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コラム

デジタルファブリケーションと建築デザイン教育

2016.01.21

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

このWEBマガジンの最新10行ニュースでもお知らせしていた「ラーニング・アーキテクチャー2015|建築、学びの冒険─大学の建築設計課題の動向展」が、昨年の11月20日から12月26日
まで、東京ミッドタウンの武蔵野美術大学のデザイン・ハブで建築系の11大学の学科が参加し、
開催された。
開催概要によると、『大学建築系学科における「建築設計の課題」は、社会で展開する同時代
の建築デザインや建設技術などの動向を反映し、つねに変化しています。近年、建築の領域に
もコンピュータが普及することで造形の可能性が広がるだけでなく、生産・建設・完成後の運
用までが設計段階で確認できるなど、さまざまな技術革新が進んでいます。また、設計と計画
のプロセスに利用者や住民が参加することから、建築家の職能と主体にも変化が見られます。
建築教育の現場では、建築そのものに対する捉え方や考えを学生に問いかけるという、多様な
試みと冒険が始まっています。』とあった。
詳しい情報は、武蔵野美術大学建築学科のWebサイトに掲載されているが、学生による模型や
図面でのプレゼンテーションが一堂に会し、参加大学の建築学科の教授によるレクチャーと短
期ワークショップなども同時開催された。この動向展示で各大学課題の学生のプレゼンテーショ
ンを見た。各大学の教育の特徴が垣間見られ、とても楽しく、有意義なものであった。今後も
この動向展が継続できたらと念願している。しかしながら考えさせられることもあった。
 
「Archi Future 2015」イベントのセミナーで、アメリカの建築系の大学教育に触れたものが
あった。アメリカのほとんどの建築学科では、デジタルファブリケート工房があり、CNCミリ
ングマシン、ロボットアーム+ウォータジェットカッター、3Dプリンターなどが共同で利用で
きる環境が整っているとの報告であった。これらを含めた大学での建築設計教育が、グローバ
ルに活躍する昨年のArchi Future 2015で基調講演をお願いしたBIGやSHoP(コロンビア大学
の卒業生が中心の事務所)のコンピュテーショナルデザインやBIMの発想と構築につながって
いることを強く認識させられ、クリエーター教育での重要性を感じた。
この最新のデジタル系マシンの使い方から新しいデザインの視点や展開につながると考えられ
る。併せ、大きく変革しつつあるものづくりのデザインや施工方法への新対応の発想も生まれ
るに違いない。映像やカメラ業界は、アナログからデジタルへのバトンタッチを見事に成し遂
げ、マーケットを拡げることにも成功している。建築界全体のベクトルもその方向に邁進して
いる。建築教育も例外ではないと言える。
 
この環境下、日本の建築学科での「ものづくり教育環境」に欠かせないデジタルファブリケー
ションは、デザインを進める上で不可欠なツールであり、これらが、大学でどれだけ導入され
設計教育に利用されているのか、少し、気がかりである。高価で専任者も必要となる可能性も
あると考えられるが、理工系や工業デザイン系などの他の学科との共同利用を図れば可能なの
ではないだろうか。聞くところ、このような環境が整っている日本の大学は、今のところ限ら
れており、今後、早い時期での環境整備を望みたい。
今、現在、グローバルに活躍する日本人建築家は多い。しかしながら、今後、世界に通じるも
のづくり人材を育てる建築教育現場の環境が、世界のデザイン・設計・施工の技術革新の視点
から取り残されていないか、などと危惧するのは考えすぎだろうか?





松家 克 氏

ARX建築研究所 代表