だからBIM-ECは面白い
2021.08.03
パラメトリック・ボイス
スターツコーポレーション / Unique Works 関戸博高
BIMに出会った8年前からそのデータの利活用の可能性を経営的視点から見てきた。その時々
に注視する対象は変っているが、基本的テーマはBIMデータを「建築」の外の世界とどうつな
げることが出来るかである*1。今はBIM-EC(BIMデータ活用による電子商取引)を追いかけ
ている。モノとお金の情報、つまり経済活動の本流をBIMのデータを介して扱うため、関係分
野が広く、よく分からないことも多い。だから面白い。
BIM-EC のシステムをインフラ化(社会基盤化)出来ないかと言う思いは、コンソーシアムを
立ち上げた時からだ。前回このコラムに『幸運な出会いは、いつもあなたのそばに』(2021.
05.18)というタイトルでBIM-EC の今後の課題について触れた。その直後、国交省の今年度
のBIMモデル事業に、このコンソーシアムの実証実験を含めた諸々のことが「建材と施工の電
子商取引に向けたBIM連携の効果検証*2」のタイトルで採択された。現在会員企業と検証作業
を進めている。
この効果検証と共に長期的に目指すものは、このBIM-EC のシステムを社会的・経済的に広く
活用できるものにすることである。言い換えれば、いかにして企業組織の壁を超えて、各々が
持つBIM情報を効率良くかつ付加価値のあるものにするための社会基盤を作れるかである。前
号で示したスマートシティー・リファレンス・アーキテクチュアを参考にしたBIM-EC システ
ムの全体像を再度作図し直した。コンソーシアムとしては、図の中で①〜⑩の番号が付いた
各項目の深化と相互の連携を、これからひとつずつ詰めて行くことになる。
簡単に説明をしておきたい。多少前号と重なる所もあると思うがご容赦願いたい。
① BIM-EC マネジメント:ヒト・組織全般をリアルに扱う領域。
② BIM-EC オペレーティング・システム(OS):BIM-EC全体をデジタル技術で支える心臓
部の確立及び展開する領域。OS構築はUniclass2015を基本とするコード分類の日本にお
ける有効化、データ変換方法の共通化、データベースの構築等々。これから数え切れない
程のことをやる必要がある。
③ BIM-EC戦略:このシステムがどのようなゴールを目指しているのかを明示する。
④ BIM-ECサービス:⑤のBIMデータ資産を②のOSによるデータ加工・連携を通して新しい
サービスの開発の支援、参画企業への情報提供等々を行う。ここに新しいサービスが生ま
れる。
⑥と⑦ BIM-ECビジネス及び推進組織:リアルな世界で成果を出すためのマネジメント項目。
これが機能しないと全ては絵に描いた餅になってしまう。
⑧と⑨ セキュリティ及びルール・ガイドライン:これ無くしてはそもそもシステムが成立し
ない。
⑩ 他の(ビジネス領域)のデータ活用システム:搬送・金融・決済などの他分野との相互運
用・連携。これが出来て初めて一人前のシステムになる。
本来はここでコンソーシアムの組織論・運動論を展開しなければならないところだが、そこに
行くにはまだ十分な検討が必要だ。参加企業はそれぞれ独立した文化・規範を持っているから
だ。そんな折、BIM-ECの前途多難さを予告する論文を見つけた(笑)。立本博文筑波大教授
の論考(『コロナ後の日本企業〜DXに産業政策的な支援を』日経新聞経済教室210722)であ
る。ここで立本教授は経済産業研究所が行った実態調査(2020年)をもとに日本企業のDX化
の遅れを指摘し、次の様に述べている(本当は全文を読んでもらいたい)。
「(企業においてー関戸注)多くの場合、DXとして行われるのは作業のデジタル化である。
このとき縦のDXと横のDXがある。(中略)(日本企業の部門間・企業間のー関戸注)縦割り
の組織構造が、DXによる生産性向上を制限しているのだ。これに対して、今後必要とされる
のが横のDXである。横のDXとは、成果として生み出されたデータを部門の壁や企業の境界を
超えて共有すると言うものである。組織を超えてデータを流通させることによって、大規模で
迅速なオペレーションが可能になる。データを共有することで圧倒的な効率化が可能となる。
このような横のDXは、単にあるひとつの部門の作業改善ではなく、組織の壁を越えるため、
経営戦略としてサポートしなければ実現することが難しいだろう」。その通りだと思う。だか
ら面白い。そしてこう付け加えている。「オープンな企業間連携の場として業界団体やコン
ソーシアムが重要になる」。
さてここから先はコンソーシアムの決議を経ていないので、私個人の見解であるが、今後はこ
のBIM-EC SYSTEMの全体像の具体化・精緻化を計りながら、並行して参画企業を増やす必要
があると思っている。今までコンソーシアムでは一業種一社を原則としてきた。発足当初どう
なるか分からない段階では、意見の一致をみやすかったからだ。
今回モデル事業採択を経て、多くの企業にもコンソーシアムの方向性が、より分かりやすくな
るはずだ。社会的に影響力を持つ仕組みにするには、多業種で複雑な建設業の取引において通
用する仕組みにする必要がある。もう一歩先に進みたい。読者諸氏にも是非この動きに注目し、
様々な場面での協力をお願いしたい。
*1 「あなたのBIMデータは生かされていますか?」(2021.02.26)
3つのエンジンとは、①経営のエンジン②ビジネスのエンジン③ICTのエンジン。
*2 正式名称は「令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル
事業(先導事業者型)」
事業者名は手続き上コンソーシアム名ではなく、スターツアセットマネジメント(株)
になっている。