実務スケジュールや予算の
中でのデジタルトランスフォーメーションへの挑戦を考える材料になると思うからである。

 設計の進行とモデルの変遷

 設計の進行とモデルの変遷


 iPadで表示させたBIMモデル

 iPadで表示させたBIMモデル


大きすぎない手頃な建物でもあるし、様々な検討をできるだけ手元でできたらいいと思い、い
つものように設計の当初からBIMを使ってきた。初期段階では3Dビュー上でなんでも検討し、
プレゼンに使う資料まで自分のノートパソコン上でどこにいても作業でき、そのままウォーク
スルー表示や断面表示まで見てもらえるからだ。今回はそのまま実施設計の図面取り出しも
行っているのだが、そうなると全部自分ではできないのでパートナーにもいろいろ協力しても
らわないとならない。そして様々な情報共有のための調整も大切になってくる。お世辞にも上
手にできたとは言えないのだけども、とにかく自分自身が実践の中で揉まれることはできた。
残念ながら設備のBIM化は協力事務所の業務外ということだったが、照明のシミュレーション
などで使ってもらった。構造とは3Dデータで共有しているもののBIMを使た双方向の同時的
やり取りにはなっていない。まだまだ「お一人様BIM」状況を脱していないと言わざるを得な
いし、施工のゼネコンさんも木造建築としては一流どころであるが直接的にはまだBIMに対応
できる状況ではない。それでも半ば押し付けるようにデータをお渡しして少しでも役に立てて
もらえないか考えて貰った。

 BIMモデル木造躯体部分

 BIMモデル木造躯体部分


 照明シミュレーション検討 (協力:ZO設計室、遠藤照明)

 照明シミュレーション検討 (協力:ZO設計室、遠藤照明)


そうした中で、レシプロカルなパターンを使った三角枡格子に関しては、最終部品加工形状ま
でスクリプトで生成するモデルにし、ビスとそれを打つ工具の位置関係から窓掃除ロボットの
ルートまで確認しつつ、その結果わかってくる寸法条件の中で、元々の目的である西日の日射
遮蔽を実現するために立体的な角度調整検討を何度もした。BIM側の周辺敷地まで入った年間
日射シミュレーションと格子部分の微妙な調整モデルをつなげたおかげで、デジタル加工機で
はなく、治具を使った同一角度切削のみという制限内でこれだけのことができた。構造的に補
剛材になっている屋根梁の曲面を描く方杖も、その加工にあたってロボットなども含めて検討
した結果、木材の加工性の良さを考えれば現場の手加工をAR(拡張現実)で支援するのが最も
安上がりということになり、HMDを装着した施工にも挑戦してもらった。ARの位置精度誤差
による問題が起きないような設計上の工夫もしたのだが精度に満足しない現場の大工さんは
一覧表でもう一度寸法を測り直してくれていてちょっとほろ苦い。CNC加工については内装
用の空調目隠しパネルでは実現した。ボロノイで生成したパターンを彫ってもらうにあたり、
スクリプト自体を共有して切削条件のパラメーターを一緒に探してくれる担当者が、日本美術
工芸という加工会社にいらっしゃったのが最も面白い経験で、オンライン会議でパラメトリッ
クなモデルを画面共有しながらの打ち合わせで、契約時の設計よりも遥かに複雑な形状がコス
トアップ無しに実現できたことは印象深い。

 BIMとビジュアルプログラミングの連携で作成された三角桝格子の実施詳細図

 BIMとビジュアルプログラミングの連携で作成された三角桝格子の実施詳細図


 三角桝格子の検討(協力:KAP)

 三角桝格子の検討(協力:KAP)


さて、総じていうと、一番大事なのはデータを積極的に共有する仲間との関係作りだと骨身に
染みてわかった。理論としては当前の話だけどBIMはデータの相互流通性を良くするために多
少の不自由さや面倒さを覚悟してでもデータ構造化のルールを厳格にしたプラトフームで
あり、様々な協働関係を可能にするために使ってこそ意味がある。結局そのデータの価値は流
通の速さと量によって生まれてくるということだと思う。大規模な会社と違って小規模な組織
ではデジタルトランスフォーメーションなんて大袈裟に聞こえるかもしれない。しかしSNSの
使い方が勝手に広まるように、安上がりで簡単なことでも、みんなで使っていれば可能性が広
がる。これからは小規模な組織こそがお互いの相乗的可能性のためにBIMを中心にしたデータ
連携に本気になるべきだと心から思う。僕たちの仕事のパートナーたちにも、もっと真剣に
BIMによるデータ同期を説得し、そのための追加費用をかけてでも、お互いが持っている技能
や知的資源の価値を高める協働関係を模索するべきだろう。これはコロナ 禍からはじまった
リモート・コラボレレーションの加速の中で、今まで以上に小組織が分散的に活躍の場を見出
せる機会なのではないかと思うのである。組織の大小の差は人材の優劣の差ではない。資本力
の差はあるかもしれないが、人材の協力の密度の差は自分たちで改善できる可能性がある。ま
だBIMの導入に踏み切れていない小組織の皆さんに、いま改めてなぜBIMを使うべきなのかと
いう点について、それが組織を跨いだ様々な創造的な連携の基盤になるからだと答えたい。遠
隔会議の一般化が仕事場の立地の差を一気に相対化したように。

 三角桝格子の日射シミュレーションでは周辺環境も考慮している

 三角桝格子の日射シミュレーションでは周辺環境も考慮している


 AR位置ガイダンスによる施工風景(協力:長谷川萬治商店カスタムホーム事業部)

 AR位置ガイダンスによる施工風景(協力:長谷川萬治商店カスタムホーム事業部)


逆に言えばBIMを難しく考えすぎない、一気に全ての側面を求めすぎないことも大事な気がす
る。私自身のBIM利用もある意味中途半端ではあったが、実は完璧なBIMというのも存在しな
いだろう。施主や協力事務所とのつながりが改善できるという視点で、できるところから初め
て見ればいいのだと思う。
ここ数年、お手伝いをしている日本建築士事務所協会連合会の主催するBIM設計コンペティ
ション
うど今参加者を募集している。上記のような自分自身の思いも汲んでもらい、
そのテーマをリモート・コラボレーションとして地域を超えた建築業界の活性化や組織的協
力を問いかけている。なぜなら情報技術の最大の効果は共同作業の効率化にあり、時間と場所
の制約を超えてネットワークを活用することで新たな機会が生まれることにあると考えたから
である。コロナ禍以後の社会的な変化の一つに、大都市への人材や活動の集中が緩和され、
様々な地域の魅力が見直され、どこにいても協力の機会が得られるようになったことがある。
この変化を新たな協力関係の構築と相互の発展の機会と捉えて前進するために、こうしたコン
ペティションにも参加してみてもらいたい。
 

池田 靖史 氏

慶應義塾大学大学院SFC 政策・メディア研究科  教授