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ディズニー建築のメタな楽しみ方
2026.09.03
パラメトリック・ボイス
東京大学 / 中倉康介建築設計事務所 中倉 康介
私の所属している東京大学の豊田研究室で、特任研究員としてリサーチを進めていると、とき
どき「人間は建築から、どこまでの情報を読み取っているのだろうか」と考えます。
形状や寸法といったジオメトリ情報は、一定の精度を保ちながら明示的に記述することができ
ます。一方で、「古びて見える」「重そうに見える」「冷たそうに見える」といった、私たち
が経験や知識から無意識に読み取っている情報については、途端に扱いが難しくなるのではな
いでしょうか。
少し前に家族と東京ディズニーリゾートへ出かけた際、そんなことを考えさせられる、ちょっ
とした発見がありました。
以前の私は、テーマパークの建築を「おとぎ話の世界をハリボテで再現したもの」くらいに
思っていて、あまり真剣に見たことがありませんでした。ところが、近寄ってよく見てみると、
そのクオリティが想像以上に高いのです。しかも、単に精巧なのではなく、ある意味”フェイ
ク”であることを前提としながら、人間が「本物らしい」と感じる手掛かりが実に巧みに埋め
込まれています。
私は年に1〜2回訪れるかどうかで、ディズニーの歴史やキャラクターの背景には詳しくありま
せん。そこで今回は、建築情報に関する研究に携わる立場から気になったものを、勝手に3つ
紹介したいと思います。
1.誰も見ないはずの、橋の裏側

写真1 ヴェネツィアン・ゴンドラから見上げた橋の裏側
これは、ディズニーシーのヴェネツィアン・ゴンドラに乗ったとき、橋の裏側を撮影した一枚
です。躯体はおそらくRC造だと思います。そこに、あたかも「レンガ積みの橋を被覆する仕上
げモルタルの一部が、経年劣化で剥がれてしまった」かのような装飾が施されています。柱脚
の石の模様もペイントではないかと推察しますが、水面との境目にできた緑色の藻やコケは、
もはや本物かどうか見分けがつきませんでした。
ここは、ゴンドラに揺られながら数秒のうちに通り過ぎてしまう場所です。このアトラクショ
ンに乗らなければ、そもそも注視することもないでしょう。それでも細部まで作り込むディズ
ニーの粋な計らいに、思わず唸ってしまいました。
そこでふと思い出したのが、研究室で進めているExBIMについての研究です。ExBIMは、主に
建物の外部から取得可能な情報をもとに構築される、外装や外構を中心とした軽量なBIMモデ
ルです*1。情報取得の障壁を下げ、既存建物を含めたモデルの更新性や連続性を担保すること
で、従来、建築・建設分野にとどまっていた建築情報の活用範囲を、建物の維持管理や自動運
転をはじめとするモビリティ、さらにはエンターテインメントなど、建築の外側の領域まで広
げることを意図しています。その実装方法の一つとして、建物を3Dスキャンして得られた点群
データから、建築要素をセグメンテーションし、IFCをベースとした構造化された情報へ変換
する研究も進められています。
では、機械の目は、この橋を正しく判別・記述できるでしょうか。点群や画像から幾何的な形
状や表層の見た目はかなり正確に捉えられるでしょう。レンガ、石、モルタルといったマテリ
アルについても大雑把には分類できるはずです。しかし、この建築の本質的な面白さは、ゲス
トを楽しませるために「あえて別の構法でつくられたかのように擬態し、それが経年劣化して
いるように見せている」ところにあります。別の言い方をすれば、形状、表層、材料、構法、
経年変化といった建築情報が、意図的にずらされているのです。
この橋を建築情報としてより深く記述するためには、「何でできているか」だけでなく「何に
見せようとしているか」という設計上の意図まで扱う必要が出てきます。しかし、このような
ハイコンテクストな情報は、形状や属性を中心とした現在の情報記述の枠組みからは外れ、捨
象されてしまうでしょう。
2.割れるべきところに、割れ目がある

写真2 待ち列で見つけた、割れ目まで表現された擬石
こちらは同じアトラクションで順番を待っているときに撮った、擬石の床です。
天然石ならこの大きさだと割れるだろうな、と思うところに、しっかりと割れた跡が付けられ
ています。逆に、小さめの割り付けに見せている個所には割れ目の表現も少なくなっています。
頭では偽物だと分かっていても、違和感なくこの世界観に没入できるのは、このような小さな
ディテールの積み重ねによるところが大きいのではないでしょうか。
面白いのは、この割れ目が「本物らしさのルール」を逆算するように作られている点です。大
判の石は割れやすい。目地際は欠けやすい。人が歩くところは摩耗する。雨がかりの部分には
汚れたり退色しやすい。私たちは実際の建築を見ながら、こうした物理現象と材料の振る舞い
を長い時間をかけて経験知として身につけています。
このような特徴は、機械の目が素材の真偽を判定する際の手がかりとして使えそうですが、そ
の基準に則ってフェイクを丁寧にデザインすることもできるわけですから、結局いたちごっこ
になります。目の前にあるものの形状を正しく分類することと、その建築がどのような物理現
象や文化的背景を参照してつくられているのかを理解することは、建築情報処理においても別
の問題として考える必要がありそうです。
とはいえ、目地の入れ方や表面の凹凸具合で、明らかに偽物感が出てしまっている商業施設も
目にしたことがありますので、ディズニー建築におけるこのレベルの作り込みは、誰でも真似
できるものではなさそうです。図面で細かく指示されているのか、モックアップで検討を重ね
ているのか、現場で熟練の職人さんの裁量に委ねられているのか。このクオリティがどのよう
なプロセスで担保されているのか、設計者としてはこちらも非常に気になります。
3.言葉遊びのシーリングファン

写真3 待ち列のトップライトとHunter社製シーリングファン
最後は、別の日にディズニーランドにあるプーさんのハニーハントの待機列で撮った写真です。
ジャロジー窓付きのトップライトから天井扇が吊られているのですが、モーター部分をよく見
るとHunter社の製品でした。「ハニーハント」に「Hunter」。これはアトラクションの名称
に掛けて選ばれたに違いない……。この洒落には一本取られたと思いつつ、それを見つけた自
分も何か得したような気分になって、思わずニヤリとしてしまいました。
このような言葉遊びは、無理やり”建築情報”として扱おうとすると、今まで挙げた事例の中で
いちばん厄介です。ジオメトリにもマテリアルにも表れない情報で、製品に刻まれた文字列と、
アトラクション名という固有名詞が結び付いて初めて成立する、意味レイヤーのリンクだから
です。
研究室では、NHA(Non-Human Agent:人間以外の自律的な主体)が人間と同じ空間を共有
するために、建築や都市をどのように記述すべきかという研究にも取り組んでいます。その視
点で見ると、ディズニー建築は極めて特殊で挑戦的な対象です。人間が人間を楽しませるため
に、物語の世界観を意図的に「本物らしく」を積み上げた場所なのですから、無理もありませ
ん。
BIMはこれまで、建築を構成する部材とその属性を記述することで発展してきました。しかし
今後、ロボットやAIをはじめとするNHAが実空間の中で活動するようになれば、建築情報に求
められる範囲も変わっていくのかもしれません。形状や寸法だけでなく、材料とその物理的な
振る舞い、時間による変化、空間を経験する順序、さらには物語や文化との関係まで、人間が
無意識に参照している「文脈」のレイヤーが、より重要になってくるのではないでしょうか。
機械がこのような文脈を読めないのは、そこに情報が無いからではありません。むしろ、人間
にとっては暗黙知として無意識に理解できるがゆえに、それらが「情報」として明示的に記述
されてこなかったからです。これまで人間には説明するまでもなかったことを、機械のために
あえて記述する――それが意外と難しいというのが、これからの建築情報における一つの課題
のように思います。
このように考えると、ディズニー建築を眺めながら「これは機械には分からないだろうな」と
考えること自体が、少し変わった楽しみ方に思えてきます。そして、まだ上手く記述されてい
ない情報に自分が先に気付けたときこそ、実際にその場所へ足を運び、自分の目で建築を見る
甲斐があった、と考えることもできます。
もっとも、そんな理屈が頭をよぎったのは、ほんの一瞬です。あとは童心にかえって、家族と
夢の国を満喫してきました。
※このコラムは東京大学生産技術研究所豊田研究室メンバーが持ち回りで執筆させていただい
ているコラムの一つです。他にも様々なテーマのコラムがたくさんありますので、ぜひご覧く
ださい(他のコラムはこちらから)。
*1 石澤 宰・村井 一・豊田 啓介「ExBIM: 建築の外部性を捉えるモデリング手法」『生産研
究』77巻1号、pp.97–101、2025年。
中倉 康介 氏 東京大学生産技術研究所 特任研究員 / 中倉康介建築設計事務所 代表取締役



























