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コラム

建築BIMの時代12 継続は力なり

2021.05.13

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

時宜を逸してしまったが、2月17日に開催された建築学会の「BIMの日2021シンポジウム」
に触れたい。石津さんのコラムでも述べられていたので、皆さんもよくご存知だと思う。今
年の企画は「BIM の再定義~ BIM って何でしたっけ?」というテーマで、コラム仲間の山
梨さん、関戸さん、石津さんらに加えて大林組の中沢さんにお話いただいた後、私の司会で
「これからのBIMを再定義する」というパネルディスカッションが行われた。
 
皆さんのお話を聞いて、BIMの多義性、奥深さを再確認した。山梨さんは、BIMの考え方、
取り組みを俯瞰し「革命的なBIM」と「改善的なBIM」があり、その発露に「マスプロダク
ション」と「マスカスタマイゼーション」があるとして、そのマトリックスすべてが大事だ
というお話をされた。中沢さんには、入社以来、建築でのデジタル技術の活用に取り組んで
こられた実績と経験からBIM活用の効果についてお話いただいた。関戸さんには、経営者の
視点からBIMの魅力と威力についてお話いただいた。BIMには経営・ビジネス・ICT(技術)
の3つのエンジンが必要だが、日本ではまだビジネスの部分が弱いが、海外ではそれらがか
み合ってBIMが一般化していると警告された。石津さんは、さまざまな企業での職務経験や
個人での活動を通して、BIM業界を内と外から見た内外のギャップとそれを埋める活動につ
いてお話された。「BIMを再定義」することは叶わなかったが、さまざまな視点からBIMを
論じていただいた。建築および建築に関連するビジネスにおけるBIMとデジタル技術の将来
性、可能性を感じることができた。
 
シンポジウムでの中沢さんのお話に大いに触発された。中沢さんは1986年に大林組に入社
されたとのこと。会社は異なるが、私と同期入社である。入社以来、一貫してCADやBIMの
開発や運用に携わってこられたようで、講演とパネルディスカッションでは、この間の挫折
や今に至るまでの苦労を語っておられた。お話の端々から、中沢さんの建築とデジタル技術
に対する熱い思いや信念を感じ取ったのは、私だけではないと思う。大林組のBIMへの取組
は同業他社から一歩も二歩も先んじていると感じている2009年が日本のBIM元年と言われ
ているが大林組はいち早くBIM推進室をつくり2013年にはBIMを推進する組織としてPD
センターを立ち上げている。2017年には“ワンモデルBIM”を提唱し、それを発展させたもの
として2020年6月には鉄骨の「BIMモデルにおけるデジタル承認を実用化」したと発表して
いる。私のような部外者から見ると着々と成果を上げているように見えるが、ここに至るに
は相当な苦労があったことは想像に難くない。中沢さんの言葉を借りるなら「多くの先人を
阻んだ扉」があったとのことである。その扉をこじ開けるように、継続してCAD、BIMに取
り組んで来られたことに敬意を表する。中沢さんをはじめ大林組の皆さんのように信念を
持って継続して取り組むことが、成果を上げることになるのだと、思い知らされた。
 
大林組の取り組みだけが、正しいわけではない。それぞれの人や組織で、思うところ、期待
すること、信念は異なってしかるべきである。BIMへの取り組みで苦労されている人も沢山
いらっしゃると思う。一足飛びに成果を出すことは不可能ではないが、難しいと思う。デジ
タル技術を信じて、目指す目標に向かって地道に結果を積み上げることで大きな実を結ばせ
て欲しい。タイトルにした「継続は力なり」の出典は明確でないそうである。論語に「これ
を知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。」という言葉
がある。BIMを楽しんで成果を上げていただきたいと思う。
 

 ヘルシンキのテンペリアウキオ教会

 ヘルシンキのテンペリアウキオ教会


 ヘルシンキのテンペリアウキオ教会(パノラマ写真)

 ヘルシンキのテンペリアウキオ教会(パノラマ写真)

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長