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コラム

続BIMへ変わるための時間

2021.09.28

パラメトリック・ボイス                   熊本大学 大西 康伸

前回のコラムで、図面をなくすことはできるか、という話題について書いた(7月13日のコラ
ム「BIMへ変わるための時間」
私が30年前に建築を学び始めた時から当たり前のように存
在し、今も当たり前のようにある、図面。今後も何のために図面が必要か、を考えてみたいと
思う。

最近、図面を介さないで検討するいくつかのチャレンジを行っている。その一つに、鉄骨建方
の可否判定を構造設計モデルを用いて行うという取り組みがある。従来建方計画は、クレーン
をどこに設置し、鉄骨部材をどの順番で建てるかを決めるために、平面図や立面図を用いて
行ってきた。
クレーンには揚重可能半径があり、それはクレーンの種類やアウトリガーの張り出し長さ、
ジブの使用不使用、揚重部材の重さで決まる。ある部材を揚重する場合、その半径内にクレー
ンを配置する必要があるが、手間の問題から部材ごとにクレーンを移動させるわけにはいかな
いので、同じクレーンの位置からできるだけ多くの部材を建てたいという要望がある。
一方、すでに建方が終わっている鉄骨部材に揚重部材やクレーンのブームが接触しないように
部材を建てる順序を決めなければならない。原則はクレーンの位置からより遠い部材からとい
うことになるが、小梁は大梁が先にないと取り付けができないし、その大梁は階をまたいだ柱
のピースが先にないと取り付けができない。では柱のピースだけ先に建てるかというとそうで
はなくて、一本では自立できないし安定しないので、柱のピースと大梁は安定性に配慮して順
次建てなければならない。
また、敷地形状が入り組んでいたり狭小であると、クレーンを配置する場所に制約があったり
敷地境界線からブームの先端がはみ出ないようにブームの動きに制限があったり、配慮する事
柄がやたらと多い。
平面的に鉄骨部材を表現した図とクレーンの定格総荷重表を頼りに、人の頭の中だけでこれを
立体的に検討するのは困難を極める。時間と共に鉄骨部材は組み上がり、敷地はどんどん狭く
なる。しかも、部材を揚重する度にブームの角度や長さが変わる。立体で、かつ形状が刻々と
変わり、かつ絶えず動く。ああ無理だ、と思う。

ここで思い出してほしいのが、図面は人が理解するためにある、ということである。建方を計
画するために図面が必要だとすれば、それは人が考えるからである。コンピュータにクレーン
の位置に対応した各部材の建方の可否を判定させ最適なクレーンの位置を提案させれば、建方
計画の策定時に図面は必要なくなる。図面への依存度の低下によって自動化の進展が図られる
のである。残念ながら現時点での我々の試みは、人が指定したクレーンの位置に基づき部材の
建方可否を自動判定するBIM上で動くプログラムを開発したにすぎないが、近々コンピュータ
がクレーンの種類や設置場所を提案する日も近い。

 研究室で開発したBIM上で動く建方計画支援システム(建方可否を色で表現)

 研究室で開発したBIM上で動く建方計画支援システム(建方可否を色で表現)


また、通常建方はゼネコン、鉄骨ファブ、鳶職人で検討を重ねるが、より詳細に検討を行うの
は鉄骨ファブや鳶職人など実際に鉄骨を製作し施工する人々である。ゼネコンからの発注が進
まないと具体的な検討が始まらないため、計画が後手後手に回り、場合によっては工区割りや
柱の節の位置などに手戻りが生じることもある。さらに、工期が決して十分でない中で、一つ
一つの鉄骨部材について建方の検討を行うのは現実的ではない。クリティカルな部材のみ詳細
に検討しその他の部材は経験に基づき建方可否判定を行う、ヒューリスティックな方法で建方
計画が策定される場合も多い。建方可否判定の自動化は効率を高めるだけでなく、早期の段階
での鉄骨部材の全数検討によって正確かつ十分に計画を練ることができる。結果、コスト削減
や安全性の向上に寄与する。工期短縮を第一に考え、設計を多少変更することも可能になるだ
ろう。また、このプログラムと工程表を繋ぐことで、その先には施工時の鉄骨建方のビジュア
ルシミュレーションが待っていることが容易に想像できよう。

実はこの取り組みは、2年前の日本建築学会の通称情報シンポの会場で、とあるゼネコン設計
部のM氏から、ぜひ何かやりませんか、とお声がけいただいたことから始まった。
これまで、ご縁のあった方々からお声がけいただき、幸運にも共同研究としてご一緒させてい
ただいてきた。大抵はご担当者の熱意にほだされて、共に何かを変えたいという思いで懸命に
取り組んできた。このような出会いはオンラインにはない醍醐味である。コロナ禍でこのよう
な機会はめっきり減ってしまったが、熱意ある方とどうすれば巡り会えるか、常日頃あれこれ
考えている。

話が少々脱線したが、とは言うものの図面がないと色々困るんだよね、そんな台詞を耳にする
ことも多い。そう言わずに、図面がなくてもできる方法、いや、そもそも必要でない方法を
探ってみてはどうか。実は、図面をなくすということだけでなく、設計時に生成したデータを
どうにかして施工で使えないか、という課題もここにはある。建築プロセスの上流で生み出し
たデータをその下流で利用する、これこそまさにBIMコンセプトの根幹であるが、それがなか
なかできていない現状がある。図面を描く労力を削減する以上の、何かがある。そう信じて、
これからも図面を疑いたい。

大西 康伸 氏

熊本大学 大学院先端科学研究部 准教授