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コラム

生物と建築

2016.03.30

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  Synthetic biology(シンセティック・バイオロジー)という分野がある。
    もともとは「観る」学問であった生物学が、得られた観察結果を用いて新しい機能や
    仕組みを「デザインする」学問へと発展したことから、「生物学におけるものづくり
    分野」とも言われているそうだ。
 
竹中  ここ数年で、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学を中心とした北米の建築学
    科では、このシンセティック・バイオロジーの研究機関との共同プロジェクトが活発
    に行われているね。
 
岡部  主な研究目的としては、新しいマテリアルの開発だ。
    生物のメカニズムを利用し、これを建築材料工学に生かすのだという。
 
竹中  生物と建築に着目し、デザインを工学的に捉えようと試みた初期の事例としては、
    1960年代に結成された「Biologie und Bauen(生物学と建築)」という研究共同体
    の活動が興味深い。
 
岡部  建築家フライ・オットーと、生物学者ヨハン・ゲルハルト・ヘルムケ氏が中心となっ
    て活動していたグループだね。こうした活動は、現在のドイツでも再び注目を集め、
    建築学と生物学の研究共同体が次々と立ち上がっている。
 
竹中  中でも注目したいのは、こうした流れがロボットの開発にも、本格的に応用されはじ
    めている点だ。例えば、2006年に設立されたリサーチグループ「Bionic Learning
    Network」は、生物学者だけではなく、エンジニアやデザイナー、学生やロボット開
    発企業を含めて構成され、分野を越えた世界中の専門家と「生物に学ぶ」リサーチ体
    制が築かれているのだという。
 
岡部  開発されているロボットは、単にアーム形状や人型だけではない。自由に飛び回る鳥
    や昆虫、水中を泳ぐ魚、跳びはねる動物や群生行動を実現した蟻に至るまで、生物の
    メカニズムとシンクロしながら躍進しているんだ。
 
竹中  そして、彼らがゴールのひとつに掲げているのが、自律的な生産システムの実現だ。
 
岡部  生物学にものづくりの概念が生まれ、一方で、技術の進化により生物学の研究成果が
    ものづくり技術に応用される時代。建築ものづくりの未来にはどんな世界が待ってい
    るのだろう。
 
竹中  生物学に学ぶ、柔軟な機構の開発、対話型技術の開発、そしてこれらが相互に関係付
    けられたインテリジェンスな制御技術の開発。さらには、生物とも無生物とも言えな
    い、新しい材料の開発。こうした小さな進化の積み重ねは、自然界の進化と同様に、
    多様性に富んだ美しい世界を切り開いてゆくのだろう。

 Bionic Learning Networkが開発した「BionicKangaroo」
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のFESTOのWebサイトへリンク
  します。

 Bionic Learning Networkが開発した「BionicKangaroo」
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のFESTOのWebサイトへリンク
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 「BionicKangaroo」のシステム概略図
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のFESTOのWebサイトへリンク
  します。

 「BionicKangaroo」のシステム概略図
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のFESTOのWebサイトへリンク
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竹中 司 氏/岡部 文 氏

アンズスタジオ /アットロボティクス 代表取締役 / 取締役