設備サブコンによる本格的なBIM活用の幕開け
2021.05.11
パラメトリック・ボイス 日本設計 吉原和正
前回のコラムで紹介した「設備BIM最前線vol.3」は、電気設備でのBIM活用とビジュアルプロ
グラミングのDynamoをテーマにしたイベントでしたが、4月9日に開催された「設備BIM最前
線vol.4」は、設備の施工でのBIM活用を主要テーマに開催されました。
今回は、「設備BIM最前線vol.4」でテーマにした設備施工でのBIM活用について紹介したいと
思います(詳細はこちらをご覧ください ⇒ 建築設備向けウェビナー:設備BIM最前線)。
設備の施工分野では以前から、2.5次元が主流ではあるものの、納まり調整や干渉チェックは行
われており、施工図作成という目的においては、使い慣れた国内の設備CADソフトで十分事足
りている状況で、現状維持で良ければ、わざわざBIMを導入せずとも済む状況にあったのだと
感じています。
ただ、働き方改革がこの業界でも喫緊の課題で、職人不足や、就業者の高齢化、将来を担う若
者の獲得、そして次世代への技術伝承や、品質向上・統一品質など、今後解決していかなくて
はいけない課題が山積みであるのも事実だと思います。
今回、「設備BIM最前線vol.4」では、国内最大手の設備サブコン2社が、今まではどちらかと
言うと、意匠や構造のツールだとか、設備でも設計用のツールだと言われることが多かった
Revitを利用して、設備施工でどのようにBIMを活用し、メリットが見いだせるのかを具体的に
発信してくれました。
今まで、設備の施工でRevitの活用が進まなかった一番の原因は、単純に、国内で使える設備用
のオブジェクト(ファミリ)や、テンプレート(Revitのプロジェクト用のフォーマット)が整備さ
れていなかったことにありましたが、設備設計用のテンプレートやジェネリックファミリを
ベースに、施工でも使えるテンプレートやファミリを拡充してきたことで、現在では、施工図
や総合図で表現が必要な、サイズやレベル、寄り寸法の表示も可能になり、Revitで十分作図可
能な状況になってきているようです。今後も、Revit User Groupを中心に、設備設計とも共通
して利用可能なテンプレートをベースに、施工用オブジェクトの拡充を進めていく予定なので、
コンテンツ不足の課題は早晩解消されるはずですし、Revitの場合はオブジェクトを自前で拡充
することも可能なので、国内コンテンツ不足の問題はそろそろ言い訳にできない段階に来たの
ではないかと思っています。
総合図や施工図をRevitで描けるようになってきたことで、改めて浮き彫りになってきたBIMの
メリットにも言及しています。それは、今までのように図面別や階別に分断した複数のファイル
を扱うのではなく、一元化されたひとつのBIMモデルを、ワークシェアリングで複数人が同時
編集可能なことによるメリットで、ある施工図の修正を行えば、同時に他の施工図や総合図、ス
リーブ・インサート図などにも反映されるため、今までのように図面ごとに整合を確認しなが
ら何度も何度も同じ修正を行う手間が省ける点をあげていました。また、一元化されたBIMモデ
ルは、クラウドで扱うことも可能なので、作図部門と現場側のチェックのやり取りもスムーズ
に運用できるようになっているようです。
更に、BIM本来の属性情報を活用することで、プラン変更による意匠モデルの部屋面積取得や
これと連動する設備機器容量の見直し、電気負荷情報の電気工事業者への伝達、スリーブ・イン
サートに工区・管理番号・メーカー型式等の属性情報を付与し発注や施工管理へ活用、レーザー
墨出しシステムとの情報連携による現場管理の効率化など、設備施工でのBIMの属性情報の有
効活用方法も徐々に見出されて来ているようです。
メーカーも続々と、ルールに則った属性情報を具備したメーカーファミリを提供し始めているた
め、今後は更に便利になってくるはずです。
設備施工の業務は、施工図を描いているだけではなくて、品質確認・品質管理・原価管理・安
全管理など多岐に渡っているため、このBIMのデータを有効に活用可能な余地はまだまだある
はずです。BIMの一番のメリットは、「物が特定できて、数が数えられて、仕分けできる」パ
ラメータ管理にあるという意見もあり、ステータス管理(発注済、搬入済、据付済、試運転調
整済などの管理)や、工程シミュレーションなど、今後活用の幅はどんどん広がっていくもの
と思われます。
ダクト製作など、製造との連携も進んできていて、国内でもようやくファブリケーション機能
を利用したCAD/CAMの実現が現実味を帯びてきています。施工図はあくまで人間への伝達手
段であって、ダクトや配管などものを製造するためには、ダクト加工機など機械が読み取り可
能な形式でデータを入れ直す必要があります。現状、日本の建設現場では、ベテランの職人達
が施工間際に(徹夜で?)手入力で対応している状況にありますが、カッティングレングスも管
理可能なファブリケーション機能を利用することで、機械が読み取れるデータ形式に加工しデ
ジタルデータでダイレクトにやりとりできるようになります。また、ファブリケーションを活
用することで、製造に必要となる正確な詳細情報を管理することも可能となり、アイソメス
プール図への変換なども容易に行うことができます。
(ダクト用ファブリケーションパーツについて ~Revitによる建築設備のDfMA~)
2019年11月にこのコラムで配信した「BIM-MEPAUSの10年の取組みから学ぶべきこと②〜
ファブ連携〜」でも触れましたが、海外では当時から既に、ファブリケーションパーツを利用
したプレファブリケーション工場でのアッセンブルや、ユニット化が現実のものとなっていま
した。
オーストラリアのBIM-MEPAUSの取り組みに触れてから2年の歳月が経ちましたが、ようやく、
その取り組みを日本でも具体化できる準備が整ってきたようです。これからの展開に期待した
いと思います。
今回の、「設備BIM最前線vol.4」で登壇したシカゴの設備施工会社であるThe Hill Group
では、ファブリケーションで持てるリッチな情報を扱うことで、詳細なコスト管理を行いサプ
ライヤーとの戦略的な関係強化をはかったり、API(Application Programming Interface)を
使ってファブリケーション機能を拡充し、社内業務プロセスにフィットさせた、独自のシステ
ムを構築し運用しているとのことでした。
自社で所有する広大なプレファブリケーション工場では、配管やダクトのアッセンブルや、浴
室廻りや病院の診察室などのモジュラールームの製作を現実のものとしていました。これは、
ファブリケーション機能を利用した詳細なBIMモデルの情報マネジメントの賜物とのことで、
これらで培ってきた詳細な製造データベースを分析し、更なる深度化と差別化をはかっていこ
うとしているようでした。
今後、建設業界においても、長時間労働の是正など働き方改革を進めていく必要に迫られてい
ます。若者に魅力ある業界として設備施工分野へ入ってきてもらうためにも、現状維持を打破
して、次の時代に備えた取り組みをそろそろ開始する時ではないでしょうか。