明確な目的を持ったBIM化とデータ共有で目指す
現場生産性の飛躍的向上<三建設備工業>
2025.03.13
空気調和設備や給排水衛生設備の設計・施工・メンテナンスを主な事業とする、三建設備工業。
同社では建築設備の設計と施工に関わる管理システムを、NYKシステムズの建築設備3次元
CAD「Rebro(レブロ)」を中心に構築した。この管理システムでBIMモデルに含まれるデー
タを見える化することで、現場の進捗管理に役立てている。
また、発注や工事費の管理についても同システムを用いて効率化を進め、さらにRFIDの導入
も進めている。同システムの開発にあたって鍵となったのは、Rebroの特性を最大限に生かす
ことだったという。
開発に関わった三建設備工業 DX推進本部 DX推進部の日比俊介氏と内田泰斗氏に背景と経緯、
そして、現状と展望について伺った。
三建設備工業株式会社
DX推進本部 DX推進部 主査 日比 俊介 氏
三建設備工業株式会社
DX推進部 内田 泰斗 氏
BIMモデルのデータをCSV形式で活用し現場を可視化する
三建設備工業が構築したのは、BIMモデルの図面データをCSV形式で入れるとデータが加工さ
れ、現場の進捗や材料の発注状況などが見える化するシステムである。BIMモデルのデータを
利用し、部材の属性・ステータスを書き換えていくことで進捗管理などさまざまな場面で活用
でき、さらにはデータを循環させて運用することができる。このシステムを考案し開発したの
は、同社で数多くの現場を経験している日比俊介氏とエンジニアの内田泰斗氏だ。3年ほど前
にRebroを導入し運用を始める際、BIMのデータを進捗に応じて書き換え、循環的に運用する
α版の開発に着手した。
α版のフローのイメージ
日比氏は「Rebroは、情報をCSV形式で入出力することが手軽にできる点で際立っています。
特に設備業ではBIMに描かれている部材を組み付けて施工していくので、Rebroにある加工な
どの情報がダイレクトに出せることは扱いやすく有利でした」と振り返る。
Rebroを起点とし、図面データをCSV形式でMicrosoftのPower QueryやPower Automateな
どのツールを使いながら、必要なデータを抽出して合成・分解することで、循環させる仕組み
をつくり上げた。「誰でも構築できる汎用的な構成にしています。トライアル&エラーがしや
すいようにシステムを構築しました。現場員には新しい作業が発生して負荷が増えないように
気をつけ、得られる効果を社内に訴求しました」と日比氏は続ける。α版ではCSV形式のデー
タを複数出力するかたちで自分が所属する名古屋の現場で適用していったが、BIMから書き出
すCSVデータを1つとすることで現場員の負担を軽減するβ版を構築し、1年ほど前から全国の
現場に展開している。
日比氏が構想し、主にインターフェースの開発に携わったのは内田氏である。「従来は、例え
ば配管をメーターやトンの単位で扱っていたものを、個数で定量化していく仕組みにするのに
はBIMが適しています。1つずつのユニークな部材にすることが、BIMで可能になるからです。
それらの部材に対して、進捗や施工のパラメータを付与したり、パラメータを書き換えたりす
ることで、工事の進捗や資材の発注状況についての見える化につなげていくことが可能になり
ます」と説明する。
β版のフローのイメージ
現場に関わる広範囲の人員が情報を共有できる
日比氏は「三建設備工業はBIMをどう扱うかではなく、現場から離れたオフサイト化を実現す
るためにBIM化をしています」と語る。同社では施工現場だけでなく、現場より少し上流の課
長、工事長、部署長、また支店側のバックオフィスの管理するスタッフが、BIMデータを活用
することであらゆる現場の情報を単一のかたちで見ることができるイメージがある。
「資機材の発注状況や施工状況などのステータスの可視化を実現しています。その際、誰が見
るかをポイントにしました」と日比氏は語る。RebroのデータをCSV形式でシステムに入れ、
希望日を設定することで、施工現場のエリアごとの資材をいつ納品したいと代理店に発注する
アクションが行われる。
「Rebroでは、図面作成時に特定の条件にもとづいて定義づけができる仕組みがあり、代理店
の取扱いコードが裏で紐づくため、そのデータをメーカーなどに送れば代理店はこれまでの曖
昧な表現の文字での発注と違い、迷うことなく発注できます」と内田氏はいう。日比氏も「代
理店側でもベテランの社員が減り、俗称や暗黙的な記号の変換でエラーが起こることが多く
なってきました。我々サブコン側で、間違いなく発注する仕組みをつくることに注力しました」
と背景を語る。
Rebro上での代理店コードのリンクの作成
そして、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きする「RFID」という自動認識シス
テムを用い、進捗管理の作業を簡便にすることも導入した。例えばプレカットした配管に
RFIDタグを貼った状態で納品してもらい、施工が完了した配管のタグは作業員に事務所へ持
ち帰ってきてもらう。それらのタグをリーダーで読み取ると、システムでは「未施工」から
「施工」のステータスに書き換わり反映される。「ユニクロの無人レジのように、1つずつで
はなく同じ動作のアクションを複数のタグに簡便に実行できるのが大きなメリットです」と
内田氏はいう。
施工の進捗を誰でも見られるようにするメリット
システムでは、発注と施工の状況が自動的にデータから吸い上げられて見えるようになる。
「職人が現場に1日でどれだけ入ったかという労務情報、また労務単価などのベースの情報を
加えることで、必要な施工の総量に対してどれほどの人工が必要であり、施工日数がどれほど
かかるかの予測を出すことができ、フロア単位の分類別で加工の数量や費用の算出ができます。
こうした情報はこれまで属人的なやり取りが主体で、管理側からするとつかみづらいものでし
た。本システムでは一旦書いた図面をシステムに放り込むことで、さまざまな金額が即座に出
てきて把握できるので好評です」と日比氏はいう。
進捗管理では、ベースとなる情報に現場の情報をまとめてPower BIでグラフ化し、それを
Rebroに戻して図面上で視覚化することもできる。例えば「未施工分」というボタンをクリッ
クすると、図面で未施工の範囲に限定されて色分けされ、人工や施工日数が再計算される。
「再計算された日数が10日と出て、建築側から8日以内に完了させてほしいと言われているよ
うであれば、人工数を増やすといったアクションにつなげていくように、直感的かつわかりや
すく現場員でも使える仕組みになっています」と日比氏は語る。算出されている歩掛りと1日
の施工量と見比べて、ペースが落ちている場合には原因の分析にも役立てることができる。
Rebroの3Dモデルと進捗率グラフの連携
現場に応じて状況を把握できる点にも、日比氏と内田氏はこだわった。「現場の施工状況は、
QRコードをスマートフォンで読み取れば、業者や作業員が誰でも見られるようにしています。
この時、データの羅列がただ見えたとしても意味がなく、それぞれの立場でどのような情報を
どう見たいのかによって見せ方を変えています。例えば、配管の施工状況がわかり、次工程の
自分たちはいつからそのエリアに入って仕事ができるのかといった情報を見られるようにして
います」と内田氏。日比氏は「新入社員であっても、協力業者との打ち合わせでは数値にもと
づいて工程を進めることができるようになりました」と成果を語る。
平面図のQRコードの読み取りイメージ
「現場の生産性が20年前から変わっていません。それは、ナレッジの問題が大きかったので
す。データを共有して活用していくことで、現場の生産性は飛躍的に向上すると考えています」
と日比氏。
将来的にはシステムやデータを協力業者にも共有したいと日比氏は考えている。「少なくとも
自社の情報は可視化して毎日どのような状況かを把握できる方が、間違いなく生産性が上がる
はずです。協力業者や顧客を含めたステークホルダーに三建設備工業ならではの安定した品質
を届けることができますし、最終的には、データ共有のエコシステムをつくるためのプラット
フォームに当社がなっていきたい」と力強く語った。
「Rebro」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。