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コラム

社会を変える〈個〉と〈コト〉のムーブメント

2021.01.08

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

あけましておめでとうございます。
今回は、2021年のスタートに当たり、昨年の経験を振り返りながら、今年、注目すべき点に
ついて触れてみたい。

1.2020年から学んだこと―〈個〉の行動と変革
2020年厳しさ苦難の中から私たちは様々なことを学んだ。人々の生活が変わり働き方が
変わり、それに伴って〈組織〉のめざすべきモデルも変化してきた。時間的制限のないデジタ
ルを上手く使いこなすほど、時間軸のあるリアルで何をすべきかも明確に知ることができるよ
うになった。総じて、昨年からの学びで最も大きかったのは、〈個〉の判断と行動こそが大き
な変革をもたらしたことだったと思う。このことは従来の組織の中の〈個〉の存在という考え
方から、〈個〉が中心になり構成する〈組織〉への変化へとつながっている。組織にとっては
大きなムーブメントだと思う。

2.〈個〉を中心とするモデルへの変化
一つ目のムーブメントは、このように〈組織〉から〈個〉中心のモデルに変化していることで
ある。そこには、〈個〉のモデルの価値観を磨き、全体の価値観を築き上げることへの意識変
化が見られる。
少し話の確度は変わるが、いくつかの店舗はITによるマイストア化によって店舗の姿が変わろ
うとしているしオンラインショッピングを利用する人が世代によっては50%にまで増えたこ
とで、企業の戦略も大きく変貌してきている。ホテルや旅館は、仕事とセットで多様なリアル
の活かし方を考え、オフィスは大きなスペースから小さなスペースへの転換が進もうとしてい
る。と言うように、やはり、ここでフォーカスすべき点は〈個〉への重心の移転なのである。
勿論、この大きな変化にITやICT化が重要な役割を担っているということを忘れてはならない。
また、そのことを多くの人が認識し始めたことが変革を後押ししているということも。
こうしてみると建築界において、今後〈組織〉の価値観を高めるのは、ICTを活用した〈個〉
の能力主導によるコンサルタントやサブスクリプト的活動の分野(この詳細は次回以降にした
いと思う)であろうということが予測できる。

3.〈モノ〉の探求から“〈コト〉のつながり”への変化
二つ目は建築づくりにおけるムーブメントの変化である。〈スペース〉を前提とする考え方か
ら〈人〉を中心とするモデルへの変化である。ここでも中心になるのが〈個〉の存在である。
前述の通り、人の生活が変わってきている。つくり手側の視点で建築を構成する〈モノ〉の探
求から、使う人の視点で構築する〈コト〉の追求への変化がより一層求められる。このことで、
結果的に新しい建築を生み出すことにもつながるだろう。
人にとって、やさしく、快適で働きやすい、そして住みやすいか?そのためにまちと自然とど
のように対話できるか?…人と人とのつながり、人とまちとのつながり、そして自然とのつな
がり…という〈コト〉の在り方がより強く問われる。
〈コト〉で、特に注目される視点は〈環境とのつながり〉〈まちとのつながり〉である。言い
換えれば、如何に環境やまちと“対話”できるかである。現代の建築プログラムでは、環境や
まちとの関係性は一定の完成形にあるが、これから起こりうる未だ見ぬ気候変動、そこから発
生する環境の変化や都市災害について、十分対応できているかどうかはわからない。つまり、
新しい生活様式に沿た新しい建築をつくり上げるためには既定のパッシブな環境思考から、
よりアクティブな志向で取り組む段階にきている。そのためには、創造豊かな〈個〉のネット
ワークと未知への予測と実現のためのハイレベルのICTやAI技術の存在が必須になる。

4.〈コト〉の実現とICT
〈個〉の醸成とともに、〈コト〉を探求するプラットフォームが、“ICT”、“データベース”、
“AI”と考える。道具としてのICT/BIM、これを合理的に組み立てるためのAI、その礎となる
データベース。〈コト〉の探求のためにはこれらの3つを“つなぎ”“カスタマイズ”すること
が急務である。
そして最も重要なのが、この3つ+〈個〉のネットワークを統合し運営するプロデュース力で
ある。
この運営力こそがリアルとデジタルの共存と統合の優位性をも確立することができる。
ICTを中心とするテクノロジーは既定の概念を超える空間を実現する可能性を有し、環境や
BCP、コスト面でも合理的に解決に導く力を秘めている。これにAIが加わることでより高度
な進化が期待できる。またブロクチーンのような個のネトワークはリアル・ポテンシ
ルの高揚を期待できる。
いずれにしても、今年、ICTやAIにも“何ができるか?”大きなパフォーマンス変革の時期が来
ている。

5.社会事業でチャレンジする
社会の大きなムーブメントにDX(デジタルトランスフォーメーション)がある。ただ、日本
のDXは先進国から見ると周回遅れ?その原因は社会事業での利活用、チャレンジが十分でな
いためだと思う。
まずは、知恵を絞り、各事業でしっかりとICTやAIを活用し、メリットやデメリット、損益を
知ることが肝要である。その結果が展開力を高めることにもつながり、社会ニーズに応える新
しいソリューションにもなりうる。そういう意味で、ICTやAIの活用はまだ未成熟の段階にあ
ると思う。まずはそれぞれの個別チャレンジ一つひとつが是正と発展につながっていくこと
を認識すべきである。
実は、DX (ICT)化への動きは数年前から起こっているのであるが、ここでのムーブメント
は〈個〉という、より明確な目的が加わったことで起きていると考えてよいだろう。
今年は、この大きなムーブメントの原動力となりうる<個>と<コト>の動向に注目したい。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所   取締役専務執行役員   東京事務所長