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コラム

BIMを基盤とした建築生産システムにおける生産性
の向上に向けて

2017.11.30

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

躯体の形を正確に表現することが目的ではないが、設計BIMモデルのままではBIMモデルを活
用した施工計画でどうにも具合が悪いこともある。例えばRCラーメン構造でプレキャストコ
ンクリート(PCa)工法を採用する場合を考えると分かりやすい。日本の建築技術では、梁が
取合う部分の柱(パネルゾーン)を現場打ちコンクリートとしたり、パネルゾーンと梁の一部
を一体化したPCaにしたり、ビルディングエレメントとしての部位と異なる単位で構造体を構
成することが多い。大規模集合住宅のようにPCa部品を多用した躯体の工程計画は、それを楊
重する回数すなわちPCa部品のピース数が工期の決定に支配的であるため、施工と異なる分割
単位の柱や梁で構成される設計BIMモデルから工程計画に必要な情報を直接算出できない。
BIMを基盤とした設計と施工計画のコラボレーションを可能とするためには、「部位」である
柱や梁を分解・結合し、「製品」であるパネルゾーン・柱・梁で構成される構法BIMモデルへ
の変換が考えられる。その方法は、①躯体をパネルゾーン・柱・梁のオブジェクトの組み合わ
せに置き換えてパネルゾーンの形状をパラメトリックに可変させる方法*1、②躯体全体を施工
計画に合わせてパネルゾーン・柱・梁の部分に切り分ける方法*2 の2通りが考えられる。いず
れかの方法で作成した構法BIMモデルのオブジェクトに、「現場打ちコンクリート」や「プレ
キャストコンクリート」など製品の名前*3 や仕様*4 を示す分類コード番号を与えれば構工法
BIMモデルとなり、工程計画やスケジューリングおよびそれらの可視化が可能となる。また、
それらのオブジェクトにコンクリートの種類・強度・スランプ値などの詳細な仕様やコンク
リート数量当たりの型枠や鉄筋の材料歩掛などの施工情報を紐付ければ工事コストの概算が可
能となり、所謂、5D-BIMの世界感となる。さらに、構工法BIMモデルのオブジェクトと製作
図やBOMを結び付けたりCAD/CAMソフトウエアとデータ連携したりできれば、BIMとマニュ
ファクチャリングのコラボレーションへの道が開けてくる。

このような設計・施工計画・マニュファクチャリングをコラボレーションするBIMワークフ
ローは、CLTパネル構法のように組み立て型の建築かつ装置依存型の加工工程を持つ構法で特
に相性が良いのだが建築設計から加工・組み立てへと流れる情報を各工程を担う企業や装
置メーカーを含むサプライチェーン全体で標準化する議論が進んでおらず、その実現は未だ見
えていない。日本の建築業界が、施工図を効率的に作図するためのBIMから先に歩を進めるに
は、情報を様々に利用できる環境とソフトウエアやプラグインの充実が肝要である。このよう
なBIMを中核としたコンピュータ支援建設(Computer-aided Building Methods:CABMと
仮に呼ぶ)へのイノベーションに向けた生産システム的、技術的な研究をオープンな枠組みで
進めていく必要があるのではないかと考える。

建築生産システムとICTの融合を促進するオープンな場の下地として、王立英国建築家協会
(Royal Institute of British Architects:RIBA)傘下のNBSが無料で配信しているオブジ
トライブラリー(NBS National BIM Library:NBL)にはいたく感心する。NBLのオブジ
トは、NBSが制定した「NBS BIM Object Standard v1.3」に従って標準化された属性項目が
付与されている。その属性項目は、「製品や建材の仕様や性能の項目」、「製品や建材の供給
や管理に必要な項目」、「製品や建材に関する情報にアクセスするための項目」、「製品や建
材の設計に必要な追加的項目」と解釈できる4つの属性グループに分類されており、その中で、
「製品や建材の仕様や性能の項目」はIFC 2×3のクラス毎のcommon property setsの項目を、
「製品や建材の供給や管理に必要な項目」はCOBie UK 2012(=COBie v2.4)のTypeシート
とComponentシートの項目をそのまま転記している。つまりNBLは、buildingSMARTの信頼
性に担保されたISO準拠の標準をオブジェクトの属性項目として建築生産プロセスの実務に実
装した例である。これにより、標準化された属性項目を利用した先進的なソフトウエアやプラ
グインツールの自由な開発を促し、建築生産システムにおける生産性向上に寄与することが期
待される。我が国の建築産業でも属性項目のグローバル標準がICTの発展に対して持つ意味へ
の認識が広まれば、世界中の優秀な人材が柔軟な発想で作成する便利で先進的で豊富なソフト
ウエアやプラグインを誰でも安価に利用できるようになるだけでなく、国内で開発したソフト
ウエアやプラグインが他の国でも利用される、つまり日本の仕事のやり方が他の国に理解され
る可能性も出てくる。

建築生産システムとICTの融合は、技術的には可能だが普及が進まないという状況が長らく続
いている。BIMを中核とした建築生産のイノベーションが起きるためには、標準に対する自前
主義や排外主義の発想を転換し、ICT業界のグローバルなビジネスエコシステムに門戸を開い
ていく必要があろう。ICTで生産性向上を図るのであれば、このようなタイプのオープンイノ
ベーションにのるかそるかを日本の建設業界は決断する時期にきているのではないだろうか。


*1 朱正路,志手一哉,牧野能久,「BIM による構工法計画に関する研究 設計モデルから
   構法モデルの自動変換に着目して」,日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集. 建築
   社会システム,pp.209-210,2017.9
*2 小池新,田澤周平,志手一哉,蟹澤宏剛,浦江真人,安藤正雄,「施工計画段階のBIM
   の利用方法に関する研究 その2 構工法計画段階における3D モデルに関して」,日本
   建築学会大会(近畿)学術講演梗概集. 建築社会システム,pp.139-140,2014.9
*3 Uniclass 2015:Pr - Products
*4 OmniClass:Table 22 - Work Results、もしくはMasterFormat