BIMでも矢羽ってまだ必要?
~そろそろ図面優先からモデル優先のBIM活用へ~
2025.01.21
パラメトリック・ボイス 日本設計 吉原和正
以前のコラムでも触れましたが、実施設計での設備図作成を目的としたBIM活用には、合理化
とは程遠い状況がまだまだ残っていたりします。
一応、従来の図面表現に近い形でBIMから図面を作成することもでき、実物件での実例も出て
来ていますが、作図だけを取り出すと、CADよりも手間がかかってしまっているのが実情では
ないかと思います。
BIMデータの作成プロセスは、線でいきなり図面作成を行うCADと違って、モデリングという
作業と、ドキュメンテーションという図⾯化の作業の2段階に分かれ、オブジェクトで建物の
設備モデルを最初に構築して調整した上で、そのモデルから整合した各種図⾯が⽣成される流
れになる訳ですが、このドキュメンテーションという図⾯化の作業において、2次元の平面図
で人に見やすくするための、従来の図面表現に合わせる手間が相当掛かっている訳です。
その中で、特に手間が掛かっているものに、設備図特有の矢羽という図面表現があります。
これは、各階のダクトスペースや配管スペースをたてに貫く、たてダクトやたて配管を、斜め
の線を付け加えて平面図上で表現するための日本独自の図面表現なのですが、BIMモデルを見
れば把握できるのに、2次元の平面図だけで人が把握できるように(たてのサイズは系統図で
拾えるのに)、わざわざこのような図面表現で作図せざるを得ない状況が残っていたりします。
その他にも、横引きのダクトや配管が交差する部分での陰線処理の図表現や、ダクトや配管の
継手シンボルの図表現、図面縮尺に合わせた機器・器具シンボルの倍率調整、などなど、設備
図はシンボル表現を多用しているため、実物を現すBIMモデルとの相性が良くなかったりする
わけです。
更に、BIMで干渉チェックを行い、納まり調整したモデルで図面化すると、2次元の平面図で
はたてに重なったダクトや配管類が見えにくくなったり、単線表示にするとピッチがバラバラ
で見づらい図面になったりと、ドキュメンテーションの際の調整が膨大になってしまいま
す(なので、現状は少なくとも末端は2次元加筆を多用して図面優先で進めるべきだと思って
います)。
また、従来の図面構成では、1枚の図面にモリモリに色んなものを詰め込んで図面を作成して
いることもあり、大規模建物の場合には、A1で1/200の縮尺で見やすくするための、更なる
工夫を施す必要があったりと、そこにやたらと手間が掛かっている状況があります。
そろそろ、図面優先からモデル優先のBIM活用へ
PDFが主体のBIM図面審査までは、この手間はある程度我慢しながら対応せざるを得ないかも
しれませんが、その先のBIMデータ審査の時代には、この図面の呪縛を解き放ち、BIMに適し
たあるべき改善を図っていくべきだと思う今日この頃です。
それまでは、せめて、タブレットでPDF図面を確認することが主体になってきている実情も踏
まえると、白黒印刷前提といった固いことは言わずに、カラーを多用した図面を許容頂ける
と、BIMから出力した図面も劇的に見やすくなるので、そろそろこの点だけでも許容して頂き
たいものです。
将来、BIMがモデル優先で扱われるようになったとしても、図面が無くなるとまでは考えてい
ませんが、モデルと図面の程良いバランスを目指して、そろそろ考え始めても良い時期に来た
のではないかと思っているところです。