Magazine(マガジン)

コラム

行ってみたArchi Future 2023

2023.11.16

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

10月26日に開催されたArchi Future 2023の直後にこのコラムの順番が回ってきました。
記憶が新鮮なうちにまとめと感想を残したいと思います。私は一番大きな箱の講演会を4本連
続で受講しました。いつもより文字数多めですがお付き合いください。開催に先立ち実行委
員長の松家 克氏から「今回はデザイン系を増やした」とコメントがありました。大変楽しみ
です。

最初の特別講演として秋吉 浩気 氏(VUILD 代表取締役CEO)による「創造性の解放―コン
ピュテーション×ファブリケーションが実現する自由な建築」が始まりました。
秋吉氏は2007年公開の映画「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」を観て建築に興味を
持った、と自身のオリジンを語ります。初めから図面ではなく3Dを意識していたということ
ですね。
コンピュータ制御の木材加工機ShopBotを用いて、家具を子供が描いた絵から加工して創る話
はワクワク感が溢れ、まさしく「デザインの民主化」だと思いました。興味深いのは木材の商
流にも着目し、木の生産者にも還元出来る仕組みを模索したことで、EMARFと呼ぶ木加工の
オンラインサービスを実現しています。“VUILD”の存在は今や業界に知れ渡っていますが、加
工の対象物も家具・小物からすでに住宅サイズまで可能となり、二人で持てる材料で構成する
セルフビルドの住宅キットの紹介もありました。その後はセッションの時間も押して怒涛の作
品紹介となりましたが、デジタルファブリケーションのメリットである少量多品種の部材が繰
り出す建築に圧倒されました。「海外はこんなに進んでいる」的な話はこれまでもよく聞きま
したが、国内でもここまで頑張っていることを教えてくれたArchi Futureに相応しい講演で
あったと思います。

その次は特別対談として、門脇 耕三 氏(明治大学 理工学部 建築学科 准教授)と大庭 拓
也氏(日建設計 Nikken Wood Lab ラボリーダー)とコーディネーター杉田 宗 氏(広島工業
大学 環境学部 建築デザイン学科 准教授)による「循環型社会に向けた建築の可能性-新た
なマテリアルへの視座とデジタルが果たす役割-」です。
最近ですと2025年の大阪関西万博も話題ですがイベント終了後のリユースは気になるテー
マでした。
門脇氏は2021年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館の紹介を始めました。日本
のありふれた木造住宅を解体し、それをヴェネチアに持ち込み再構築する、と言葉にするとシ
ンプルですが部材ひとつずつどこに何があたかの履歴を残しながら丁寧に解体を行うこと、
そしてそれを異国で「再現」ではなく別なモノへ「再構築」することの特殊性は、我々のいつ
もの仕事とは一線を画しています。興味深いエピソードはレトロな床仕上げ材をそのまま加工
したシンプルなスツールが200ユーロで売れた話です。アップサイクルにより建築解体で生ま
れる瓦礫の山はお金に換えられることが現実として示されています。
大庭氏からは自身のキャリアのスタートから実作の紹介、そして東京五輪での選手村ビレッジ
プラザで使用した木材を解体後に再び自治体へ返却するスキムデザインの紹介がありました。
その際にはBIMのトレーサビリティが有効であったとコメントがありました。木材に限らず今
後重要な着眼点であると思われ、まさしくサブタイトルの「新たなマテリアルの視座とデジタ
ルが果たす役割」そのものだと思いました。

杉田氏を織り交ぜた鼎談になり、日本での中古建材・余剰建材の情報化の課題と解体後に中古
木材はJASが外れてしまうという指摘もありました。「柱で使われていた履歴の古材には付加
価値がある」という話は、今後古材の商流を整えることの可能性を感じます。一時的な上っ面
のリユース・リサイクルではなく、継続できるスキームを描くことこそ重要と感じますが、さ
て2025年の万博はどうなるでしょうか?

その次は今回の目玉とも言えるアーキグラムのピーター・クック氏の基調講演「ピーター・
クックが語る未来のテクノロジー:1950年代から今日まで」です。リモートの録画で生の肉
声は聞けませんでしたが私的には聞き手である今村 創平 氏( 千葉工業大学 創造工学部 建築
学科 教授)と池田 靖史 氏(東京大学 大学院工学系研究科建築学専攻 特任教授 )のお話も含
め日本語の字幕もついて大変分かり易かったです。1950年代からアーキグラムが生まれる
1961年頃、第2次世界大戦以降の新たなテクノロジーや様々なマテリアルの転用を積極的に取
り組んでいた話は、私が生まれる前の時代でありながらライブ感を持って聞くことが出来まし
た。そして印象的であったのはテクノロジーへの愛情の大きさと、クック氏がファミリーと呼
ぶ当時AAスクール界隈で屯していた建築家やエンジニアとの関係性でしょうか。それこそレ
ジェンド級の方々との濃密なコミュニティの存在はその時ロンドンが世界の中心であったとす
ら感じます。アンビルド・アーキテクトの代表とも言えるアーキグラムですが、その後のポン
ピドゥーセンター等のハイテク建築の実作について、「ロジャース事務所の半分は私の教え子
だよ」とクック氏が発言したのは痛快ですらありました。ちょうど収録後に自作のクンストハ
ウス・グラーツでバースデーを迎えられると聞きましたが、御年87歳、iPhoneやロボットな
ど今でもテクノロジーへの愛に溢れ最先端であられることに感銘した基調講演でした。

講演の最後は「国土交通省の建築BIMの取組について建築・都市のDXの実現に向けて―」
いうタイトルで宿本 尚吾 氏(国土交通省 住宅局 審議官)、関戸 博高 氏(スターツコーポ
レーション エグゼクティブアドバイザー)、栗 新 氏(Arupダイレクター)、三戸 景資
氏(清水建設 生産技術本部 BIM推進部 部長)以上四名に池田 靖史 氏をコーディネーターに
加えたパネルディスカッションです。
初めに宿本氏のプレゼンは社会背景と我々建設業が置かれている状況確認から始まりました。
加速度的に減り続ける人口と住宅着工数の関係、気候変動からカーボンニュートラルへの取
組と環境が変わる中で、省エネ法や木造規制の合理化など制度も変化し、ZEH・ZEBさら
にはゼロカーボンへと求められるものが変化しています。デジタル化推進の上で、BIMのメ
リットを語るには多少風呂敷を広げる必要があると語ります。
続く関戸氏も大きな風呂敷的なBIMについて、産官学にまたがる社会的な存在にも関わらず、
都市と地方、大組織と小組織での格差問題があると指摘します。また建築士が高齢化する中で
BIMが若年層に依存する歪さにも触れました。これからのBIMとEコマースの連携の可能性や
BIM教育コミュニティ・企業内OJTの大事さについてもお話がありました。
次に小栗氏からは海外に複数拠点を持つArup独自のイギリスシンガポールアメリカの各
国のBIMの活用状況について現地スタッフに聞き取りした内容の報告がありました。発注者・
受注者の関係性やサプライチェーンの在り方の差以上に、BIM導入のためのインセンティブの
作り方と時間のかけ方に違いがあるように思えました。確認申請でのBIMの扱いも様々のよう
で、データの横断活用にはまだまだ課題があるようにも聞こえました。
最後の三戸氏からは建築BIM推進会議の話から始まりました。「セルフレジはDXではない」
という例え話はBIMにも同じことが言えると思いました。個社での取組ではなく業界全体のデ
ジタルスタンダードを目指す必要性と、そのためのBuilding Smartが目指す中間ファイルの
重要性について語られました。
そのあとは池田氏の進行でディスカッションへと移行しました補助事業の「BIM加速化事業」
に業界は喜んでいるのか?との問いに、関戸氏からは「小さな組織は独学で教科書も無い」、
三戸氏からは「元請けからサプライヤーへ回す形で手続きが複雑」との意見がありました。池
田氏から「確認申請含め日本はBIM後進国になっていないか?」との問いに、小栗氏からは
「動機付けは大事で、民間クライアントが求めれば事態は変わるかもしれないが、メリットを
感じられなければ。」との回答。関戸氏からは「経営・マネジメントのマインドが無く、エン
ドユーザーへのPRも不足している」との指摘。小栗氏からはエンボディードカーボン削減目標
にむけてBIM援用の示唆があり、宿本氏は「今後は建替えではなくリフォーム・リノベーショ
ンの視点が入ってくる可能性」を指摘しました。関戸氏から「建築データプラットホームがビ
ジネスチャンスになる」との可能性が示されセッションは終わりました。

以上Archi Future 2023の4つの講演を通しで聴いてみました。テーマはそれぞれ異なります
が聴き応えがあり、いずれも自分事に置き換えられるものでした。今後も時間を置いて反芻し
たいと思います。でも一番印象的だったのは朗らかに語っていただいたピーター・クックの姿
でしょうか。元気が出ました。

 基調講演の会場の様子(撮影:Archi Future 運営事務局)
 今回のイベントの開催テーマは「人類の拡張と止揚」でしたが、スケールが大きくてこれで
 一本SF小説が書けそうです。そろそろ次のステージへ・・・という感じでしょうか?

 基調講演の会場の様子(撮影:Archi Future 運営事務局)
 今回のイベントの開催テーマは「人類の拡張と止揚」でしたが、スケールが大きくてこれで
 一本SF小説が書けそうです。そろそろ次のステージへ・・・という感じでしょうか?

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長