Magazine(マガジン)

コラム

BIMで儲ける

2021.02.09

パラメトリック・ボイス                   熊本大学 大西 康伸

12月の寒空の下、およそ10年ぶりに山陰鳥取県は米子を訪れた。地元企業でBIM部門長をさ
れているN氏から、地元大学とBIMについての勉強会をしていてその一環として学生BIMコン
テストをひらくので審査委員の一人として参加してほしいとお声がけいただいた。久しぶ
りの米子、N氏から連絡を受けた時から私の頭の中は松葉ガニ一色で、心躍らせて米子駅に降
り立ったのである。

会場入りすると、土木系学科に所属しているけれども建築に興味がある9名の参加者がいた。
真面目かつ意識高い系の印象。BIMツールに触れるのはこの機会がはじめてという。彼らは
BIMツールを使って設計した小さな建築の解説や途中苦労した点などを、1分間という短い時
間で興奮気味に語った。
「ご挨拶に来ました」
途中休憩の時に、そのうちの3名が近づいてきた。聞くと、どうしてもBIMを勉強したいが自
分たちにはその環境がないためその思いを地元企業に伝えてこのコンテスト開催に至ったと
のこと。(自分が日々接している)最近の大学生には珍しくいわゆる目に力が宿っていると
いうか、何かを楽しんでいる目をしているのが印象的であった。

翌日、N氏にお付き合いいただき、ゲゲゲの鬼太郎の水木しげるロードで有名な境港へとドラ
イブした。N氏とはBIMがらみで知り合った15年来の仲。道中、BIMの昔ばなしやBIMを取り
巻く今の状況、そしてN氏が務める会社での苦労へと話題が移っていった。
「BIMで儲けるって、どうすればいいんでしょうね」
N氏はため息と共にぽつりと言った。果たしてBIMに対する投資を上回る利益を得ることがで
きるのか、BIM部門長として社内でプレッシャーを感じているという。私はどうなんでしょ
うね、とうつむき加減に答えその場を濁した。
 
その答えを私は持ち合わせていないし誰も持ていないかもしれない。BIMは業務を合理化
効率化する環境を提供してくれるが儲かる、という状況がいまひとつ想像できない。儲かる
とは新しい価値を創造し、それに対して対価を払う誰かがいるということではないか。その
ような価値が創造されたという痕跡は、今のところ見たことがない。一方、BIMに関係する商
品やサービスを提供する業界は、景況を呈している。それは、建設業に携わる人々がBIMに
対して価値を認めているからに他ならない。
 
件の学生9名は、BIMの持つどんな可能性に触れたのか。決して合理化や効率化などといった
目下の打算的なものを欲する目ではなかった。私がはじめてBIMに出会ったときに感じ今は
それが何だったのか思い出せないでいるBIMへの期待を彼らは今まさに持っているのかもし
れない。彼らにその思いの丈を聞けばよかったと今となては後悔しているが、コロナ禍で懇
親会ができなかったためその機会を逸してしまったしそもそもそれは言語化することが難し
い類いのもののようにも思う。感じることはできるが求めると消えてしまう。それでもその
感情をときどきは思い出しながら、前に進むしかない。
 
実はGo Toトラベルの影響で、以前訪れたカニのフルコースを提供する料亭の予約が一杯で
あった。考えあぐねた末、境港の市場でカニを買い土日不在による家族への罪滅ぼしをかね
熊本まで6時間以上かけて持ち帰ることにした。米子で鍋料理や焼き肉といろいろ寄り道した
けれど、最後は自宅で濃厚でクリーミーな松葉ガニにありついた。
長い道のりだったけど、BIMに携わってよかった。
自分が現役でいる間に、そう思う瞬間が訪れることを願いながら、家族とともに松葉ガニを
頬張った。

大西 康伸 氏

熊本大学 大学院先端科学研究部 准教授