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コラム

ND3Mのスタジオ訪問

2021.03.25

パラメトリック・ボイス         SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎

無事に石澤さんがコラムを引き継いでいただけましたが、まだまだ慶應義塾大学SFCのように
大学として横断的なカリキュラムに取り組んでいない事の方が多いと思います。そのような状
況を学生の方々が自ら変えようとしている例を紹介したいと思います。
 
先日名古屋に行った際に縁があって「名古屋の建築学生発, デジタルデザインムーブメントに
多様な方面からアプローチするデザイン集団.」であるND3Mのスタジオを訪問することができ
活動の話を聞いてきました。

スタジオに到着して最初の印象は、自分も学生時代はこんな感じで材料やスケッチに囲まれて
時間の概念もなく課題をやっていたな、というなつかしさでしたが、そこはさすがにトレーシ
ングペーパーやスチレンボードではなく、PCと3Dプリンターが並び、転がっているものも3D
プリンターで出力された模型やCNCやレーザーで製作されたモックアップです。
(いつ食べるのかわからない飲食物や布団にくるまた徹夜明けの人が転がっているのは一緒
でした)

 スタジオの様子(画角の下に布団があります)

 スタジオの様子(画角の下に布団があります)


既にいくつかのプロジェクトでの成果があり詳細はHPを見ていただければ良いとおもいます
がいくつか紹介させていただきます。
地獄組取付けプロジェクトでは置き場所に困っていた地獄組の作品を株式会社DIXの天井に吊
るすことが目的でした。
大まかな工程としては、まず天井のブレース等をうまくよけたデザインをGrasshopperで複数
検討しTwinmotionでVR確認をしたうえで決定。その後データをEMARFを利用してCNCルー
ターで加工して製品を製作し実施工。という流れで、規模や制約の問題は異なるとしても社会
人と言われる方々ができていない事をやりのけています。
私の立場としては施工のテクノロジーまで導入して欲しかたと思いますが例えばHololens
での位置だしなどはまだ課題が多く、ましてや天井では上向きの作業が多いため、危なくてや
めた方が良いと言うでしょう。
そういった意味でもデジタルコンストラクションを教育に取り入れるのは課題が多いのかもし
れません。

 地獄組プロジェクト(ND3M提供)

 地獄組プロジェクト(ND3M提供)


EMARFに関しては学生アンバサダーとしてサービスの提供を受けることでFabCafe nagoyaで
のワークショップやλ Rack等いくつかの事例がありVUILD株式会社とのコラボレーシンが
積極的に行われています。CNCに関しては実践だけではなくリサーチも行っており、報告も
HPにアップされているので必読です。
 
また私が行った時には、現在進行中のプロジェクトとして、名古屋でビルの屋上を利活用する
プロジェクト「“青空ルネサンス” 屋上から、名古屋に、にぎわいを」でのパビリオン展示に
向けて作業に取り組んでいました。
布に3Dプリンターでフレームをプリントしてユニトを製作しそれらを組み合わせてパビリ
オンを構築するといったものですが、材料特性やプリンター特性等、試行錯誤を繰り返しなが
ら24時間体制で作業をすすめている真っ只中にふらっと行ってしまいお邪魔をしました。

 「青空ルネサンス」パビリオン模型(ND3M提供)

 「青空ルネサンス」パビリオン模型(ND3M提供)


その他にも名古屋の伝統工芸である「有松絞り」のテクスチャを建材にリプロダクトする取り
組みや、本コラムニストでもある杉田さんも講師をつとめたパスタを構造体にするワーク
ショップ等、様々な活動を短期間で精力的に取り組んでいます。

 有松絞りプロジェクト(ND3M提供)

 有松絞りプロジェクト(ND3M提供)


私が特に興味をひかれたのは、大学という枠組みにとらわれずにSNSなどで繋がり集まってい
ることと、様々な先輩方の協力をうまく使っていることです。
今回の話に出ただけでも田村さん(DIX)、秋吉さん(VUILD)、杉田さん(広島工業大学)と建築
テック第一線の方々とコラボレーションしており羨ましい限りです。

ちょっとつまらない言い回しになってしまいますが、既存の建築教育の枠組みには納まりきら
なかった学生と、ある意味では社会にでても枠組みに収まっていない先輩方がSNS等による繋
がりをベースにマッチした、という感じではないでしょうか。

ND3Mの方々は、就職をしてもこの活動を続けていきたいと言っていました。果たして企業側
はこのような才能を受け入れる体制はあるでしょうか。体制がないために受け入れられない、
入っても潰してしまう事ほど残念なことはありません。もちろん、企業の一員としてやるべき
事というのは様々あるので、思い通りにいかないのは当たり前ですが、「体制ありき」という
のは変えてもよいのではないでしょうか。
 
学術的には「建築情報学会」がその役目を担えることを期待しつつ、自分への課題にもしたい
と思います。

最後に、今回お連れいただいた(ND3Mアンバサダーの)林さんありがとうございました。
 

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長