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コラム

BIMの今を考える

2018.02.20

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

1月の原稿をサボてしまったので、2月ではありますが、今年一年の抱負を宣言させていただ
きたいと思います(笑)。
 
■BIM元年から9年
BIMの普及を願って、「BIM建設革命」という本を書き、「BIM元年」を宣言したのは、
2009年1月。あれから9年が経過した。
 
出版当時は、多くの人に、「BIMなんて使い物にならない」と言われていたものの、現状を見
るかぎりBIMは無視できない大きな存在となった。依然として効率が上がらない建築の設計、
施工、管理における省力化、効率化の切り札として、特に経営層からBIMに大きな期待が寄せ
られている。
 
実務的には、確かにBIMは特定の事項をターゲットとした設計、施工を省力化して、大きく改
善している。たとえば複雑な三次元形状の設計や施工には、BIMが持つ3次元CAD的側面は、
すでに多方面で使われている。また外装など特定の部分では、パラメトリックデザインにより
決定された形が、BIMのデジタル情報として施工者や専門メーカーに渡され省力化につながっ
たり、材料単価などの建築情報との連動により部分的な自動積算等も行ったりということが、
実務の中で散見されるようになってきた。さらには、スタジアムの客席配置など、設計上の
手順が面倒であってもアルゴリズムが定義しやすいものについては、コンピュテーショナルな
手法でBIMを直接作成することで、大幅な作業の省力化を実現している。
 
■ビルディングインフォメーション
その一方で、BIMの一番の特徴である「総合的なビルディングインフォメーション」としての
利用が今一つ伸び悩んでいるように思われる。主たる原因は、いまだBIMを使える設計者の絶
対数が不足している現状に加え、現状のBIMソフトウエアがビルディングインフォメーション
を総合的に扱うには、非力であり、直感的にデータ編集や操作ができないといった実情があり
そうである。加えて現状で手に入るハードウエアでは、本気で設計に必要な密度のデータを放
り込むと、BIMの動きがかなり重くなって設計者にストレスを与えかねないといった現実もあ
る。現状のBIMで統合モデルとしての側面を生かそうと思うと、設計や施工の仕方をBIMの方
に合わせなきゃならないという、本末転倒な状況が起こってしまうのだ。
 
■中途半端な現状のBIM
つまり現状のBIMは、ソフト的にも、ハード的にも、そしてヒューマンリソース的にも、設計
や施工で部分最適化的活用には使えるようになったものの、BIM本来の統合ビルディングイン
フォメーションを扱うには、いまだ非力だというのが僕自身のBIMの現状認識である。つまり、
BIMはまだまだ発展途上にある中途半端な代物なのである。
 
そんなわけだから、その中途半端な状態でもBIMを受け入れられる心の広い人か、特定の分野
に限ってもBIMを使った方が効率を上げられることを経験した人、もしくはクライアントや上
司にBIMの利用を要求された人しかBIMを使わないのが現状である。
完璧主義者や、すべてを理想通りにBIMでやろうという人には、現状のBIMは使いものになら
ない中途半端な代物ということになる。
 
■BIMに対するスタンス
こうした状況を踏まえ、現状の僕のBIMに対するスタンスは、
・目的を絞った利用でも、BIMは設計の高品質化、省力化につながる。
・現状は中途半端なBIMも、ムーアの法則に則り、さらにはAIによるサポートにより、
すぐに(これが何年後かが予言できればいいのだが)進歩を遂げるであろう。
だから今からBIMを使うべきだ、という立場をとっている。
 
こんなわけで今年は、「今、何をどうすれば、BIMを使ってよい設計ができるか」を中心に情報
を集めて行きたいと思っている。皆さんのご意見をお待ちしております!

 「長崎県庁外観」
 主に、BIMの3Dモデリング機能と、二次元自動作図機能を駆使して設計した、各階の形状が異
 なり微妙にずれる外観。

 「長崎県庁外観」
 主に、BIMの3Dモデリング機能と、二次元自動作図機能を駆使して設計した、各階の形状が異
 なり微妙にずれる外観。


     「長崎県庁内館」
     BIMの3Dモデリング機能と、二次元自動作図機能に加え、BIMを利用した光の
     シミュレーションを行い設計精度を上げている。

     「長崎県庁内館」
     BIMの3Dモデリング機能と、二次元自動作図機能に加え、BIMを利用した光の
     シミュレーションを行い設計精度を上げている。

山梨 知彦 氏

日建設計 チーフデザインオフィサー 常務執行役員