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コラム

コンピュータ利用の進化とBIMの出口

2016.01.14

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

新建築2016年1月別冊「ビルディングタイプ進化論 大成建設設計本部90周年」が発行され
た。ビルディングタイプの進化だけではなく、技術の進化や都市の進化が取り上げられている。
身びいきかもしれないが、読みごたえのある一冊である。是非手に取ってご一読いただきたい。
 
この本の制作過程で、コンピュータ技術の進化について考える機会を得た。ENIACが完成した
のが1946年、大成建設のコンピュータ利用の開始は1957年、ともに筆者が生まれる前の話で
ある。古い資料、諸先輩の話を参考に同僚と一緒にまとめたのだが、技術の進化に比して根本
的な考え方は進化していないのではないかと思い至った。コンピュータシミュレーションは計
算の延長であり、扱う対象や精度、シミュレーションの手法は進化しているが計算で事前に確
認するという主旨は変わっていない。CGアニメーションも、映像によるプレゼンテーションと
いう意味ではチャールズ・イームズの「National Fisheries Center and Aquarium」のプレゼ
ンテーションと同等をいえる。CADは図面の束縛から一歩も抜け出していない。BIMはどうか。
建築生産プロセスや情報活用などへの影響が期待されているが、まだ実を結んでいない。コン
ピュテーショナルデザインがもたらす変革も萌芽が現れつつあるところだろう。
 
しかし、BIMやコンピュテーショナルデザインは、概念的には以前から考えられていた部分が
あるものの、他との連携を強く意識している点が新しくこれまでのコンピュータ技術と大きく
異なっている。デジタル情報を介して、ロボティックスやセンシングなどの新たな技術とつな
がることで大きな変革をもたらす。昨今脚光を浴びている自動車の自動運転は、高精度の測位
技術と地図情報、周辺状況のセンシングと認識の技術、それらを統合して自動車を制御する技
術で実現されている。それぞれは個別の技術、システムであるがそれらがデジタル情報を介し
て連携することで自動運転が実現されている。デジタル情報による連携の重要性が分かる。
石澤さんのコラム「不気味の谷のBIM」にも通じるが、今はBIMの出口が見えずさまよってい
るといえる。前回のコラムでBIMは建築のデジタル情報化の基盤だと述べた。BIMによる建築
のデジタル情報がどのように使われるかを考えることが、BIMの出口へと導いてくれると信じ
ている。

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長