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コラム

建築工事標準仕様書とBIMの関係

2023.06.29

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

ゴールデンウィーク前後にすきま時間がポロポロできる機会があったので、公共建築工事標準
仕様書(建築工事編)(以降、公共標仕と呼ぶ)の目次をUniclassの番号に興味本位で分類し
てみた。対象としたテーブルは、主としてシステム(Systems:Ss)、プロダクト
(Products:Pr)、ツール&イクイップメント(Tools and equipment:TE)である。個人
の趣味で楽しんだことなので、正確でないし完璧でもない。叩かれ台にもならないがUniclass
を理解するうえで何某かの参考になるかと思い、ここに速報を記したい。マッピングの検討を
してみたファイル
は共有するのでこれを見ながらこのコラムを読んでほしい。
 
Uniclassにおける建物の定義は明快である。型枠でも、完成した建物の一部として残る打込み
型枠はコンポーネントを分類するSsテーブルや製品(製造されるものであり商品ではないこと
に注意)を分類するPrテーブルにあり、コンクリート打設後に解体して完成した建物に残らな
い仮枠は道具や機材を分類するTEテーブルにあるこれは建物を構成する「モノ」の視点で
SsとPrのテーブルを整備しているUniclassの特徴をよくあらわしている。例えば「鉄筋コン
クリート柱」を構成する製品の集合は{レディーミクストコンクリート、異形棒鋼}{レ
ディーミクストコンクリート、異形棒鋼、打込み型枠}、{レディーミクストコンクリート、
ユニット鉄筋機械式接手エポキシ樹脂グラウト}などが考えられる。Ss:システムは建物
を構成するコンポーネントであり、Pr:製品の集合である。この「Ss ⊂ Pr」の関係は、BIM
オブジェクトも同じである。BIMオブジェクトに含むモノをあらわす際にジオメトリが必要か
インフォメーションで充分か、BIMオブジェクトに内包するか外出しにするかといった議論に
つながっていく。また、製品やコンポーネントの数量を4次元目、それらを設置する作業方法
を5次元目の情報と解釈することにも意義がある。
 
令和4年版の公共標仕の目次は23章あり、1章の「各章共通事項」以外の章の名称は「xx工事」
である。節は、1節が共通事項でどの章も共通しているが、2節以降は章ごとに構成が異なって
いる。その違いは、主に材料が記載されている節から入る章(鉄筋工事など)、工法が節と
なっている章(防水工事など)、材質の種類が節となっている章(建具工事など)などに分類
される。項は、節の説明である。工法、材料、資材、施工、作業などの説明が展開される。こ
の目次の節に対してUniclassの番号を付記できないかと思い立ったわけである。それが何の役
に立つかはどうでもよく、日本において工事仕様書とBIMの関係をひも解くきっかけになるか
もしれないという個人的な興味である。
 
この作業は、目次の項目にUniclassの番号を割り当てるという考え方ではなく、目次の項目を
Uniclassのどの番号(クラス)に入れるのが良いかという考え方でおこなうことが重要である。
Uniclassのテーブルや階層体系を無視して名寄せ的に番号を割り当てても意味がない。また、
言葉じりを拡大解釈して強引に番号を割り当てることも意味がない。公共標仕の目次の各項目
をUniclassの番号でただひたすらに分類することに意味がある。この作業では、工事種別を示
す章は検討の対象外としたので主としてSsテーブルとPrテーブルを対象とした。作業を始める
までは、節の項目とSsテーブルの相性が良さそうかと思っていたが、案外そうでもないことを
痛感した。
 
はじめに、検討しやすそうな「9章 防水工事」から手を付けた。防水工事は、アスファルト防
水、改質アスファルトシート防水、合成高分子系ルーフィングシート防水、塗膜防水など、防
水工事の種類が2節5節に記述されているこれらに対応するUniclassの分類番号はSsテーブ
ルに見出せる。Uniclass で屋根のアスファルト防水は、断熱の有無で「Ss_30_40_30_50:
アスファルト屋根防水システム」と「Ss_30_40_30_55:アスファルト屋根防水外断熱シス
テム」に分類される。それに対して公共標仕は、断熱の有無のほかに、密着か絶縁か、保護か
露出かで分類されており、各分類ごとに表で複数の仕様が記述されている。Uniclassの側から
見れば、断熱無しはSs_30_40_30_50、断熱ありはSs_30_40_30_55に分類できる。また、
公共標仕の「表9.2.9 屋内防水密着工法」は、UniclassでSs_30_40が屋外の防水システム、
Ss_32_20がそれ以外の防水防湿システムの分類であるので「Ss_32_20_30_55アスファ
ルト床防水システム」に分類される。ただし、「表9.4.3 合成高分子系ルーフィングシート防
水工法(屋内保護密着工法)」に対応するSsテーブルの分類は見当たらない。近しい分類とし
て「絶縁工法ポリエチレン系露出シート防水システム」があるが、対応しているとは言えない
だろう。なお、「7節 シーリング」は、コンポーネント間をつなぐ製品なのでPrテーブルに分
類されている防水工事のように節とSsテーブルが比較的素直に対応するパターンに「8章 コ
ンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板工事」「17章 カーテンウォール
工事」「22章 舗装工事」が該当する。
 
「16章 建具」も似たパターンだが様相がやや異なる。Uniclassでは、建具の区別は明確であ
Ssテーブルにおける建具の分類はドアシステム、窓システム、スライディングドアシス
テムシャッターシステムオーバーヘッドドアシステムである。また、Ssテーブルで分類さ
れているのはドアと窓までで、その材質による分類はPrテーブルにある。したがって、「2節
アルミニウム製建具」に対応するのは、「Pr_30_59_24_02:アルミニウム製ドア」
「Pr_30_59_98_02:アルミニウム製サッシ」となる。なお、「14節 ガラス」について公共
標仕には「この節は、建具に取り付けるガラス及びガラスブロックに適用する。」との記述が
ある。そのため、建具を構成する資機材や部品としてガラスを捉え、Ssテーブルの
「Ss_25_60_35:ガラスシステム」ではなく、Prテーブルのガラスを対象とした。建具工事
の節は、SsテーブルやPrテーブルが節と比較的素直に対応するパターンである。
 
「5章 鉄筋工事」「6章 コンクリート工事」「7章 鉄骨工事」の各節に記述されているのは材
料や資材の説明なので、対応するUniclassの分類はPrテーブルとなる。例えば、コンクリート
工事では、「6.2.1 コンクリートの種類」や「6.3.1 コンクリートの材料」に記載されている
表に記述されている材料に対応するUniclassの分類番号をPrテーブルに見出せる。一方で、Ss
テーブルにおける分類は「Ss_20_30_75_70:鉄筋コンクリート柱システム」
「Ss_20_30_75_65:プレキャスト鉄筋コンクリート柱システム」「Ss_20_20_75_70:鉄
筋コンクリート梁システム」「Ss_20_20_75_67:プレキャスト鉄筋コンクリート梁システ
ム」などである。ここに工種分類とコンポーネント分類の違いをみることができる。このケー
スと同じパターンは、「12章 木工事(2節 材料)」「14章 金属工事」「19章 内装工事(7節
せっこうボード、その他ボード及び合板張り以外)」が該当する。
 
次に手を付けたのは「10章 石工事」である。石工事は2節が材料であり「この章は、現場打ち
コンクリートの表面に、天然石及びテラゾを取り付ける工事に適用する。」と記載されている。
「3節 外壁湿式工法」の記述は施工方法であり、公共標仕はそれ以上に細分されていない。 外
壁湿式工法に対応するUniclassの番号は、「Ss_25_20_85:石製外装システム」が妥当そう
である。ただしこの番号には下位階層が存在し、「Ss_25_20_85_50:人造石製外装システ
ム」「Ss_25_20_85_55:天然石製外装システム」に細分されている。そうすると、外壁湿
式工法が入るSsテーブルの分類は、最下層ではなく3階層目の「Ss_25_20_85:石製外装シ
ステム」となる。このように途中階層の分類でないと公共標仕に対応しないパターンは、
「11章 タイル工事」「12章 木工事(6節 床板張り)」「13章 屋根及びとい工事」「19章 内
装工事(7節 せっこうボード、その他ボード及び合板張り以外)」「23章 植栽及び屋上緑化工
事」が該当する。
 
「20章 ユニット及びその他の工事」には、これまでに述べた各パターンが混在している。こ
の章は、製品もあればコンポーネントもあるということである。
 
Prのテーブルは、資機材や部品といった製品の分類である。あくまでも「モノ」が対象である。
Prの最下層の分類項目の部分集合という位置づけであるSsもまた、「モノ」の集まりである。
つまりSsとPrの関係は、構築方法をあらわしており、施工方法は意味しない。コンポーネント
と製品の関係を階層構造で愚直に整理する関係である。どのような工法で工事をするのかは、
SsテーブルやPrテーブルの分類番号に対する記述となる。標準仕様であればリンクで済むし、
特別仕様であれば記述が必要である。
 
この叩かれ台は日本建築積算協会の情報委員会にて検討を深めて精査いただく予定としている。
 
参考
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)
Uniclass
Uniclass(日本語版)Web検索システム

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授