あっちもこっちもそっちも祭りだワッショイ
2025.02.13
パラメトリック・ボイス 竹中工務店 / 東京大学 石澤 宰
でんぱ組.incというアイドルグループがエンディングを迎えたことについて、ここで書くと
湿っぽいというか、何か取り扱いの難しい話になってしまうかなと思っていたのですが、だか
らといって私が書かずに誰が書く!という謎の自負もありまして、その話をひとつ。大丈夫で
す、ここはArchiFuture Webのコラムであることはちゃんと心得ております。
でんぱ組.incの活動は先日、2025年1月5日の幕張でのライブを以て幕を閉じました。そこに
至るまでに様々なところで関係者が少しずつ情報を明かしてきましたが、中でも印象的だった
のはプロデューサ福嶋麻衣子氏の「ちゃんと解散すればどこかでまた一夜限りの再結成とか、
そんなのいくらでもできるからね」という一言でした。続けることも選択なら、美しく終わっ
てまた新しく育つ芽を愛おしむことも選択、ときどきサプライズを企てて楽しむのも選択と、
何か目が醒めるような思いがしました。
他のアイドル現場をあまり知らないので比較はできないのですが、それでも確かに感じること
として、でんぱ組.incのライブに集うヲタクたちはとても温和で親切な人たちばかりで、しか
も時に底知れない行動力を持っているのが特徴です。抽選のグッズの交換に快く応じ、みんな
で企画した集合写真に参加し、お互いに製作したフラワースタンドなどさまざまな制作物を褒
め合う。
この感覚、誰にも何も指示などされていないのに、それぞれが持ち場で生き生きしている、あ
るいは一介の参加者としてそれらを眺めてひそかに心を踊らせる感覚、というのはどこから来
るのだろうか、と他のひとと話していて、中学や高校の文化祭あたりじゃないか、という話に
なったのは印象的でした。みんなで何かを作る、時間的な終わりはあるが、何かどこまででも
つながっていけそうな感じがする、というような感覚は、そういえば文化祭のときに感じたこ
とと近かった気がします。
私の所属する竹中工務店という会社の新卒社員は、最初の1年間を同じ寮で過ごすのですが、
その間に寮祭と呼ばれる近隣にも開かれた文化祭があります。業務時間の合間を縫って企画や
製作を進める間に寮生同士が打ち解け、互いの隠れた実力や才能に唸るという機会にもなって
います。あちこちでなんやかんやと出来事が起きて、それがとにかく詰め込まれている感じ。
祭です。
ちなみにでんぱ組.incのライブ本編の方について書き始めるとどれだけ紙幅があっても足りな
いので詳しくはライブレポートなどご高覧いただきたいのですが、ひとつだけ書くとするな
ら、最後の曲ではお祭り騒ぎのように踊る彼女たちが音楽の鳴るまま会場を後にし、祭りが
ずっと続いているような、夢を見ていたような不思議な感覚になった人が多くいたようでした。
私もそうでした。その底抜けに明るい演出に救われて次の日の月曜日にちゃんと出勤でき、社
会人としての責務を果たすことができました。
地域の祭に子どもを連れて参画していると、そこには実行委員がいて、彼らが骨身を惜しまず
準備をするから祭りの場があるし、彼らが片付けるからもとに戻る、ということを強く感じる
ようになりました。祭りは誰かが仕掛ける、誰かが作る、たくさんの人が来て、そして誰かが
片付ける。この誰かは、大きい人数のこともあるけれど、それでもチームと呼べるようなひと
塊の人々が束になってやるものであって、すごく多くの人がワチャワチャとしていたら勝手に
祭りになった、ということはおそらくないのでしょう。
デレク・シヴァーズのTEDトーク「社会運動はどうやって起こすか」を思い出します。芝生
の丘で踊っていた少年一人があっという間に祭りの中心になっていくこの動画はいつ見ても
ちょっと笑ってしまうのですが、本当にこれ以外に祭りの起こし方などないのだろうという
気もしてきます。
マネジメント業務の比率が高くなると、定常業務の保守管理が重大な任務になってきて、新し
い何かを仕掛けるということを忘れそうになります。そういう意味において、大きなイベント
ごとを企画するということには意味があると感じるようになりました。コロナを経て、会社や
所属団体にまつわる行事が大きく見直され、減ったりなくなったりしたものも多くある昨今、
選択制であっても何かを企画し、楽しみつつそこに何かを投じたり人と協力したりするイベン
トごとを作るという、その動機と行動力はちゃんと発揮できるようにメンテナンスしておきた
い。
社内でデータ活用に取り組んでいる人々が部門や支店を越えて集うミートアップが昨年実施さ
れ、「Microsoftアカウントとして知っていた人とリアルに会う」という機会が想像以上に意
義深いということを改めて知りました。小さな祭をやり慣れておく、というのは悪くないもの
のようです。
そんなわけで、でんぱ組.incの活動には終止符が打たれたわけですが、メンバーはその後もそ
れぞれ精力的に活動しており、ソロとしてのイベントごともあり、知り合ったヲタク各位も元
気そうにしていますので、当座私は「でんぱ組.incを推す」という看板を降ろさずに参ろうと
思っております。「夢で終わらんよ」「行くしかない!」など名言の多いでんぱ組.incの楽曲、
今はこれを引用して中締めとさせていただきます。
「私たちも まだ夢の途中 だから みんなに 恥じぬよう 全速力」(ドキ+ワク=パレード!)
ちなみに当社の社員は宴席の中締めなどで「宴も竹中工務店ではございますが」と発言するこ
とがあります。本当です。はじめての方はどうか驚かれませんよう。