BIMオタクも大事だが、それだけではやっていけない
2021.12.21
パラメトリック・ボイス
スターツコーポレーション / Unique Works 関戸博高
BIMデータを活かして従来の仕事を組織の枠を超えてシステム化しようとすると、自分たちが
他部門の仕事について、ほとんど無知だということに気付く。いつもは習慣的に仕事をしてお
り、不明な点は人に頼って解決しているから無知の自覚がないだけだ。だがその仕事のプロセ
スをシステム化するには、全体を解きほぐさなければ進まない。時間を掛ければなんとかなる
のだろうが、もっと合理的に進めることは出来ないだろうか。
そんなことを考えていた折、「個人の知識」に対して「知識のコミュニティ」の重要性につい
て、認知科学の立場から書かれた本に出会った。
「私たちが個人として知っていることは少ない。それは仕方のないことだ。世の中には知るべ
きことが多すぎる。多少の事実や理論を学んだり、能力を身につけることはもちろんできる。
だがそれに加えて、他の人々の知識や能力を活用する方法も身につけなければならない。実は
それが成功のカギなのだ。なぜなら私たちが使える知識や能力の大部分は、他の人々の中にあ
るからだ。
知識のコミュニティにおいて、個人はジグソーパズルの一片のようなものだ。自分がどこには
まるかを理解するには、自分が何を知っているかだけでなく、自分は知らなくて他の人々が
知っていることは何かを理解する必要がある。知識のコミュニティにおける自らの位置を知る
には、自分の外にある知識について、また自分の知っていることと関連のある知らないことに
自覚的になる必要がある。」(太字下線は関戸の加筆)
(『知ってるつもり〜無知の科学』スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック
早川書房)
言われてみれば当然なことだが、この一文を横目で見ながら以下のようなことを考えてみた。
企業内でFM業務をBIM-FMとして新たな仕組みに再構成しようとすると、当然のことだがBIM
オタクだけでは、リアルな仕事の領域を対象として進めることはかなり困難だ。何故なら今ま
でのやり方は業務領域によって、部門ごとの区分けとそれに合わせた社員の専門知識(経験を
踏まえた暗黙知)の固定化がなされているからだ。一方システム化の目的はコミュニケーショ
ンを通じて、その壁を取り払い(見える化による形式知化)、川上の情報を川下へとつないで
いくこと、かつその統合化にあるからだ。
最近、FMシステム社の柴田社長にお願いして、BIM-FMの勉強会初級編を行った。私がアドバ
イザーをしている複数の企業社員向けのものとして企画したものだ。やりたかったのは、私が
日頃アドバイスをしている中で、それぞれの人の専門性が設計・施工・ビル管理・管財と多岐
に渡り、またBIMについての理解度にバラツキがあるため、アドバイスをしても常に何処かで
消化不良を起こしている感じがしていることへの対処であった。 FMシステム社のBIM-FM用
ソフトFM-Integrationを中心としたシステム全般についての説明は、柴田社長にお願いして、
私は「BIM-FMのコミュニティ」のアウトラインを示すために作成した図表が以下のものであ
る。
「BIM-FM」という言葉で表現している仕事の領域は、この図にあるようにBIMデータの作成
からAM(Asset Management)および企業経営を含む範囲を意味する。個々の仕事の領域は、
これまで専門が分かれており、それぞれに独立した情報を把握し、判断・対処することでよ
かった。
これからはIoTの利用も含めてリアルな世界で何が起こっているかを把握し、経営の判断に至
るシームレスな情報も提供できるようにしなければならない。
逆に言えば、BIM-FMに関わる人は、この領域において自分の立ち位置を自覚していることが
求められる。
この図は図表1で示したリアルな仕事を情報連携の側から表現したものである。この連携図の
背後では、どの情報をどのような「形状情報と属性情報」で残し、または残さないかという組
織ごとの試行錯誤を踏まえた判断が必要になる。そして、結論を出し、前に進むにはリーダー
が必要だ。
(なぜここでリーダーについて書くかというと、リアルな仕事では必ず組織=リーダーの存在
が裏打ちされているが、情報のフロー図からは人間が抜け落ちてしまうからだ。敢えてここで
触れておきたい)
このリーダーについては、前出の本『知ってるつもり〜無知の科学』からもうひとつ引用して
おきたい。通常の経営本とは違う認知科学的リーダー論だ。
「知能は特定の個人ではなく、コミュニティの中に存在する。このためコミュニティの知恵を
引き出す意思決定の手続きは、比較的無知な個人の力に頼るものより優れた結果をもたらす可
能性が高い。有能なリーダーとは、コミュニティをもり立て、その内に宿る知識を活用し、メ
ンバーのなかで最も専門能力が高い者に責任を委譲できる人だ。」
普段行っている仕事の解きほぐしと、その情報をBIM情報に連携させた上での再編集は、今後
広くBIMデータを有効に使っていく上で、常に課題になってくるだろう。「知識のコミュニ
ティ」という考え方は、そのリーダー像も含めて、凝り固まってしまった仕事の現場において、
ワークショップのような方法論を補完する有効な指針になるに違いない。
補遺
前号で個人・組織のBIMリテラシーの低さの原因が情報インフラの未整備と嘆いたが、今回述
べた「知識のコミュニティ(著者は超絶知能と表現)」の文脈から言えば、そのコミュニティ
を自らの周辺に作る努力を欠いては、リテラシーの向上は望めないことになる。ならば、少し
飛躍するが、BIMオタクを含めた個人のネットワーク(コミュニティ)こそが、今後求められ
る方法論ということになる。これについてはまた別稿で触れたい。