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コラム

BIMのメリット実感してます?

2024.04.02

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

もうすでに新聞の購読を止めて久しいのですが、それに関して社外のある先輩から苦言をいた
だいたことがあります。確かに情報収集をネットやSNSに依存するのはフィルターバブルが強
まる可能性があり、自分が普段興味を持たないような話題や視点に触れる機会を逸しているか
もしれません。視野や理解が偏ったものになり、社会全体の動向や他の人々の視点を見落とす
ことで自身が成長する機会を失う・・・というより、日常的に接しているお客様との話題に困
るだろう、そんなご指摘であったかと思います。しかしながら新聞紙の発行部数の減少は言う
に及ばず、社会全体としては共有する情報や視点が分断され、対話や共感が難しくなる世の中
に向かっているようです。
一方で現在の景気回復の実感なき株価上昇は日経新聞のエコチェンバだとか言われたりと、
一体何が真実なのか寧ろ自分に都合の良い真実を選べば良い時代なのかとも思える状況です。
 
以前「BIMのかたち」の編集作業を行なっているとき、出版社の方が「この本はBIM村の住民
ではなく普通の人に届けたい」と仰っていたのを思い出します。狭い業界の中の更にごく限ら
れたBIMに携わる人が考えた「正解」ならばまさしくそれはエコーチェンバーと言われても仕
方がなかったでしょう。
今こそすべてのBIM村住民に問います。BIMのメリット実感してます?
 
私は何度かここのコラムでも書いてますが、検討事項は自分がBIMで整理して図面にしたり模
型代わりにしたりレンダリングしてます。それは職員が不足している現在において最も効率が
良いからです。モデルを入力している最中に得られる気づきは貴重です。屋根の下地の鉄骨は
どうしよう、換気のOA・EAはどこに引っ張ろうとか、意匠性を考えながら情報をまとめて次
工程に渡すのですが、そこでBIMで受け取ってくれないケースが未だあることは残念です。
そして凡そ四半世紀経った今でも建設業が製造業と比較し商流の上流・下流で3Dモデルが浸
透していないことに失望しています。
 
建設業界もやる気が無いとは言いませんただその本気度という意味で、製造業と建設業の間
で情報化投資のROI(投資利益率)に違いがあるのは致し方ないところです。大量生産が前提
の製造業では、製品の設計や製造プロセスが標準化されており、一度3Dモデリングや
CAD/CAMシステムなどの情報化投資を行うと、それが製品の品質や生産効率の向上につなが
り、短期間で投資回収が可能です。また新製品の市場投入時間の短縮など解りやすいメリット
も享受できます。一方の建設業では、すべてが個別のプロジェクトで設計も施工も毎度大きく
異なるため、情報化投資の効果が即時に現れにくいです。高額なソフトウェアの購入だけでな
く、トレーニングやワークフローの見直しなど、初期投資と負担は小さくありません。また地
理的な制約や物理的な制約が大きい業界です。建設業における情報化投資はその成功を定量的
に評価することが難しいと言わざるを得ません。
これは悪手かもと思えるのは製造業のように設計や製造プロセスを高度に標準化しようと試
みることで途端に大きなハードルが目前に現れることになり頓挫します。またモデルのデー
タ構造やフォーマットの標準化に拘り始めると企業間での3Dモデルの共有や利用が困難にな
り、理想的なオープンBIMからかけ離れていくことになります。
標準化は品質の確保とコストを削減するための重要な手段ですが、一部の特殊な要求に対応す
る能力や個々のプロジェクトに対する柔軟性が失われる可能性があります。標準化というより
規格化と言うべきかもしれませんが、それと設計の自由度がトレードオフなものではないこと
が必要だと考えます。システムは作り込みすぎない方が良いし設計者が馬鹿であることを前提
にする必要はないでしょう。私はBIMに取り組むモチベーションの一つとして、特殊な案件の
リスクを減らしたいという思いがあります。
 
また周辺の技術は日進月歩なので、3Dスキャンやドローン、ARなど手数が増えていくことに
なり情報収集は欠かせませんみなさんは建設ICTの最新情報は何処から入手していますか?
このコラムを読んでいる人には愚問とは思いますが、過去には建築CADの専門雑誌があり、
BIMやその周辺のアプリケーションの解説を読むことができました。廃刊以降他のメディアの
情報で充足できてるかと言えばそうとも言い切れない状況です。
ベンダーやメーカーの発信する情報は、自社の製品やサービスを推進するためのものであるこ
とが多いため、必ずしも中立的な情報とは言えません。そういう意味でも建設業界向けのイベ
ントである「Archi Future」は貴重な場に違いありません。私自身は複数の情報源を比較し、
どちらかというとメーカー側ではなくパワーユーザーの声を聴きたいと思っています。
 
昨今の業界の状況を見るに建設DXで今優先すべきは設計や施工での小さな効率化の積み重
ねより、プロジェクトのリスク分析かもしれませんね。工期のリスク、コストのリスクに関し
ては部材や工種の積上げなのでBIMによる定量化は効果があるかもしれません。
建設業における情報化投資は、単に設計や施工の効率化だけでなく、もっと視野を広げて様々
な領域に対して価値の提供を考える必要がありそうです。そのための情報収集をどのように行
うのかも今後考えたいと思います。

  暗闇にさす一条の光(大谷資料館で撮影)

  暗闇にさす一条の光(大谷資料館で撮影)

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長