Magazine(マガジン)

コラム

ARを使った現場管理

2024.07.02

パラメトリック・ボイス         隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

今工事の進んでいる物件の現場確認が面白い。
現在の工事フェーズは鉄骨建方であるが、建方精度の確認にARが活用されている。鉄骨の3D
モデルが現場の座標に合わせて設定されており、タブレットによって気軽に現場で出来形の確
認が可能になっている。最終的な建方精度の確認は計測による数値確認によって行われている
が、図面と大きなズレがないか等についてはこのタブレットを向けることですぐに認識するこ
とが出来る。以前、南三陸町311メモリアルの鉄骨作図の際に3Dモデルを活用してやり取りを
行ったということを書いたが、そこから一歩踏み込んだ形で直感的な確認を出来ることから、
現場経験が浅めの監督員でも現場管理をし易い体制が整えられており、この数年でデジタル化
の波が急激に現場に押し寄せてきていることが感じられる。また、現場作業員の方々も紙の図
面のみの確認と比較すると形状を理解しやすく(海外から来ている作業員にとってはなおさ
ら)、手戻りが少なくなることから、近年話題となっている働き方改革にも有効であるといえ
るだろう。

この現場の施工者は最大手クラスのゼネコンであり、上記のような体制がしっかりと整えられ
てきている一方小規模のゼネコン特に地方のゼネコンにおいては未だに3Dモデルのやり取
りもままならずフリの2DCADが主力という状況が頻繁に見られる企業規模はもちろんの
こと、担当しているプロジェクトの規模、スタッフの年齢等、新しいシステムの導入が難しい
ことは理解できるが、特に人口減の度合いの大きい地方においてこそ、こういったデジタル化
による現場管理の容易化が必要なはずである。ベテラン現場監督員による職人芸的なコント
ロールというのももちろん素晴らしいもので、現場でのやり取りで新しいデザインが生まれた
りということも多くある。今まで私が担当してきた多くの現場でも現場に入ってからのやり取
りで設計時点のデザインを改良してきているが、そういったやりとりを出来る方々が引退する
時期に差し掛かってきている中では、背に腹は変えられない状況である。

この期に及んでは、政府、地方自治体等の公的な機関が積極的にサポートしながら地方からの
新技術導入を行っていかない限り、この国の建設業界は立ち行かなくなっていってしまうので
はないかと改めて強く感じた。

名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長