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ユーザー事例紹介

建築ビジュアライゼーションの進化とメタバースに
向けて<隈研吾建築都市設計事務所>

2022.08.25

日本を代表する建築家・隈研吾氏が率いる隈研吾建築都市設計事務所では、専任のCGチーム
を10年以上前に結成し、積極的にCGを活用している。同事務所は、さらなるビジュアライ
ゼーションの進化を求めて高い処理能力が要求されるマルチアプリケーション ワークフロー
に必要なパフォーマンス、信頼性機能を提供するNVIDIAの最新GPUNVIDIA RTX A5500
グラフィックスカードを搭載したHPのワークステーション「HP Z8」を導入した。
その狙いと効果、さらにNVIDIA OmniverseおよびOmniverse XRを活用したメタバースに
向けての展開ついて、同事務所の松長知宏氏、土江俊太郎氏に伺った。

求められる高度なビジュアライゼーションに対応
隈研吾建築都市設計事務所(以下、KKAA)では、CGをはじめとするコンピュテーションの活
用に古くから力を入れてきたが、その使い方も年々進化している。設計室長の松長知宏氏は
「もともとビジュアライゼーションをメインにやってきましたが、だんだん業務が拡大してい
って、静止画パースというよりは動的なアニメーションの制作依頼も増えています。また、設
計の段階から3Dを使っていますが、その3Dモデリングをプログラムで行うようなことも現在
は担当しています」と語る。

  隈研吾建築都市設計事務所 設計室長 松長 知宏 氏

  隈研吾建築都市設計事務所 設計室長 松長 知宏 氏


新しいソリューションやツールを積極的に試し、いいと思ったものはどんどん取り入れていく
こともKKAAの流儀だそうだ松長氏と同じKKAA のCGチームの土江俊太郎氏は次のように
語った。「私も松長と一緒に映像やインタラクティブなものを作るプロジェクトをいくつか担
当しています実行部隊的な側面もありますのでUnreal EngineやChaos VantageNVIDIA
Omniverseといった新しいツールをいろいろ試してどのような案件のどういうプロジェク
トで、どんなツールが使えそうか検証しています」。

  隈研吾建築都市設計事務所 土江 俊太郎 氏

  隈研吾建築都市設計事務所 土江 俊太郎 氏


松長氏によると、「建築におけるビジュアライゼーションは、昔は手描きのパースの代わりに
CGで完成予想図を1枚作って見せるというものがほとんどでしたが、いまはアニメーションや
VRなどのより高度なビジュアライゼーションが要求されるようになりました」という。
CG活用によって建築設計業務がどう変わってきたのか伺うと、松長氏は次のように語った。
「建築設計者自らが、ある程度までCGによる絵を作成できるようになってきたことが、最近
のトレンドです。以前は、設計者が2Dの図面を作りCG担当者がそれを立ち上げ3Dにすること
が多かったのですが、10年ぐらい前から設計者自身がRhinocerosを使って、3Dで設計するよ
うにもなりました。しかし、当時はまだ高度なビジュアライゼーションまではいけず、スク
リーンショットを撮ったりして説明していたのですが、最近はGPUの性能も上がり、Enscape
のような使いやすいビジュアライゼーションソフトが出てきたことで、設計者自らが簡単に見
栄えのよい建築パースを作れるようになりました」。

 建築ビジュアライゼーションにVRを活用

 建築ビジュアライゼーションにVRを活用


「設計者自らがビジュアライゼーションまでできるようになったことは、設計者にとっても大
きなメリットです。モデリングした絵だけでは、ガラスなどの質感や光の感じがわかりにく
かったのですが、ビジュアライゼーションによって、建材などのテクスチャを貼ったり、人を
置いたり、それらを反映したパースが簡単に作れるようになったので、設計者も設計を行いな
がら、例えば天井の高さを検証したり、外部との繋がりのために軒を下げたりといった修正が
できるようになりました」と松長氏は語る。

 Omniverse上での天井の高さやテクスチャの検討

 Omniverse上での天井の高さやテクスチャの検討


新世代GPUが生み出す圧倒的なスピード
さらに、アニメーション、動画、メタバースのニーズが増えてきたことについて、松長氏は次
のように語った。「数年前から動画の依頼が増えてきました。ただ、我々はインハウスでやっ
ていますので、多くのプロジェクトを捌く必要があります。動画はかなりリソースが必要なの
で、そんなにたくさんは作れませんでした。また、最近はメタバースについての関心が高く、
実際の建物ではなく、メタバース上にしか存在しない建築のデザインも頼まれるようになって
きました。そこは我々としても、面白くて挑戦しがいがありますし、設計者もCGスタッフも
いる我々だからこそできることでもあります」。

KKAAでは、以前からNVIDIAのGPUを搭載したHPのワークステーションを導入し、ビジュア
ライゼーションに活用してきたが、今回、さらなるパフォーマンスを求めて、最新の
RTX A5500を搭載した「HP Z8」をテスト導入したその効果はまさに驚異的なものであっ
た。土江氏は「今回まず、Chaos Vantageを使ってどれくらいGPUを使った動画の書き出し
速度が変わるかを検証しました。以前使っていたのは1世代前のRTX 5000でしたが、
RTX A5500で同じ動画を書き出してみると、性能表通り、2.5倍くらいの差がでました。本当
に性能通りの差が出たと感動しました。弊社が手がける建物の設計は、細かな意匠が多かった
り、規模が大きかったり、光が複雑に反射したりするものが多く、負荷が高いのですが、それ
でも1世代違うだけで2.5倍もの差が出たことには驚きました」と語った。

土江氏の検証によると、15フレームの動画を20秒間書き出すのに、以前のRTX 5000では2時
間程度かかっていたが、RTX A5500では30分強で書き出しが終わったという。「2時間かか
っていたものが30分ちょっとで出るのなら、十分実用的です。お昼ご飯を食べにいっている間
に出るくらいですので。特に国際コンペ時など時間の制約が厳しい案件では、書き出しと編集
でトライアンドエラーを繰り返しながらクオリティをあげていくのが難しい場合も多く、これ
まで動画の内製はあまりできていなかったのですが、この程度の時間で処理できるなら実践で
投入できるのではないかと思います」と土江氏。

 Omniverseで、テクスチャ貼り付け、日照の検証も可能

 Omniverseで、テクスチャ貼り付け、日照の検証も可能


Omniverse XRによるメタバースに向けた取り組み
「Vantageでは人工照明がアニメーションに対応していませんがNVIDIA Omniverseなら
人工照明のアニメーシンもサポートしています。またOmniverseでも検証を行いましたがOmniverseではパストレースという新しいアルゴリズムを採用しほぼリアルタイムでの描画
が可能です。Rhinocerosとのコネクターも用意されておりOmniverseと連動することもでき
ます」と土江氏は指摘する

 OmniverseとRhinoceros をライブシンク

 OmniverseとRhinoceros をライブシンク


KKAAは、VRの活用にもいち早く取り組んできているが、今回、メタバースに向けた取り組み
として、現在ベータ版が試用できるOmniverse XRと最新のVR HMD3機種、HTC VIVE
Focus 3HP Reverb G2、Varjo Aeroを検証した。松長氏は、その3つについて次のように
語った。「それぞれ特徴がありますが、画質ならやはり超高解像度のVarjo Aeroが一番優れて
います。VIVE Focus3はスタンドアロンタイプなのでケーブル不要で自由に動けることが利点
ですね。HP Reverb G2は3モデルの中で最も低価格ですが画質は十分でコストパフォーマ
ンスが魅力です」と語った。

 Omniverse XRによるリアルタイムレイトレースVR

 Omniverse XRによるリアルタイムレイトレースVR


Omniverse XRは、前処理なしでリアルタイムでのレイトレースVRが可能で、それぞれのVR
HMDに応じた快適なVR体験が可能だ。Omniverse Enterpriseのマルチユーザーコラボレー
ション機能と連動することで、将来的にはメタバースの中で複数のユーザーがデザイン作業を
行うことが可能だという。さらにOmniverseの企業向けライセンス版Omniverse Enterprise
はNVIDIA 仮想 GPU (vGPU) 環境との組み合わせにより、クラウドでの展開も可能で、ハイ
ブリッドワークも実現する。
 
「NVIDIA Omniverse」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。