デジタルで巡る世界旅=インド編
2025.08.07
パラメトリック・ボイス ARX建築研究所 松家 克
14億3千8百万人。前回のコラムで記した中国を追い越し、世界で最も多い人口数を擁する
インド共和国。建築の技術に優れた古代インダス文明は、およそ東西1500km、南北1800km
の不定形領域に、最古の下水道モヘンジョダロや2600にも及ぶ古代小都市の遺跡が分布して
いる。発掘調査で王墓や神殿のようなものは見つかっていないという。この紀元前2600年か
ら紀元前1800年に亘るインダス文明、およそ5000年の歴史を持ち興味深く重要な国からは、
明治時代に「カレー」が伝わり今や日本の国民食とも言われる迄に育っている。古代遺跡から
カレーの原型とヨガのポーズ像が数多く発見されている。古代から香辛料が発展してきた要因
は暑さと菜食主義だという。そして、日本が大きな影響を受けた仏教の発祥地でもある。万博
インド館は仏像とハスと宇宙開発を展示。カースト制度も知られているが、1950年制定の憲
法で禁止。しかし、今でも身分制度でのヒエラルキーの上位と下位、特に農村部では規制や差
別が残っているという。インドの世界遺産は、イスラム建築最高傑作といわれる愛妃マハルの
霊廟であるタージ・マハルを始めとして登録数は、42遺産ありインドが6位。因みに日本は
11位で26遺産。1位イタリア、2位中国、3位ドイツ、4位はスペインとフランスである。
国際政治や経済の分野では、インドやロシア、中国などを中心に構成するBRICS加盟国であ
り、米国とはバランス外交を繰り広げている。併せ、GDPが、2025年に日本を追い越し4位と
なる予想が出ている。
小生の恩師の椎名政夫氏が30代の時に現場監理をしたと聞いた“ル・コルビュジエ”が晩年に
構想した都市、チャンディガール街や伝統建築に比して最近のインド建築や建築家が話題にな
ることは少ない。併せて今の経済やデジタルの情報も乏しい。そこで、前回の中国に続きデジ
タル状況や経済、技術を含めて学習したい。
中国総書記の習近平氏を知っていてもインドの“ナレンドラ・モディ”首相を直ぐに思い浮かべ
る人は少ないだろう。片やインドが大統領制を採っていることもあまり知られていない。象徴
としての大統領頂く議会制民主主義国家である。況してや「ドラウパディ・ムルム」が大統領
といえる人は少ない。モディ首相が2014年に掲げたインドでの生産拠点を目指したモデルの
「メーク・イン・インディア」は良い成果が出なかった。現在、トランプが推進する高関税を
インドは継続しているが、2021年から更に関税率を引き上げている。トランプが目指してい
る関税策と「メーク・イン・アメリカ」に似た政策。併せ、トランプは国際的にはUNESCO
や国際支援、国内にはNASAや行政などの人員削減を含めてダウンサイジングしている。国家
予算の縮小化とも見える。大幅な借金を抱える日本も何れ進む道かもしれない。
岩波新書“零の発見”を親父から譲り受け中学時代に読んだことがあった。今でも記憶に残って
いるが、“0と負数”の概念を6世紀ごろにインド記数法から導いたとあった。コンピューター
で使用されている“二進法”の概念も古代インドや中国が発祥だという。このことなどを礎にイ
ンドは数学に強いという概念がある。今では、ITを担うシリコンバレーや日本を含めた各国の
デジタル系に多くのインド人が活躍していることも頷ける。併せ、デジタルスキルを基礎にす
るロケットや人工衛星、手術医療ロボット、農業用ロボットなどの多分野で技術と実績を培っ
ている。1960年代から開発が始まったロケット開発は、1980年に観測衛星の初の打ち上げか
ら独自発展。今では4種類を開発し民間も参加し今に至っている。小型衛星と大型衛星を打上
げる体制を築き上げ、特に小型衛星は低コスト打上で海外からの需要が多く、大型衛星では月
探査機“チャンドラヤーン”、“火星探査機”、“マンガルヤーン”を成功させている。IT産業の発
展も著しい。3つの要因があるといわれる。英語言語、時差、教育といわれている。職業が
カースト制度に含まれないIT産業。誰でもなれる新分野で高額報酬。専門教育を受け数学にも
強く12時間の時差などを活かし、成長著しい産業に育っていった。
CADとBIMの分野では、徐々にBIM化が国の後押しで進み始めているというが、これからの状
況だという。一方、AIでは“AI for ALL”のスローガンを政府が掲げ、医療や農業、教育、ス
マートシティなど幅広い分野で推進しているという。インド発のソフトやアプリの情報は探り
だせなかったが、最近のインドは、ジェネリック医薬品生産で存在感を強め、世界の約5分の1
を生産しているといわれている。約600万人が亡くなったといわれるコロナの対応薬もインド
製の廉価なジェネリック薬品が低所得者の多い国で投じられている。デジタル化や各種インフ
ラ増強にも力を入れており、サプライチェーンの見直しなど急激に変革が進んでいる。目覚ま
しい発展と国土開発であるが、インドは今、パキスタンと紛争中。中国や幾つかの国とも国境
問題がある。
インドについてのコラム文章を入力中にインドで旅客機の墜落事故があった。この飛行機事故
は、バードストライクと燃料遮断が原因の可能性が示唆された。日本も生産に大きく関わる機
種であり、亡くなられた方々の御冥福をお祈りすると共に動向に注視したい。他方、残念なが
らゴミの多さでは、インドは2位、中国が1位だという。環境問題の解決も急務。ロボットや
物流、農業、林業、漁業、工業、生産、建築、医療、教育、生活、介護、海運、航空、宇宙、
モバイルなどあらゆる分野で急激に浸透している状況であり、これから急激に展開していくだ
ろう。
一方、世界第3位の巨大自動車マーケットでもあり、2024年のインドの乗用車生産台数は、
約601万台で過去最高。世界4位だった。93万人以上の従業員を抱える大財閥タタ・グループ
を中心にマルチ・スズキやタタ・モーターズなど世界の自動車メーカーが覇を競い、EV関連
も増加傾向だが、中国との関係で鈍い増加だという。オートバイの2024年販売台数は、
約1960万台で中国を上回り世界最大の市場になっている。昨年の販売台数はホンダの念願が
叶って1位となった。自動車メーカーのスズキは、CAD業務をインド最大の企業グループのタ
タ・グループに委託しているという。
最近は、日本で1939年から始まった「弾丸列車計画」を起源とする「新幹線」が注目されて
いる。インド、中国、台湾、韓国、インドがキーワードの「新幹線」の話題で繋がる。フラン
スや米国、EU、インドネシア、ベトナム、北欧なども常に話題となる。1964年に運用が日
本で開始された新幹線は、今や世界に拡がっているようだ。
インド新幹線の新車両の試運転が日本で5月に開始された。スパンバイスパン工法、フルスパ
ン・ローンチング工法、プレストレスト工法などをスラドルキャリア、発射ガントリー橋梁
ガントリー桁搬送装置などがインドで設計され、国内製造の機器で促進し、インド初の海底
トンネルを含めて大工事が進められている。2026年に真っ白な車両で試運転を兼ねて一部開
業され、2029年にムンバイとアーメダバード間508kmの全線で開業予定だという。この
8月末にモディ首相が訪日するという。この時にJR東日本の最新モデルのE10系をインドでも
同時期にインド初の高速鉄道の運転開始の最後の確認もされるのだろう。
最後に、ホンダ青山ビルの話になるがお許し頂きたい。新本社ビルの再計画が進んでいるが、
HONDAは、次の世代を見据えて、HondaJetだけでなく宇宙関連の開発も着々と進めている
ようだ。その中でホンダ技術研究所は、自社開発の再利用型小型ロケットの離着陸実験に6月
17日に成功させた。デジタルやセンサー技術が活かされているのだと考える。2030年の実用
化を目標として逐次試験機を打上予定という。オートバイの分野でも新たな価値を感じるゴー
ルドウイングを登場させた。ホンダ本社の設計時にヤマハとドロドロのオートバイのHY闘争
があった。しかし今では、電動二輪車でコラボし協業している。経済界の変化は、厳しく著
しい。何故か感慨深い。
余談。インドが発祥で日本に伝わったカレー料理も今や日本の食文化の代表に育った。しか
し、大好きなのは「メーク・イン・ニホン」の寿司。新鮮な健康食で美味い。前述の鈴木自動
車はインドとの親密関係を踏まえ、高度人材の呼び込みも期待して社員食堂に“カレー鈴木食
堂”の提供を始めた。ベジタリアンが多いインド人の嗜好に添った味や具材で、ゆくゆくは販
売も視野にいれているという。
最後に、先日、Archi Future実行委員の川島範久氏設計の最新建築の小さな本社事務所建築を
見学する機会を得た。エンジニアリング担当はARUP。ここで、スモール事務所建築の地球環
境に対する新たで魅力的な設計手がかりと新潮流を感じた。