快適の可視化~ICTによる次世代の空間マネジメント
2025.02.20
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
居心地の良い場所を見つける
近年、年間を通して暑い日が多くなっている。さらに、先日のような寒波による大雪を経験す
ると、空調の整った屋内で過ごす時間はますます増えていく。最近のデータによると、人が交
通機関を含めて屋内で過ごす時間は80%を超えるという。これにより、建築においても密閉
度が高く、外部と遮断性が強い空間のニーズが高まることも理解できる。しかしながら、人は
長時間閉ざされた空間にいると、本来の自然や健康を求める感性が働くのだろう。半屋外のよ
うな空間のある建築に出会うと、なぜかホッとすることがある。
居心地のよい「場の仕組み」
ところで、皆さんは、働く場や自宅に「居心地の良い場所」はありますか?
一年前に引っ越した新オフィスは、3層の吹き抜けを持つ開放的な大空間であるがゆえに、場
所によって室温も異なる。しかし、温湿度や光のデータをリアルタイムで取得し、それらを
分析することで、実際には快適な場所が多様に存在していることが瞬時に分かる。
快適さの感じ方は人によって異なるが、自分に合った場所は必ずどこかに存在する。温湿度だ
けでなく、風・光・緑・音といった要素が微妙に絡み合い、さらに周囲の空間を構成するマテ
リアルの持つ肌触り感も重要な要素となる。
このように、詳細なセンシング分析からは、採光の動きなどに応じて、快適な場所は時間とと
もに移動していることもわかる。そのため、時間の経過とともに自分の居場所を変えることが
できる「場の仕組み」が整っていると、気分をリフレッシュしながら過ごすことも可能になる。
この一年間の経験を通じて、自主的に居場所を選び、自由な働き方を実現できる環境こそが
「自立的な快適な場づくり」につながることを実感した。同時に、それによっておこるウォー
カブルな活動も約25%増加したことで、働く場の活力も高まったことを併せて実感している。
これを可能にしたのが以下、「IoT空間評価分析システム」である。
IoT空間評価分析システムによる「快適の可視化」
働く場や自宅においても、誰しも自分にとって居心地の良い場所を見つけたいものだ。温湿度
データを参考にしつつ、外光の心地よさや、その時の目的に合った空間を「快適そうだ」と感
じる場所を探せる「仕組みを持つ」ことが、自分にとっての最適な環境の居場所を見つけるこ
とを可能にする。
もう一つ重要なことは、人の感性や目的によって求める環境は異なる。空調が効いた空間を好
む人もいれば、半屋外のような開放的な空間を求める人もいる。ここで、重要なのは「選択肢
があること」だろう。例えば、私たちの働く場にも非空調空間があるのだが、そこでは窓を開
けることで風が通り、自然な心地よさを感じることができる。外部の喧騒が適度に入り込むこ
の「テラス」と呼ばれる空中土間空間は、好んで人が集まる場になっている。
この選択を可能にするのが「IoT空間評価分析システム」である。各所に配置した独立型セン
サーが温湿度などの情報を取得し、体感温度評価指数「SET*(気温、湿度、放射温度、気流、
着衣量、代謝量の6要素の組み合わせ換算)」を用いて、それぞれの場所の快適性を直感的に
可視化する。客観的に快適な場所を見つけることができる仕組みなのである。
さらに、逐次蓄積された温湿度、空調運転状況、電力使用量などのデータ分析を通じて、クラ
ウド化による空間の制御やアルゴリズムに基づいた運営が可能になる。もちろん、最適なコス
トパフォーマンスを実現するように設計されている。
このように快適さを可視化する「IoT空間評価分析システム」は、快適な働く場を創出するだ
けでなくエネルギーやLCC(ライフサイクルコスト)の低減にも寄与し、効率的な高付加価値
の場を作り出す次世代型の環境マネジメントシステムとしての可能性も秘めている。さらに、
今後はAIを活用した自動調整機能や、個人ごとの快適性を学習するシステムの導入など、
さらなる進化が期待される。
*IoTエネルギーマネジメントに関するLCC縮減、脱炭素は以前のコラム「リアルな建築から
デジタル空間情報を取得するプロセス」を参照されたい。