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コラム

技術力って何だろうか

2020.06.04

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

自分の仕事を人に説明するのは、非常に難しいと感じることがあります。プログラマかといわ
れるとソフトウェアなどの大型開発に関わっているわけでもないので、それも違うと思います
し、コンピュテーショナルデザインをやっているからデザイナーかと言われてもそれも違うし、
エンジニアだと表現しても何か違うと感じることが多いです。どれが一番近いと言えばエンジ
ニアなのですが、教育は意匠系でデザインを専攻していたので、生粋のエンジニアというわけ
でもないと感じています。ただ、ひとつ言えることはカテゴリ化はできていないとしてもその
分野自体には自信があるということです。よくコンピュテーショナルデザインやオートメー
ションを習い始めた人、特に学生に多いのですが、役に立たないよくわからないことをやって
いると卑下することがありますが、そういう言い方はあまり好きではありません。まるで建築
設計の授業で名建築の図面を製図版で手書きでトレースしている授業を、生産性がなく不毛と
表現しているのと同じことだと思います。好きでやっているとしたらできるだけそういう表現
ではなくポジティブに表現する力をつけていくほうが本人にとってもメリットはあると感じま
す。

私個人としては、依頼者の持つ知識や経験をいかにデジタルに落としてこめるか、そのツール
を依頼者以外も使えるようにすることで多くの個人を拡張するということを目標に仕事をして
います。手作業のワークフローに対して、時間を短縮し効率化や容易化を図ることができる自
動化ツールを設計・制作したり、スクリプトやアドオンといったライトタッチな小さなツール
を介入させ、ワークフローの改善を提供することをしています。言葉にすると非常にわかりづ
らいかもしれません。そのため、こうした仕事への認知を広げたり、プレーヤー同士の刺激に
なる場をつくるために、ワークショップやミートアップ(TokyoAECIndustryDevGroup“ク
リックするとYouTubeへリンクします”
)も開催しています。デジタル技術を取り入れるとい
うことは、単に新しいソフトウェアを導入することではありません。組織やチームの能力を高
めることで、初めて新しいテクノロジーを咀嚼し、活用することができるようになります。ソ
フトウェアやツールの使い方はもちろんのこと、チーム全体をどのように成長させるかについ
ても戦略的に計画し、カスタム・ラーニング・パスをつくる支援することが必要です。このデ
ジタル技術が何かわからないものという「恐怖心」から何かわからないけど挑戦していくこと
でより明るい現実を手に入れる「手段」へと意識改革を行うことも非常に重要です。英語では
scriptophobia:スクリプト恐怖症などと言われていますが、始める前から何か怖いと感じるこ
とはよくあることです。私も初期の段階ではプログラミング言語に対して恐怖心がありました。
そこがなくなってから迷いがなくなり、少しずつですが成長していきました。最近は、
GrasshopperのC#のチュートリアル動画をYouTube(クリックするとYouTubeへリンクしま
す)
にアップするような取り組みも始めました。動画のクオリティはまだ始めたてなので低い
ですが、これをみて自分でもできそうだなと思ってもらって、裾野を広げることを目標にして
ます。

ただし、いくらプログラミングができようと自分以外の人に実際に使ってもらうツールを作る
というのは非常に高いハードルがあります。なぜなら、使い手にはそのツールがいかに正確に
速く計算処理ができようと、相手が怖いまたは嫌だと思ったら使ってくれないですし、そもそ
もツールにニーズがなければ使う機会もありません。構築物と同じで、どれだけ小さなツール
だとしても、実際に使ってもらうことを考えると、企画→業務設計→要件定義→設計→実装→
テスト→リリース→保守という流れになるため、企画の段階で内容がずれていたら何もならな
いツールが出来上がります。実はプログラミングの技術が必要な部分は実装の部分だけなので、
そのほかにプログラミング以外のフェーズが多くあります。技術力(実装力)だけあっても、
ほかのところができれなければ、全くもってよいものが作れない、最近はそれを強く意識し始
めました。プログラミングスキルに関わらず、ツール開発を通して自動化や既存ワークフロー
の改善に関わりたいというチームの人数を増やし、多方面から協力を得ることが大切です。建
設系のツールでは、使い手のニーズや性質を感覚的に掴んで、技術的なハードルを具体的に洗
い出し、プロトタイプを重ねることで試しながら、企画→業務設計→要件定義→設計→実装→
テストを何回も速度感もって繰り返すことが成功するカギです。その速度にはもちろん実装力
が問われるので大切だという意識はあるので日々勉強しています。

技術力って何だろうというタイトルですが、技術力って繰り返し失敗することから学び改善し
た力なのではないかと思います。それはデジタルでもデジタルじゃなくても同じです。一発で
成功することは何ごともないので、失敗してもそこから学び怯えず過ごしていける努力をして
いきたいです。

 Meetupの様子

 Meetupの様子


 Meetupの様子2

 Meetupの様子2

石津 優子 氏

GEL 代表取締役