ロボット掃除機を導入したら床がきれいになった話
2025.01.28
パラメトリック・ボイス
東京大学 / 鹿島建設 和泉 智也
ここ数年で対応機器やサービスが増え、アプリケーション・アシスタントが優秀になったこと
もあり、「スマートホーム」という言葉がより身近なものになってきたように感じます。私も、
「IT屋さんを生業としているからには最新の機器に触れておかなければならない」ということ
を大義名分に掲げ、定期的に対応機器を買い足しては、「僕が考えた最強のスマートホーム」
の実現に勤しんでいます。
スマートホームアプリケーションでは連携した家電類のON/OFF状態や稼働スケジュールなど
を管理できますが、特に重宝しているのが複数の機器を決まった順番でコントロールする
「ルーティン機能」です。この機能を使えば、例えば私が設定しているものであれば、朝の目
覚ましと同時に部屋の明かりが点灯し、カーテンが開き、ディスプレイをつけて今日のニュー
スを流す、といったことが実現できます。私は他の人よりも睡眠時間が長いと自覚しているの
で、他にも、同じルーティンの昼寝バージョンや、就寝前の時間帯に電球色を変えるルーティ
ンなんかを仕込んでいます。こうしていると、実際に睡眠の質が上がり寝起きがすっきりす
る(もしくはそうなった気がする)のはもちろん、「ITやっているな」という妙な自己陶酔に
浸ることができます。
しかし、1Kのアパートで一人暮らしをしていると、設置できる機器の数に限りがあるだけでな
く、スマートホームの手を借りるより手動でやった方が早いこともしばしばあります。正直こ
こ数か月間は、我が家のスマートホームプロジェクトは停滞期に突入していました。
そこで、この停滞期を打開するべく、最近新たに導入したのがロボット掃除機です。日本国内
でGoogle Homeがルンバを操作できるようになったのが2017年なので、決して早い導入とは
言えません。ここまでロボット掃除機の存在を見て見ぬふりをしていたのは、足りない収納を
床で補っているタイプの1Kアパート一人暮らしなので、ハンディタイプのコードレス掃除機が
ベストだろう思っていたからでした。しかし、既に導入していた友人からの強い勧めが決定打
になり、購入するに至りました。
ロボット掃除機の清掃開始タスクは外出時に起動するルーティンに組み込みました。玄関に設
置した専用のスイッチを押すと、部屋の照明と空調がすべて消えて、ロボット掃除機が動き出
す、といったシナリオです。理想通りに動けば、出かけている間に掃除をして、帰るころには
床が綺麗になっているという算段でした。そう、理想通りに動けば……。
上記のルーティンは3か月程度使い続けていますが、成功率はおおよそ7割程度で、残りの
3割は何かしらの要因で失敗しています。この名状しがたい成功率の原因は決してロボット掃
除機の性能が不十分だったからではなく、我が家が散らかっているからなのですが、PDCAサ
イクルを繰り返した結果、徐々に改善方向に向かっていると感じています。ここでは実際に起
きた失敗とその対策をいくつかを紹介します。
事例1:キッチンと居間をつなぐドアが閉まってロボット掃除機が充電ステーションに帰れな
くなっていた
対策 :ドアが開きっぱなしになるように、ドアノブと近くにある棚をくくりつけられるよう
にした
事例2:ベッド脇のミニテーブルがロボット掃除機に追突され、ミニテーブルの上に置かれて
いた充電ケーブル類が滑落、ロボット掃除機が巻き込んだ
対策 :ケーブルを市販のケーブルホルダーでベッドに固定し、床につかないようにした
事例3:ロボット掃除機が食事の際に使っている折り畳みテーブルの脚(体育館でよく使われ
る折り畳み椅子の足のようなもの)に乗り上げて車輪が空転していた
対策 :折り畳みテーブルは外出時に毎回収納するようにした
事例4:床に置いていたリュックサックの肩紐をロボット掃除機が巻き込んでいた
対策 :リュックサックは都度棚にしまうようにした
上記の他にも多数の事例と対策があるため、他の機器に比べて、ロボット掃除機導入による私
の住環境と生活習慣へのインパクトは非常に大きかったと言えます。かけているエネルギーも
それ相応に大きいのですが、「ロボット掃除機が掃除しやすいようにしよう」というモチベー
ションのおかげで、意外と苦なく、そして楽しく対策を重ねられていると感じます。
今となっては、ロボット掃除機の運用は私にとって一種の「応援ビジネス」のようなものに
なっています。掃除が中断され、スマートフォンに「ロボット掃除機が行き詰まっています」
といった通知を見ると「あー、ダメだったか…」という残念な気分になりますし、障害物に邪
魔されるか盛大にケーブルを巻き込むかして力尽きているロボット掃除機を見ると、心なしか
悲壮感が漂っているような気がします。逆に、無事清掃を終えて充電ステーションに戻ってき
たロボット掃除機は、不思議と得意げに見えるものです。もし同じような妄想ができる方は、
ぜひロボット掃除機を導入してみてください。紆余曲折の末、床がきれいになります。
最後に、「結局のところ掃除は楽になったのか」という疑問があるかもしれませんが、今のと
ころ答えは「No」です。先に書いた通り成功率7割ですから、まだまだ環境・習慣ともに改良
の余地がありますし、日々行わなければいけない努力も増えています。それでも、「ロボット
掃除機応援ビジネス」のお陰でその努力は心地よく続けられていますし、床に落ちているもの
が減り、部屋がきれいになったことは明らかです。そしてゆくゆくは掃除しきれることが当た
り前になり、また停滞期に突入して、次の機器を導入することになるのでしょう。我が家のス
マートホームプロジェクトはまだまだ続きます。
さて、今回も東京大学生産技術研究所豊田研究室メンバーの持ち回りコラムとして執筆させて
いただきました。他の回もお時間がありましたら是非閲覧してみてください(これまでのコラ
ムはこちらから)。
和泉 智也 氏
東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 博士課程 / 鹿島建設 建築管理本部 建築企画部
建築-ITグループ 主任