いよいよ本気でBIMデータがシミュレーションに
使えるようになってきた
2021.03.09
パラメトリック・ボイス
東京大学 / スタジオノラ 谷口 景一朗
筆者は一般社団法人建築環境設計支援協会(SABED)が開催する講習会「シミュレーション講
座統合デザインコース」で講師を年に1回務めている。この講習会ではオートデスクのRevitを
対象にBIMデータを用いて光環境やエネルギー消費量など、各種シミュレーションを行う一連
の流れを紹介しており、今年も3月頭にオンライン講座という形で開催された。毎年春先のこ
の時期に講習会を開催しているので、BIMデータのシミュレーション活用に関する最新情報を
整理するいい機会となっているが、今年はRevitを用いた熱負荷計算、エネルギーシミュレー
ションに関して大きなアップデートがあったので、このコラムでも紹介したい。
古くからのRevitユーザーには、Ecotect Analysisというシミュレーションツールを使用したこ
とがある方もいらっしゃるだろう。2015年にEcotect Analysisのサービスが終了して以降、エ
ネルギーシミュレーションについてはGreen Building StudioおよびInsightと呼ばれるクラウ
ド解析サービスに移行して現在に至っている。Insightでは、いわゆる設計のフロントローディ
ングの一環として、設計初期、極端にはボリュームスタディの段階からエネルギーシミュレー
ションを並走させることで、より省エネルギーな建物の最適解を見つけ出すよう、設計案とと
もに開口率や日射遮蔽物の有無、断熱仕様や設備機器仕様の違いといった約300通りのパラメ
トリック・スタディを自動的に行ってくれる。このSensitivity Analysis(感度分析)と呼ばれ
るシミュレーションの活用法は、現在世界中で多くの実務者や研究者が取り組んでいるシミュ
レーション界隈のホットな分野の1つであり、それをユーザー側が特に複雑な設定をすること
なく実行できるという点で、Insightは画期的なサービスということができる。一方で、最終的
なアウトプットが建物全体のエネルギー消費量に限られていることや選択できる設備仕様など
がアメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の発行する『ASHRAE Handbook of
Fundamentals』の仕様に倣っており、日本国内の標準仕様とは異なること、使用できる気象
データが日本国内ではGBS weather dataと呼ばれるオートデスク独自の気象データしか使用
できないことなど、ユーザー側で設定できる項目に限りがあり、日本の実務者の方々が活用し
ていただくにはまだまだハードルが高かったことも事実である。これまで筆者も、講演会など
でBIMデータのシミュレーション活用に言及する際にはどこか奥歯にモノが挟まったような言
い方にならざるを得なかったのも、こうした理由によるところが大きい。
それが昨年末にリリースされたRevit 2020.1からは、Revitで作成したエネルギーモデルを
OpenStudioのファイル形式である.osmファイルに書き出せるようになった。OpenStudioと
は、世界的に最も使用されている熱負荷解析プログラムであるEnergyPlusのユーザーイン
ターフェースであり、シミュレーションに関わる各種設定を行うことのできるツールである。
これにより、気象データとして拡張アメダス気象データを使用したり、設備機器仕様を日本の
標準仕様に変更したり、あるいはブラインドなどこれまでRevitでは設定できなかった可動遮
蔽物を再現できたりと、より実態に合ったエネルギーシミュレーションを行うことができる。
さらには、建物全体の年間エネルギー消費量だけでなく、熱負荷の時刻別変動や室温変動など、
設計案のディベロップにつなげられるアウトプットを得ることもできる。冒頭の講習会の参加
者からも「エクスポートされた解析モデルがとてもきれいで感動した」「作業が大幅に効率化
される雰囲気が感じられ大変うれしい」といった感想も聞かれ、いよいよ大手を振ってBIM
データのシミュレーション活用を謳えるようになってきたなと感じている。
そもそもBIMデータの性質を考えたとき、そのデータをシミュレーションに活用できずに別途、
解析モデルを立ち上げていた状況はなんとももったいない状況だった。多くの方が感じていた
であろう痒い所に手が届かない状況の改善が図られることで、よりシミュレーションが身近な
存在となるよう、BIMデータを活用したシミュレーション手法に関する情報公開やシミュレー
ションに有用なBIMパーツのリリースなどを引き続き行っていく予定なので、ぜひとも注目し
ていただきたい。