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コラム

進化するビジュアル情報コミュニケーションツール

2022.03.31

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

誰でも利用できるツールの必要性
デジタルツールが日常に浸透してきた今日、情報シェアの在り方も大きく変化している。
前回のコラムで紹介した「ユニット建築の価値を高める」(まちづくりと建築づくりにおける
デジタルネットワークと情報シェア)に続き、今回は「プロセスにおける新しい情報
シェア」・・・BIM~パノラマmemoで「設計とコミュニケーションを一体化」した仕組みづ
くりと利用について触れてみたい。
 
これまでの情報シェアリング
これまで、一般的には文書や図面による情報交換が主であった。これらはリアルタイムでの情
報交換としては問題が無いのだが、時系列で整理するとなると面倒なことが多い。インプット
情報は要求条件、室(空間)、部位(ディテール)、マテリアル、工法と多岐に渡る。条件が
変更、複合化することも多々ある。さらに経緯の把握などの時間軸が加わると混乱の極みに達
する。また、こういった情報の複雑化は、有ってはならないミスや不具合の発生原因にもつな
がってしまう可能性もある。
 
空間データ上で簡単に情報管理をしてみる
そこで、事業やプロジェクトプロセス自体を、時間軸を加えた一つの「フィールド」として捉
え、「BIMのビジュアライズ化」と「関係必要情報」を掛け合わせ、簡単に情報共有できる仕
組みを構築してみた。具体的には、BIMとパノラマmemoがフェーズごとに連動するコミュニ
ケーションツールである。関係するすべての人が直感的に情報を認識することができ、かつ簡
単な操作、相互関係の把握、伝達ができる特徴がある。それぞれの視点からのメリットとして
は・・・、
①クライアントの視点:要求の確認、デザインや空間やマテリアルがいつでも確認できる。
②設計者の視点:経緯の蓄積による要求条件の達成度の確認、デザインやディテルチェック
 記録・履歴・査図の保管など、一つのファイルでレビューや確認時間の無駄を省くことがで
 きる。
③関係者の視点:それぞれの立場や専門性からチェックし、過不足を確実に是正することや、
 それぞれの調整、作業時間の効率化も可能である。
さらに、直接的な情報の蓄積は、直感的理解を促進させ、関係者の認識共有を確実に醸成させ
ることもできる。
 
ビジュアルプロセスからコミュニケーションツールへ
このRevit⇔Enscapeのリアルタイムレンダリングによる3D仮想空間に、パノラマmemo機能
を加えた、時間軸を持つ新たなコミュニケーションツールは・・・、
● ビジュアライズ化された3D空間で、直感的空間理解が進む。
● 仮想空間に設計情報を蓄積することで、設計の経緯を確実に追うことができる。
● 設計与条件や要求事項の達成度を逐次確認することが可能。
● 検討事項や設計図書を蓄積することで、決定のプロセスの確認が容易。
● 関係者間のメモによる議論や相互認識の共有。
● 結果的に業務効率化が可能。
という利点も見えてきているが、同時に、プロセスフェーズごとに、若手もベテランも無理な
く使える「仮想空間+コミュニケーションツール」は、それぞれの人の能力を最大活用できる
ツールであるとも言える。
 
施工そして維持管理まで引き継ぐ
以上のように、今回は事業フィールド全体を通して合理的に活用できる利便性の高い仕組みを
紹介してきた。
基盤となるプラットフォームは、フェズ(節目)ごとにパノラマmemoへの書き出しを行い
検討情報をログとし蓄積し続けることで、設計―施工―維持管理まで事業や計画意図を引き継
ぐことも可能である。最終的には維持管理パノラマmemoとしての発展的活用もできる。
事業フィールドの拡大やプロセスの一元管理が常態化しつつある今、複雑化する情報コミュニ
ケーションの集約と管理は必須であろう。すべての関係者が効率的に活用できる仕組みを持つ
ことが、運営能力の一つとして求められる時代になってきている。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員