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コラム

BIMによる有名建築の再現と建設費の算出

2016.02.18

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

小生がこのコラムに初めて寄稿した時の内容は、3年生向けのゼミで実施している、BIMを利
用したサヴォア邸の見積りの話であった。このゼミは有名住宅のBIMモデルを構築し、BIM
ソフトウエアで得られる数量を用い、現在の東京に建設するという仮定のもとで、設備を除い
た建設工事費を見積もるプログラムである。今年度のゼミで、学生たちが取り組んだ建築は、
フランクロイド・ライトの落水荘、ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ・パビリオン、
ヘリット・リートフェルトのシュレーダー邸、安藤忠雄の光の教会であった。

学生は、取り組む作品が決まったら、その建設時の状況を読み取れる資料探しに苦心する。
BIMモデルのモデリングは、昨年取り組んだ先輩たちの経験が活きており、各部位を構成する
資材の組み合わせを資料で調べ、その部位をどのように考えて入力したのかを、出力した集計
表を見てわかるように、属性にコメントを追加しながら行っていく。見積りが目的であるにも
かかわらず、LODで言えば350相当のモデルを入力しようと頑張るのが、学生らしくて良い。
BIMモデルの数量を資材の数量に置き換えていく段階は、建設コスト情報誌を片手に、記載さ
れている単価に何が含まれているのかを読み解きながら、そこに用いられている単位に合わせ
る作業が丁寧に進められる。建設コスト情報誌に材工共の情報が掲載されていない資材は、建
設物価情報誌で調べた材料価格に、その施工歩掛りを想定して見積もった労務費を加算して、
コストを積み重ねていく。現在入手できない資材は、各々の設計者の思想を考えつつ、どの資
材の組み合わせで代替すれば良いのかを検討するのだが、こうした作業は悩ましくもあり楽し
くもある。さらに発生材処分費を加え、直接工事費を算出した後は、大まかな工程を想定し、
外部足場・揚重機・仮設事務所のリース費を加えて見積書の完成となる。
見積書の完成後は、BIMで得られる数量や属性、空間情報などを利用してどんなことができる
かを、学生たちが自ら考え、作業能率と労務費の関係(光の教会チーム)、煉瓦造とRC造の
コスト比較(シュレーダー邸チーム)、ライフサイクルコストの試算(バルセロナパビリオン
チーム)、労務平準化を目的とした工程計画(落水荘チーム)に取り組んだ。

以上のような取り組みを、2コマ×15回の所定内時間とかなりの残業・休日出勤で間に合わせ、
発表会という竣工日を1月末に迎えたわけである。このゼミで行うような見積りは、建築を2年
半かけて学んだ学生であっても、普通のやり方であれば極めて難しいと思われる。なぜならば、
詳細な図面もない建築を、簡易な図面や写真などから資材や空間の構成を読み取って、積算を
できる図面や資料に落とし込む作業のハードルは、あまりに高い。
このハードルを無くしてしまうツールがBIMソフトであり、収集したり考えたりした様々な情
報を、形状や属性として記録して、1つのモデルに立体的に蓄積できることのすごさである。
このようなBIMのすごさを、学生たちはきっと未だ知る由もないのだが、そんなことは知らず
とも、当たり前のようにBIMソフトをスイスイ使い、自ら工夫して仕事をこなしていく若者が
これからの建設業界を支えていく時代は、目前に迫っているように思う。こうした基礎的な能
力と感性の上に、フロントローディングやコンカレントエンジニアリング、あるいはファシリ
ティ情報の活用という、本来BIMに期待されている世界が広がっていくのではないだろうか。