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BIMに奇跡なんてない、からの、AI
2026.03.24
パラメトリック・ボイス 熊本大学 大西 康伸
共同研究先の担当者であるY氏から、デジタルファブリケーションやAIを得意とする知り合い
の研究者はいないかという相談を受けた。その際、私の頭に浮かんだのがK先生だった。Y氏
からの依頼であったが、ずいぶん前からK先生の研究室を訪問してみたいと思っていたため、
私の東京出張にタイミングを合わせてもらい、私も打合せの場に臨席させてもらった。
それぞれの興味の在処が披露されるなかで、以前からおぼろげながら頭の中にあったある考え
が、不意に像を結んだ。
正直に言うと、最近、BIMとの付き合いに疲れている。
設計や施工、維持管理にまつわる情報をきちんと(ルール通りに、間違いなく、漏れなく)
入力さえすれば、きちんとしたデータベースが構築される。このデータベースを活用し、コス
トをカットしたり建築の価値を上げたりするのが、BIMの基本的な考え方である。
しかし、この「きちんと」が、なかなかに難しい。
システムに情報を入力するのは人である。私を含め、人が為すことは悪い意味で大抵「いい加
減」である。きちんとしたデータベースを構築するためには、人が大変な努力をすることを前
提としているのが現状である。
その上、「きちんと」入力することを強いるだけならまだしも、まだ大まかにしか決定してい
ない事柄を正確に入力するよう強いる場合がある。こちらは人のいい加減さに由来する問題で
はなく、人が置かれた状況をシステムがきちんと認識できておらず、杓子定規に情報を入力さ
せようとする問題である。結果、人はシステムを使わなくなり、同様にきちんとしたデータ
ベースが構築されなくなる。
いずれにせよ、これらの問題は高度で知的な機能を持つシステムに常につきまとってきた、人
とシステムのインタラクションの問題である。人の行為は状況に依存する。一方で、システム
設計者はそれを理解することなく、ある視点からの固定的な考えによってシステムをデザイン
する。
ルーシー A. サッチマンは、このコンフリクトこそが使いにくいシステム(コピー機)を生む
原因であることを、1987年の著書「Plans and Situated Actions: The Problem of Human-
Machine Communication(翻訳版:プランと状況的行為 人間-機械コミュニケーションの可
能性)」で明らかにした。
当時、専門分野に関するあらゆる情報をコンピュータに入力すれば、人工的に専門知識を創造
できると考えられていた。expert system(エキスパートシステム)である。しかし、その中
心的なアルゴリズムは条件分岐であり、人が置かれた状況を類推したり加味したりする機能は
なかったため、人が欲する多種多様な知識を的確に提供することができなかった。その意味で
知識と言うには不完全で、単なる情報の集積でしかなかった(言い過ぎか?)。
一方、今は状況の推論や類推に長けたAIの時代である。BIMへの情報のきちんとした入力や、
蓄積情報のきちんとした分析を人が行うのではなく、AIによるエージェントに任せてみてはど
うか。すなわち、人-システムの間にAIエージェントが割って入るという考えである。人の持
つ、良い意味でのいい加減を受け入れ、悪い意味でのいい加減を正す、そんな役割を果たして
くれることを期待したい。
人とシステムのコンフリクトをUI(ユーザインターフェース)やUX(ユーザエクスペリエン
ス)のデザインで解決するには限界があり、かといって人が苦手なことを無理強いする必要は
ない。そのためにAIがあり、そこでこそAIに頑張ってもらいたい。ポイントは、システム開発
側にこのエージェント開発を委ねてはいけないということである。ユーザ側で開発しなければ、
程度の違いこそあれ、また同様のコンフリクトが発生する。
他人の成功は端から見ると奇跡と映るかもしれない。だが、当人にとってはそれまでの努力の
結果であり、ようやく辿り着いた場所でしかない。もちろん、努力だけでその結果に至るわけ
はなく、運や周りの協力など当人では如何ともしがたい力がそこには必要となる。そういう意
味では(努力が結果に大きく作用する事柄において)、私は未だ奇跡を見たことがない。お化
けを見たことがないというレベルで。
BIMの世界にも奇跡はない。それは、人々の絶え間ない努力の結果、ようやく辿り着く
場所(ユートピア)。しかもその場所は組織によって異なり、それぞれ別の努力が求められる。
その努力そのものは決して無駄ではないが、AIを人の伴走者とすることで、とても苦しく不可
能であると思われることが、きっと可能になるはず。件の打合せの中で、そのような確信を得
た。
とにかくきちんと入力する、そんな風に必死で掴んでいる藁。それを一度離すことを考えてみ
てはどうか。きっと、そこから違った未来が見える。




























