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コラム

実務に即した合理的なBIMオブジェクト整備のあり方

2025.03.21

パラメトリック・ボイス                  日本設計 吉原和正

設計実務のど真ん中でBIMを使って行くと、実務との溝で使いづらい場面が度々出てくること
があります。特にオブジェクトについては、BIMがオブジェクトの集合体である特徴を有して
いることからも、これが実務の実態とかけ離れたものになっていると、せっかくBIMを活用し
ても不効率に陥りかねません。

BIM黎明期には、BIMオブジェクトがベンダーやメーカーから提供されないことが、BIMに取
り組めない言い訳に良く使われてきましたが、最近は各所からBIMオブジェクトが提供されて
きており、このような課題は解消に向かいつつあると感じています。

最近では逆に、様々なチャンネルからBIMオブジェクトが大量に提供されてきたことにより、
どれを選択したら良いのか迷ってしまうことの方が課題なのかもしれません。
また、大手メーカーを中心に大量にオブジェクトが提供されているジャンルがある一方で、中
小メーカーや、受注生産品として提供される機種のオブジェクトについては、未だに提供の目
処もたっていないというまだら模様の様相が、実務の現場に混乱を生じさせているようにも感
じます。

実務でBIMを使い込んで来れば来るほど、BIMの本質が3Dでの干渉チェックではなく属性情報
の有効活用にあることに気づくはずで、その理解が浸透するにつれ、オブジェクトについても
形状の詳細度表現を目的にしたものを大量に整備するのではなく、汎用的な形状表現に留めた
パラメトリックなオブジェクトを厳選して整備した上で、そのオブジェクトにインポート可能
な属性情報値(パラメータバリュー)を整備する方が重要であることに気づくはずです。

特に設備分野においては、大量の機種が存在し、既製品だけではなく建物ごとにその与条件に
よってカスタマイズする受注生産品も大量にあるため、これらを厳密な形状で毎度毎度BIMオ
ブジェクトを作成していたら、それだけで採算割れに陥りかねませんし、設計者や施工者の立
場としても正しいオブジェクトを選択する手間がかかってしまい、非合理極まりないと言わざ
るを得ません。

既に複数のメーカーからBIMオブジェクトが提供されているパッケージエアコンや、給湯器、
衛生器具、照明器具などは、設計者や施工者がそれほど無理なく選択することができますが、
例えばファンやポンプなどなど形式や能力、仕様に応じて、何千何万種類の中から選ばないと
いけないものについては、メーカーにとってもユーザーにとっても無理のないBIMオブジェク
トの整備方法で進めていかないと、社会基盤として長続きさせることはできません。

そのような観点から、設備BIM研究連絡会ではJapan Revit User Group(以降RUG)とも連携
メーカーのある程度の形状を表現可能で施工でも十分活用可能な「施工用標準オブジェク
ト(施工用ジェネリックオブジェクト)」の試作品を作成し、ファンやポンプメーカーとの調
整を始めてくれています。これは、仕様情報だけではなく形状情報も含めてパラメータで管理
できるようにしたもので、そのパラメータを元にパラメトリックに形状を調整可能なBIMオブ
ジェクトになっています。

設計においては元々、メーカーオブジェクトだけではなく、パラメトリックなジェネリックオ
ブジェクトを利用していますが、このジェネリックオブジェクトのラインナップの在り方に
よっても、実務で使いやすいかどうかが変わってきます。
BIMを実施設計以降で使う場合には、設計内容も具体的に決まってきているタイミングなの
で、どの機種・形式の、どの能力のオブジェクトを選択したら良いのかを決めることができま
すが、設計初期の基本計画や基本設計時点では、さすがに選択のしようがありません。

RUGから提供されている設備のジェネリックファミリ(オブジェクト)ではファミリ名を機
器の呼称や形式、タイプ名を能力というルールを基本に整備してきたため、このような設計初
期の活用においてフィットしないことが見えてきています。
この課題を解決するために、ジェネリックファミリよりも更に汎用的な、通称ジェネリック
ジェネリックとRUGの一部メンバーで呼んでいたりする、「汎用オブジェクト」を整備して活
用していこうと考えていますこれは形状については相当割り切って外形寸法の幅・奥行・
高さだけの直方体で扱うようものにしたもので、性能や仕様情報を中心に利用することを想定
したものになります。

実務の現場では、今までのジェネリックオブジェクト、メーカーオブジェクトという切り分け
方だけでは実態にそぐわない場面が出てきているため、これからは、設計初期から利用可能な
「汎用オブジェクト」と、設計後半から利用する「設計用標準オブジェクト」、そして施工を
中心に活用する「メーカーオブジェクト」と「施工用標準オブジェクト」。これらを、機種の
特性を踏まえながら整備していくことが、設備分野においてBIMを効果的に活用していく上で
重要な取り組みになると考えています。

そして、これらのオブジェクトにインポート可能な属性情報値(パラメータバリュー)を整備
していくことこそ最優先に進めていくべきであると考えているところです。




吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長