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コラム

オープンコミュニティと技術発展における
ワークショップの意義

2021.10.14

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

建築Architecture)エンジニアリング(Engineering)建設(Construction)業界でソフ
トウェアとテクノロジーに関するより多くのスキルに対する需要が高まっており、多方面の技
術を組み合わせるためにも広い技術に対する知見を持つことが求められています。各テーマを
もった学会をはじめ、会社や組織がオープンコミュニティをつくることで、業界をリードして
いるという会社のプレゼンスの向上にも繋がり、企業がそのようなワークショップやカンファ
レンスを主催することが増えています。
 
例えば、Thornton Tomasettiは、アメリカのニューヨークに本社がある世界的に有名なエン
ジニアリングコンサルテング会社のAEC Techというコミニテが代表的ですThornton Tomasettiのサービスは、構造設計から、ファサードエンジニアリング、土木や都市工学まで
多岐に渡ります。社内の研究開発CORE studioによって、先端技術に焦点を当てた専門知識、
計算シミュレーション、ソフトウェア開発、自動設計などの人工知能、機械学習を提供してい
ます。Design Exploreをつくったことで日本でも有名ですAEC TechはCORE studioが主催
するオープンコミュニティで年に1度、4日間のイベントを主催しています。世界の先端技術で
有名な企業から講師を募り開発系ワクショッ講演者とプレゼンテおよび26時
間のハッカソンが行われます。それらを通して、プロジェクトの成長、開発、ネットワーキン
グのためのスペースを提供し、業界全体の技術発展へと貢献しています。
 
私たち自身も有志で毎週集まているTAECという勉強会もそういた最新技術をワクショッ
プを通して触れていくという趣旨で運営しています。また、建築情報学会の理事としても育成
委員会の活動をしている中でSessionというハンズオン形式の動画配信を試してみました。
 
なぜ、このようなハンズオン形式やワークショップ形式が良いと考えているかという理由は、
5つのことを達成できるからです。
 
まず1つ目は、「人を知る」ことから始まる多様性への理解です。建築情報技術に携わる人た
ちのテクニカルセッションを通して、その人たちが日々何を考え、どうようなことを仕事にし
ているかを具体的なトピックを通して語ります。多様な専門領域に携わる人から、携わる人の
多様性を知ることができます。
 
2つ目は、「専門領域」を通した建築の拡張性です。建築を情報として捉えると、図面に携わ
る仕事や実際に建てる仕事といった設計、生産以外の専門性も建築に関わります。その領域は
普段から情報に触れていない人たちにとっては言葉で情報と聞いていもピンとこないので
際にデータやファイルを見て、領域を体験してもらいます。
 
3つ目は、「実際に触れる」ことによる実体験の共有です。情報技術と建築の融合を実際に手
を動かすセッションで体感できます。講師役のスペシャリストが使う様子を通して知る技術は、
プレゼンのように整えられたカタチではなく、リアルを知ることになります。
 
4つ目は、「ワークフロー」を考える上での協業のイメージをつくることです。セッションや
ワークショップを提供する講師たちはそれぞれ違う専門領域の方々です。学術、実務、領域、
年齢も様々です。講師役とホスト役と分かれているので、違う文脈にいる方々がディスカッ
ションしている様子が、越境した協業のイメージを聞き手に伝えることができます。
 
5つ目は、「先端技術」の最新情報を得ることです。建設分野へのデジタル技術の応用は日進
月歩で進んでいます。その時々の最新情報をリアルタイムに見ることができます。本や雑誌な
どのメディアも素晴らしいですが、リアルタイム性では記事を整える必要があり、少しタイム
ラグがあります。それをすぐに体験できる形がハンズオンは実現しやすいと考えます。
 
 
私がコンピナルデザインをETHzで学んでいたときは、教授助教、研究員、博士の
方々が、自分の何十倍の速さでプログラムを書いていることや、ルールが記載されている文章
からロジックを考えて、さらりと実装するという体験をしています。
 
当時、色々なワークショップに出ようものなら、先輩方には到底かなわない、日々の過ごし方
も家族もいるのにどうやって勉強時間を確保して、成長を続けれるのだろうと疑問に想いなが
ら「憧れ」という存在や自分の現在地、次のステップを考えていました。
 
言語の学習や制作自体の何十時間は、孤独な時間です。自分でやらないと成長できないので一
人でやらないといけないことが多くあります。その中で、集まることで自分自身の偏見を取り
払い、領域を拡張し、目標をみつけることができる、時に挫折したり奮起したりといった当た
り前の日常を国内でも作ることができればよいなと日々考えています。それに賛同してくれて
コミュニティ運営を手伝ってくれている仲間に出会えて、支援者にも、運営する機会にも恵ま
れていることに非常に感謝しています。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役