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コラム

IoTのバベルの塔

2017.08.17

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

少し前の話になるが、東京都美術館にブリューゲルの「バベルの塔」を観に行ってきた。前回
日本に来た時にも観に行った記憶があるから実に24年ぶりの再会ということになる。今回は展
覧会の開催と同時期に、3次元モデルとCGによる各種の検証や、大友克洋による塔の内部構造
の再現等、いろいろと興味深い話題があった。絵の中に書かれている約1,400人の人間の身長
を170cmとすると、塔の高さが510mほどになるらしいことも今回初めて知った。
それらが関係しているのかどうかはわからないが、会場のあまりの混雑ぶりにはとにかく驚い
た。前回の展覧会(かつて池袋にあったセゾン美術館だったと記憶している)では、比較的人
もまばらでゆっくり観ることがきたのだが…。好きな絵が人気を集めていることは喜ばしいが、
列の進み方を気にしながら限られた時間で鑑賞しなければならないのは少々残念だった。

ご存知の方も多いと思うが、バベルの塔の物語は旧約聖書の創世記第11章に登場する。すべて
の地で同じ言葉を使っていた人間が、天に届くような塔を作り始め、それを見た神が阻止する
ために言葉を乱して互いの言っていることを理解できないようにしてしまう、という話である。
互いに言葉が通じなくなった人間は巨大な塔を作ることをやめ、世界中に散らばっていった。

バベルの塔の絵を見ながら創世記の物語に思いを馳せていて、ふとIoTのことを考えた。
とはいえ、一般論としてのIoTの概念は広く、なかなか具体的な姿をイメージするのが難しい。
そこで、ここから先は建物にかかわる各種のビルシステムの連携と高度化、という観点から
IoTという言葉を使っていくことにする。

建物にかかわるビルシステムというと、BEMSや照明制御、セキュリティや各種の監視・制御
システムを思い浮かべることができる。これらは複数の装置や機器がネットワークを介して通
信することで、サービスを提供する。通信すると言っても、ある装置が送信する情報を、受信
する別の装置が理解できることが前提であり、そのための共通言語として通信プロトコルが決
められている。例えば空調機器の監視や制御を行うビルシステムでは、BACnetが標準的な通
信プロトコルとして採用されることが多いようだ。
しかしIoTという観点から視野を広げると、建物に関わる各種のビルシステムが総てBACnetを
使っているわけでもない。例えばオフィス内で人の位置を検知し、人がいない場所の空調を止
め照明を消すといった仕組みを作ろうとする。この時、位置検知と空調制御と照明制御が異な
る通信プロトコルで運用されていれば、つまり違う言葉をしゃべっているのであれば、情報の
やり取りをすることができない。このような場合は、それぞれの通信プロトコルを通訳する機
能を持ったゲートウェイを間に入れて、お互いの言葉が理解できるようにする必要がある。通
信プロトコルは物理層からアプリケーション層まで7階層に分類されるのでそれほど単純な話
ではないのだが、ここでは省略する。
通訳役のゲートウェイに適当に訳しとけという訳にはいかないから、あるサービスを成立させ
るためには、ビルシステムを構成する機器の通信プロトコルをすべて把握し、それぞれがやり
取りする情報をどのように通訳するのか、前もって決めておく必要がある。機能を追加するた
めに新しい装置を単純にシステムに追加してやる、とはいかないのである。
今後ビルシステムのIoT化が加速すると、システムを構成する機器や装置の種類は増えるだろ
う。仕組みはますます複雑になり、作り込みの手間も大きくなっていく。

建物のIoT化を進めていくには、機器や装置の組み合わせを容易に行える自由度の高い環境が
必要となる。
IoTの通信プロトコルを統一していこうという動きはある。しかし、様々なバックグラウンド
を持つ機器や装置と、これから加わるであろう新たな装置を含めた統一言語を実現するには、
まだまだ時間が必要となるはずである。
この問題の解決を標準化ではなく最適化として、AIにやらせることを想像してみよう。AIを組
み込んで、システムにつながっている機器や装置がどのような通信プロトコルをしゃべるかを
調べ、みんなが理解できるような翻訳手順を考え出して通訳としてのゲートウェイを教育する。
このような仕組みが実現されれば、フレキシブルなビルシステムの構築が容易に実現されるか
もしれない。更に新たな装置をビルシステムに追加すると、ある程度の時間でコミュニケー
ションがとれるようにゲートウェイの通訳機能が進化するだろう。将来のビルシステムでは、
装置のプラグアンドプレイも夢ではないのかもしれない。

もう一歩踏み込んで、各機器や装置の通信プロトコル自体を変えていけるような仕組みを想像
してみる。
機器や装置は製造されたときにそれぞれ固有の通信プロトコルを持っているが、必要に応じて
しゃべる言葉を変えることができるとする。それらをシステムに組み込むと、最初は通訳がい
なければ会話が通じない装置たちを、AIがそれぞれの機器や装置の言葉を変えながら全体の通
信プロトコルを最適に共通化していくという仕組みができあがる。後から装置を追加すると、
その装置に共通言語を教育するというよりは、追加された装置の個性も尊重してシステム全体
の通信プロトコルを変えていくといったイメージである。
同一の装置が、参加するビルシステムの環境や条件によってまるで違う通信プロトコルをしゃ
べるようになるが、一つのビルシステムという世界の中では様々な機器や装置が同一の言葉で
コミュニケーションをとることができるようになる。

先日、機械同士のコミュニケーションを進めるプロジェクトにおいて、AIが独自の共通言語を
作り出し、覚え始めたというニュースがあった。IoTを進化させる上で機械同士がより円滑に
通信できるようにするには、彼ら自身に共通言語を考えさせた方が合理的なのかもしれない。
IoTがこのような能力を取得すると、ビルシステムはどのような存在になるのだろう。人間に
は理解できない言葉をしゃべり、人間のあずかり知らないところで、新しい機能やサービスを
勝手に創出するようになるかもしれない。同じ言葉でやりとりをする装置たちが作りだすIoT
のバベルの塔は、どのような姿かたちをしているのだろう。
また、その時人間は創世記の神と同じように、彼らの言葉を乱してお互いを理解できないよう
にすべきなのだろうか。

「ブリューゲル『バベルの塔』展」のミュージアムショップで見つけた「バベルの塔キャラメル」

「ブリューゲル『バベルの塔』展」のミュージアムショップで見つけた「バベルの塔キャラメル」