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コラム

能あるA.I.は爪を隠す?

2016.01.28

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

■A.I.ブームが続いている
年が明けても、コンピュータにまつわる話題の中心はA.I.。WIREDなどの雑誌がA.I.に多くの
ページを割いている。話題の中心は、大量のデータを通して自己学習をしていく「ディープ
ラーニング」と、A.I.が人間の知性を乗り越えるという「シンギュラリティ」だ。
 
シンギュラリティが本当に訪れるのか、そして多くのシギュラリタリアンが唱えるようにその
後には別次元の幸福な世の中が現れるのか、はたまたホーキング博士のようなA.I.ペシミスト
が警告するように危険極まりない世の中が訪れるのかは、僕にはちんぷんかんぷんで予想の糸
口さえつかめない。
ただ人工知能が本当に人間を超えるほど賢くなる時代が訪れるのならば、おそらくは目立つこ
となく、人類を脅かすこともなく、本当の思惑が何であろうともフレンドリーな顔つきをして
人間社会に深く潜航し浸透していくのではなかろうか?能ある鷹ならぬA.I.は、きっとその爪
を隠すに違いない。
 
■隠れA.I.に金縛り
そんなへそ曲がりな僕の視点から見れば、昨今の派手なA.I.ブームは、いわゆる「見せ金」み
たいなもので、本当のA.I.の応用は、その派手な表舞台の影で秘密裏に僕らの生活の中に入り
込んでいるのでは?などと勘ぐってしまう。ディープラーニングにしたって、これまでどうす
れば儲かるのかよくわからないけどなんとなく儲かりそうな気がしていたビッグデータが、急
に途方もない価値を持ったものに見えるきっかけになったわけだ。しかし、こうしたものが本
当に直接的に莫大な富と直結するアイデアならば、能ある発案者はそのアイデアを隠蔽し独占
したはず。と考えると、ディープラーニングもまた見せ金であるのかもしれない?といった邪
推が僕の凡庸な脳裏を駆け巡り出す。ディープラーニングのコンセプトが公開されたのは、公
開した方が多くの利益につながるからであり、コンセプトが見えるようになって最も恩恵を受
けるのは、データを握っているGoogleのような企業であるはずだ。Googleはディープラーニ
ングを見せ金に、データを集め続け、誰も気が付くことのない深層部からA.I.という見えない
ワイヤーで僕らを気が付かぬうちに金縛りにしてしまおうと企んでいるのでは、といった三流
SF映画まがいの妄想にいつの間にやら耽ってしまった。
 
■A.I.は現代の錬金術か
ここで目が覚め、自分自身の身の回りを再確認して今更ながら驚いた!まずiPhoneやiPadを使っ
ているにもかかわらず、スケジュール管理は公私ともにGoogleのスケジューラーとなっている
し、Googleアカウントを通して、公私のメール、複数のPCとデジタルディバイスが連動する環
境となっている。その上で当たり前のようにGoogle検索やマップ、Chromeを使いまくってい
る自分がいる。この裏にはすべてGoogleのA.I.が動いているはずだが、普段はその存在を意識
することなく、便利なシステムとして使っている。いつの間にやら完全な金縛り状態だ。僕自
身は、これらの環境を通じてGoogle側に無価値な個人情報をGiveするだけで、Googleの様々な
アプリからの様々な利便性をTakeするといった、ささやかなギブテイの関係を享受し、満足を
している。その一方で、Google側では集まってくるそれだけでは無価値な情報の集積にA.I.を
噛ますことでいかなるGiveを享受する現代の錬金術を考えているのだろう。
 
■良薬は口に苦しvs長い物には巻かれろ
実は、この原稿を書きながらも、20万枚を超えたデジタル写真の整理、紐づけに苦慮し始めた
僕は、「Googleフォト」の自動整理機能が便利らしく、かつ容量無制限かつ無料とのうわさを
聞きつけ、全写真データをアップロード中だ。目先の利便性の甘さをgiveするために、個人が
秘蔵していたとしてもほとんど価値がない写真データをgiveするだけで、莫大なデジタルスト
レージ領域とデータ整理の自動化というtakeを得られるという、極めて甘い話だ。そしてその
裏には、A.I.が絡むことで僕のくず写真がGoogleに富をもたらす何らかの錬金術が行われてい
ることは間違いがない。
「良薬は口に苦し」のことわざを思い出し、こんな隠れA.I.による金縛りは解かれるべきもので
あるのか、はたまた「長いものには巻かれろと」とばかりA.I.に身をゆだね、気楽にギブテイの
関係を享受することが今日的小市民の正しい選択肢なのかを考える必要がありそうだ。

 Googleフォトの画面。
 20万枚のほとんど無価値とでもいえる個人写真を提供する見返りとして、それを保管する膨大
 なデータ容量と、自動整理やバックアップ機能を得るメリットは個人にとっては大きい。一方
 のGoogleはこの無価値な個人データの集積にA.I.を噛ませることで、いかなる錬金術を企てて
 いるのだろう。

 Googleフォトの画面。
 20万枚のほとんど無価値とでもいえる個人写真を提供する見返りとして、それを保管する膨大
 なデータ容量と、自動整理やバックアップ機能を得るメリットは個人にとっては大きい。一方
 のGoogleはこの無価値な個人データの集積にA.I.を噛ませることで、いかなる錬金術を企てて
 いるのだろう。

山梨 知彦 氏

日建設計 チーフデザインオフィサー 常務執行役員